13 / 115
レバンゼラ0084
しおりを挟む
今日はギルドにて、アイテム鑑定の仕事。本当は、ガドゼラン魔使具店に注文した品物を取りに行き、その場で調整を受けたかったのだが、鑑定の仕事は実入りが良いので無視はできない。
ギルドにはダンジョンなどから回収されたアイテムが月に一度集められ、大規模な鑑定作業が行われる。もちろん個人的に鑑定屋へ持ち込んでも良いのだが、悪質な鑑定兼買取り業者が少なからず存在し、価値の高いものをガラクタ同然の値段で引き取る輩も多い。
そこでギルドが正当な鑑定をして、冒険者にその価値を伝えるのである。またギルドと取引のある道具屋を紹介するというシステムまで付いている事が多い。
ギルドに所属していない者の依頼品も有料で鑑定するし、所属している者は一定の品数以内であれば無料で鑑定を受けられる。また一定数を越えた場合でも、通常の三割という金額で鑑定が受けられるため評判が良い。
これはある意味、ギルドが冒険者を繋ぎ止めるための方策でもある。最近は一つの都市に複数のギルドがある事も多く、所属冒険者の獲得競争が激しくなっているのだ。そんな状況においてギルドが鑑定を偽れば、そのギルドは信用を失い、所属する冒険者は激減するだろう。これは誰が考えてもわかる事なので、その分、ギルドの鑑定は非常に信頼性が高いとされている。
ここでもボクは重宝されており、賛辞の言葉をもらう事が多いのだが、これとて古文書の解析と同じく”ズル”の側面が大きい。鑑定の肝は知識と経験である。この両者がうまく噛みあって初めて正確な鑑定が出来るのだ。知識、経験、どちらかに偏っていれば必ず手痛い失敗をする事になる。
しかしボクは只でさえ長命の種族の上に、”あの部屋”を利用する事によって通常では考えられないほど長生きをしている。知識と経験が豊富なのは当たり前だ。
皆が黙々と鑑定を済ませていく中、ボクはある一つのアイテムに目が釘付けになった。値打ちとしては大したものではないのだが、このマジカルロッドには見覚えがある。確かに以前、とはいっても数十年前になるが、ボクがある人物に譲ったものだ。柄にはサインの刻みがあり、それは間違いなくボクが彫り込んだものなのである。
かつて封じ込めた魔力はとうの昔に消失しているものの、その名残がかすかに残っているのが分かる。懐かしいなぁ。このロッドの持ち主はもう生きてはいまいが、こうしてボクのところへ舞い込んできた。本当に只の偶然であろう。とても感慨深いものがある。一瞬、この品をボクが引き取ろうかとも考えたが、すぐに思いなおした。
ボクの使命にセンチメンタリズムは必要ない、むしろ邪魔であるとさえ言えるだろう。ただ、そうしている内にいつしか人間性を失ってしまい、オリジンと同じような思想に取りつかれてしまうかも知れない事が恐ろしい。
そう思いながら、ボクは思い出の品を”鑑定済み”の箱へと投げ込んだ。
一日の鑑定仕事を終えて感じたのは、明らかに以前に比べて魔使具の類が多くなってきた事だ。冒険者が落としたものを魔物が拾ったり、場合によっては冒険者を殺して奪ったものであろう。それだけ魔使具が世の中に普及してきた証拠だと思う。
実はこの事について、ボクには一つの考えがあった。これはオリジンの計画の表れではないかとの疑問だ。
魔使具、昔は魔道具と呼ばれていたアイテムだが、本来は魔法使い以外の冒険者、ましてや一般人が扱うものではなかった。しかしある時、革新的な発明によってその立ち位置が覆される事になる。
それまでの魔道具は、正に魔法の専門家でなくては扱えないものであった。というのも魔道具に封印する術式が非常に複雑な上に、使用に関しても魔力を持っている事が必須だったからである。
だがそれを覆したのが「レバンゼラ0084」という術式だ。それまでの複雑な術式を体系化し、ある程度以上の知識があれば魔道具に封印できた。またそれにもまして画期的だったのが”物理スイッチによる起動”を可能にした事である。
それまでは起動に魔力を使っていたので、魔道具は魔法使いにしか扱えない代物であった。しかしスイッチ起動を実現する事により、魔力がない者でも魔道具が扱えるようになったのである。
魔力のない者でも”使える”という大きな変貌を遂げた事により、その後、魔道具は”魔使具”と呼ばれるようになった。そして爆発的に普及していく事となる。
オリジンは常々、魔法使いの特権意識を非常に嫌っていた。魔法を使えるというだけで世の中で破格の待遇を受け、魔法を使えない者を侮蔑する者も少なくない。彼はそんな状況を大変憂いていた。
魔使具の登場は、オリジンが望んだ世界に一歩近づいた事になるのではないか。事実、魔使具の登場以来、魔法使いの特別待遇は少しずつ減衰している。
ただ大いなる普及は、良い事だけをもたらしたわけではなかった。一般人が魔力の封じられた道具を使える事により、違法な魔使具も出回って、それが犯罪に使われる事態が多発している。
また戦争の道具にも使われるようになった。昔は戦争に魔法の力を用いる時は、それこそ魔法使いが前線に立って戦っていたものだ。しかし魔使具の登場により、一般兵士でも魔法による攻撃が可能になった。これは戦争の激化につながり、庶民がより苦しむ結果につながったのは間違いない。
もしこの事がオリジンの行動が招いた結果であるならば、ボクたち三兄弟の使命は今のところ失敗している事になる。それを確認するにはオリジンに会い、直接問うてみるしかないのだが、現在に至るまで成功していない。
一人の力では世の中を動かせないというけれど、オリジンは一人で世界を変貌させている可能性がないとは言い切れないのである。そんな彼を、ボクら三人が止める事が出来るのだろうか。
鑑定後に行われる報告会を済ませた後、いつもであれば数人の鑑定仲間と酒を酌み交わすのが常であったが、今日は体調不良を理由に断り早々に家路についた。
久しぶりに星がきれいな夜だった。
ギルドにはダンジョンなどから回収されたアイテムが月に一度集められ、大規模な鑑定作業が行われる。もちろん個人的に鑑定屋へ持ち込んでも良いのだが、悪質な鑑定兼買取り業者が少なからず存在し、価値の高いものをガラクタ同然の値段で引き取る輩も多い。
そこでギルドが正当な鑑定をして、冒険者にその価値を伝えるのである。またギルドと取引のある道具屋を紹介するというシステムまで付いている事が多い。
ギルドに所属していない者の依頼品も有料で鑑定するし、所属している者は一定の品数以内であれば無料で鑑定を受けられる。また一定数を越えた場合でも、通常の三割という金額で鑑定が受けられるため評判が良い。
これはある意味、ギルドが冒険者を繋ぎ止めるための方策でもある。最近は一つの都市に複数のギルドがある事も多く、所属冒険者の獲得競争が激しくなっているのだ。そんな状況においてギルドが鑑定を偽れば、そのギルドは信用を失い、所属する冒険者は激減するだろう。これは誰が考えてもわかる事なので、その分、ギルドの鑑定は非常に信頼性が高いとされている。
ここでもボクは重宝されており、賛辞の言葉をもらう事が多いのだが、これとて古文書の解析と同じく”ズル”の側面が大きい。鑑定の肝は知識と経験である。この両者がうまく噛みあって初めて正確な鑑定が出来るのだ。知識、経験、どちらかに偏っていれば必ず手痛い失敗をする事になる。
しかしボクは只でさえ長命の種族の上に、”あの部屋”を利用する事によって通常では考えられないほど長生きをしている。知識と経験が豊富なのは当たり前だ。
皆が黙々と鑑定を済ませていく中、ボクはある一つのアイテムに目が釘付けになった。値打ちとしては大したものではないのだが、このマジカルロッドには見覚えがある。確かに以前、とはいっても数十年前になるが、ボクがある人物に譲ったものだ。柄にはサインの刻みがあり、それは間違いなくボクが彫り込んだものなのである。
かつて封じ込めた魔力はとうの昔に消失しているものの、その名残がかすかに残っているのが分かる。懐かしいなぁ。このロッドの持ち主はもう生きてはいまいが、こうしてボクのところへ舞い込んできた。本当に只の偶然であろう。とても感慨深いものがある。一瞬、この品をボクが引き取ろうかとも考えたが、すぐに思いなおした。
ボクの使命にセンチメンタリズムは必要ない、むしろ邪魔であるとさえ言えるだろう。ただ、そうしている内にいつしか人間性を失ってしまい、オリジンと同じような思想に取りつかれてしまうかも知れない事が恐ろしい。
そう思いながら、ボクは思い出の品を”鑑定済み”の箱へと投げ込んだ。
一日の鑑定仕事を終えて感じたのは、明らかに以前に比べて魔使具の類が多くなってきた事だ。冒険者が落としたものを魔物が拾ったり、場合によっては冒険者を殺して奪ったものであろう。それだけ魔使具が世の中に普及してきた証拠だと思う。
実はこの事について、ボクには一つの考えがあった。これはオリジンの計画の表れではないかとの疑問だ。
魔使具、昔は魔道具と呼ばれていたアイテムだが、本来は魔法使い以外の冒険者、ましてや一般人が扱うものではなかった。しかしある時、革新的な発明によってその立ち位置が覆される事になる。
それまでの魔道具は、正に魔法の専門家でなくては扱えないものであった。というのも魔道具に封印する術式が非常に複雑な上に、使用に関しても魔力を持っている事が必須だったからである。
だがそれを覆したのが「レバンゼラ0084」という術式だ。それまでの複雑な術式を体系化し、ある程度以上の知識があれば魔道具に封印できた。またそれにもまして画期的だったのが”物理スイッチによる起動”を可能にした事である。
それまでは起動に魔力を使っていたので、魔道具は魔法使いにしか扱えない代物であった。しかしスイッチ起動を実現する事により、魔力がない者でも魔道具が扱えるようになったのである。
魔力のない者でも”使える”という大きな変貌を遂げた事により、その後、魔道具は”魔使具”と呼ばれるようになった。そして爆発的に普及していく事となる。
オリジンは常々、魔法使いの特権意識を非常に嫌っていた。魔法を使えるというだけで世の中で破格の待遇を受け、魔法を使えない者を侮蔑する者も少なくない。彼はそんな状況を大変憂いていた。
魔使具の登場は、オリジンが望んだ世界に一歩近づいた事になるのではないか。事実、魔使具の登場以来、魔法使いの特別待遇は少しずつ減衰している。
ただ大いなる普及は、良い事だけをもたらしたわけではなかった。一般人が魔力の封じられた道具を使える事により、違法な魔使具も出回って、それが犯罪に使われる事態が多発している。
また戦争の道具にも使われるようになった。昔は戦争に魔法の力を用いる時は、それこそ魔法使いが前線に立って戦っていたものだ。しかし魔使具の登場により、一般兵士でも魔法による攻撃が可能になった。これは戦争の激化につながり、庶民がより苦しむ結果につながったのは間違いない。
もしこの事がオリジンの行動が招いた結果であるならば、ボクたち三兄弟の使命は今のところ失敗している事になる。それを確認するにはオリジンに会い、直接問うてみるしかないのだが、現在に至るまで成功していない。
一人の力では世の中を動かせないというけれど、オリジンは一人で世界を変貌させている可能性がないとは言い切れないのである。そんな彼を、ボクら三人が止める事が出来るのだろうか。
鑑定後に行われる報告会を済ませた後、いつもであれば数人の鑑定仲間と酒を酌み交わすのが常であったが、今日は体調不良を理由に断り早々に家路についた。
久しぶりに星がきれいな夜だった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~
名無し
ファンタジー
突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

ドラゴンの遺産
ログ
ファンタジー
エリナリアの大地には、古代のドラゴンが残した強大な遺産が隠されていると言われている。
この遺産の力を手に入れれば、世界を支配することも可能だという。
物語の中心には、エリナという名の若き少女が立つ。
彼女はある日、自らがドラゴンの遺産の鍵を持つ者であることを知る。
一方、遺産を狙う者、遺産を守る者、遺産の真実を知る者たちが彼女の周りに集まり始める。
彼女を守る傭兵アルデン、謎の魔法使いリリア、そして野心的な王子ダリオ。
彼らとともに、エリナは自らの運命と直面し、ドラゴンの遺産の真実を追い求める冒険に挑む。
友情、裏切り、愛、そして戦いを経て、エリナは真の運命を受け入れることができるのか。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
セオリー通り?の王太子と救いの娘
日室千種・ちぐ
恋愛
古の森の娘ユーラは、使命を持って叔父と一緒に生まれて初めて人の国へと旅立った。山脈と古き森に抱かれ外界と隔絶されたその国では、王太子である息子に相応しい妃をと、王妃が国中から年頃の令嬢たちを招待していた。だが王太子リューセドルク本人は、くだらない催しだと興味がない。彼は、昔森の民から国に託された大切な竜たちが、この数年衰弱していることに頭を悩ませていた。竜について情報を得るためだけに、リューセドルクは代々森と交流を保つ辺境領の領主の娘と接触しようとする。だがその娘は、辺境から城まで同道したユーラたちを何故かひどく嫌っていた。一方ユーラは、王城で竜を探すうちに見かけたリューセドルクを、自らの運命の相手と確信する。だが、リューセドルクは竜のことのみならず、母から押し付けられる理想の王太子像に辟易し、疲弊していた——。
王太子と彼を救う娘の定石通りの物語、けれども実は、誰もが悩み、誰もが臆病で、そして誰かを想っている。
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる