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会長を中心に世界が回る5
しおりを挟む「それは理由になっていません」
すぐその場を離れたい佐城なのだけど、言い返すことはしたい。
「ははっ、まあな。なんとなくなんだよ。…嫌か?」
「それは…」
そんなふうに言われては嫌だとはっきり言いづらい。それを青井が計算して言ったのではないかと考えても、それでも駄目などとは言えない。
「ちょっと近すぎますよ。離れてください」
「ああ」
少しだが素直に距離をとった青井。これで隣にいることを許された。
袋からパンを取り出した青井は大人しく食べていて、それを確認した佐城も食事を再開する。
しばし2人に会話はなかったが、パンを2つほど食べ終わった青井が話題を出す。
「噂で聞いたんだが、会長の弁当も作ってるとか」
「……ついでに作っているだけですし、毎日はしてませんよ」
さすがに自分のほうがついでですとは言わない。
「ふーん?」
青井は意味ありげな表情で佐城の弁当をじっと見る。
「な、なんですか」
「うまそうだな。食っていいか?」
「え。なんで」
「ほら。パンやるし」
佐城は了承していないのに青井はパンを投げてよこす。
「パン一つで私の料理が同等だとでも?」
「だから、これ一つでいい」
そう言って青井は卵焼きをひとつ摘んで口に入れた。
「うまいな。やっぱり愛情こもってるからか?」
「…そうですね。愛情も大事な要素だと思いますよ」
さぐるような言葉に佐城はあっさり答えた。これでは、この閉鎖的学園では誤解を生むのだが、隠すようなことではない。
「へえ、愛情ね。大事なんだ、会長が」
「まあ、そうです」
「は、妬けるなあ」
「はい?」
まさか家墨狙いかと佐城は青井を睨む。その視線の意味が分かった青井は弁解する。
「まさか。俺も命がおしいからな。興味本位でも会長を狙ってなんてない」
「一応、そういうことにしておきましょう」
危険人物として覚えたが。
「ああ、それでいい」
不審に思われているのが分かる青井だが、優しい笑顔を佐城に向ける。その真意が分からない佐城は眉を寄せた。
「じゃあまた」
「またはいいです」
間髪入れずつれない言葉を返した佐城にも青井は笑って去っていく。
「なにしにきたんですか。あの人」
考えられるのは生徒会の情報収集だが、よく分からない。
その佐城の想像通り、青井は情報収集をしていた自分の為と、今現在、風紀室にいる男の為に。
その風紀室に戻ってみると不機嫌な風紀委員長がいた。
「よお、アオイ。なんか分かったかあ?」
「弁当の噂は本当だった」
青井が報告すれば、バギャンと破壊音が響く。
その原因は風紀委員長の北義だ。
「あ~。風紀が備品壊しちゃ駄目じゃん」
言葉はたしなめている十根だが、声音は楽しそうである。
「うるせえ。サジョウの野郎、カスミを餌付けしてんのか。卑怯な」
「えー、でも今更じゃない?一年くらい前からカスミ会長のお世話してるって親衛隊の子の証言は手に入ってるし」
「お世話って、どんなお世話だあ!ああ!」
ドガバン!と机が大きく揺れて、その上にあった書類がいくつか散乱した。それを青井が拾う。
「おいキタギ。制御できなすぎだ」
「…わりい。この前カスミに会ったから我慢がきかねえんだよな」
「別に2人とも付き合ってないってはっきり言ってるんだし、焦る必要はないだろ」
「でもさー、イチャつきっぷりは有名でしょ。恋人じゃないにしてもー、それなりに深い関係なんじゃない?あっちのほうとかも、お世話してるかもー」
「おいっ」
面白がってる十根を青井が止めるが、今度は静かだ。逆に気になる2人はゆっくりと顔を動かし北義を伺う。
今にも誰か殴りそうな顔になっている。
なんとか我慢しているようだが、それがさらに怖さを倍増させている。
「あのヤロウ、中等部の頃はそんなにカスミに興味なかったはずなのに、横からとりやがって」
「ええー。委員長も会長とあんまり関わりなかったでしょ」
「うるせえ。とにかく取り返さねえとな」
「アオイどうしよ。キタギいいんちょ妄想激しくなってる」
「よし、アオイ。サジョウのガードを崩す方法とカスミの弱みを探せ!」
犯罪行為を推奨してる言葉ではなく、言い方悪いだけだと青井と十根は分かるが、他の人には聞かせられない。
「…ああ。分かったから、仕事してくれ」
青井が戻るまでしてなかったのは書類の量で分かる。北義は舌打ちしながらも席についた。
それを見て青井も自分の席に座るが、十根がそこに近寄る。
「アオイくんは、なんでそんなに協力的なのかな?…他に目的あるとかー?」
「まあな」
「へぇー」
面白そうと目を細めた十根だが、青井はそれ以上は喋らず、仕事を始めた。
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