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22.口づけ
しおりを挟む翌朝、けたたましいラッパの音で起床したリリアは、非常に息苦しいと言うことに気が付いた。
「はっ? なに、何のラッパ? 敵襲!?」
慌てふためくリリアだったが、起き上がることは出来なかった。
皇帝陛下に、がっしりと巻き付かれていたからだ。
「あっ、陛下! ……おかげんは……?」
皇帝陛下は、やんわりとした笑みを浮かべている。
顔色も良かったし、身体は、暖かかった。
「問題ないよ。倒れたのは、ただの寝不足。……久しぶりにしっかり眠れて、満足した」
実に晴れ晴れと、皇帝陛下は仰せになる。どこか、憑き物でも落ちたようなえみだった。
「あの、戦は?」
「あー、君が寝ている間に、ウィレムス公が夜襲を仕掛けてあっという間に壊滅。今、裏で動いていたニーム国からの使者が到着した合図のラッパ」
「はいっ?」
状況が掴めない。
「実は、深夜、眠りから覚めたんだ。それで、状況を聞いたところ……君が物資を持ってご令嬢と共に慰問に来てくれたし、ウィレムス公がヤル気満々で出征してきたというじゃないか。それで……まあ、色々と面倒になったから、まるっとお願いしてみたんだよ」
「まるっと……」
「戦争と、戦後処理と」
「ああ……そうだったのですか」
「王都をこれ以上空けるのも心配だったし、丁度良い。それと……カミラ嬢からの謝罪も受けた。先日、君に無体をしこうとしたのは、媚薬のせいだと言うことだが……私自身は、それを、強く望んでいる」
リリアの身体を抱きしめる手が、いっそう強くなった。
「へ、陛下……っ」
皇帝陛下の眼差しが、リリアをまっすぐと見つめている。
「あなたは、自分の出自を卑下して、私に釣り合わないなどと言うが、どうして、そんなことが言えたものか。……貧しいものに手を差し伸べ、こうして、戦場にまで物資と援軍を持って駆けつけることが出来る君の、出自がどうとかいうものは、この世に一人も居ないだろう。
そして―――私自身が、君に、ずっと側に居て欲しいと思っている。駄目だろうか」
真剣な眼差しに、吸い込まれそうになる。
ここで、諾、と言っても良いような気持ちもあるが……。
「リリア。お願いだ。私の初恋を、成就させておくれ」
切々と、皇帝陛下は訴える。
リリアは、顔が熱くなるのを感じながら、「そんなことをおっしゃっても」と、視線を外した。
「リリア」
「……良いと言うまで、放してくださらないのでしょう?」
「リリア。……それは、私と結婚してくれると言うこと?」
縋り付く眼差しが、ちょっと、子犬みたいで可愛かった。そんなことを言っても、どうせ結婚の日取りは決まっているのだ。何が何でも、ここでリリアが諾と言うまで、この調子だろう。
「……私で、よろしければ……」
その言葉を聞いたとたん、皇帝陛下の花の顔に満面の笑みが載る。
ぎゅっとさらに強い力で抱きしめられ、リリアは苦しくて息も出来ない。
「リリア。絶対に、一生、私はあなたを放さないからね」
皇帝陛下―――アデルバードからの口づけを受けながら、リリアは、腹をくくった。
ガルシア卿の言葉ではないが、諦めて、溺愛されてやろうと。
薬湯の時は、何でもなかったのに、『初めての口づけ』は、甘くて、甘くてたまらなかった。
了
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外堀の埋め方!
怒涛の追い込み!!
とても面白かったです!!