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短編 あなたはおれの運命の人
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同棲して、しばらく経った頃。
結局、龍士郎はマンションを引っ越す事なく、慧が同居する事になった。
慧はこの龍士郎の家が、自分が仕事をやりとげた部屋で勝手がわかっている事と、気になる細かい所を掃除していたら、愛着がわいたのだという。
慧が持ち込んだものはとても少なく、同棲後に増えたものは、全て龍士郎が慧に買い与えたものだった。
龍士郎としては、もっと高価なものや沢山の物をねだって欲しいのだが、慧がそれを恐縮してしまう。ただ、キッチン周りと掃除用具は、遠慮なく欲しがるので、言われるままに買った。
龍士郎はソレの何が良くて、何で欲しいのかわからないのだが、慧がねだってくれるという事実だけで嬉しかった。
だから、でかいスチームオーブンレンジが来た時も、なんでこんなに大きいのが必要なんだろう、と思ったが口を出さなかった。慧は、憧れていた機械が目の前にあって、とても嬉しそうだった。それでまあ良いかと思うのだから、龍士郎もたいがいである。
そんな二人の部屋に、今日は忍が遊びに来ていた。
「お邪魔するわよ。はいこれ、千代子さんからもお土産」
「いらっしゃい、忍さん」
「わざわざすいません」
二人が同棲してはじめての、忍の訪問に慧は数日前から張り切っていた。
それに仄かに嫉妬していたが、龍士郎もさすがに言いはしなかった。忍が、慧にとっての恩人でどれだけ大切に思っているのか、知っているからだ。
「まー、結構良いとこね。なにアンタ達、スチームオーブンレンジなんて持ってんの。いいわね」
「そうでしょ。めちゃくちゃ便利だよ、これ」
忍と龍士郎をダイニングテーブルの椅子に座らせ、慧はシステムキッチンに向かった。お茶と、今日の為に作っておいたパウンドケーキを用意しているようだ。
一旦、お茶とお菓子を置いて、座るのかと思ったら、慧はまたキッチンにもどり、何やら手を動かしていた。
「慧くん。こっちに来て座りなよ」
それを見かねて、龍士郎が声をかけると、慧は何かを用意しながら、
「いえ、せっかく忍さんが来てくれたんですから」
と言って、また何かを再開した。龍士郎が眉を寄せても、慧は龍士郎を見る事なくそのまま作業を続けていた。
それを見ながら、忍は、
「へー。アンタ達、案外うまくやってんのねー」
と、少しニヤニヤとしながら言った。
その忍の余裕のある態度に、龍士郎は少しイラっとした。それでなくても、自分のsubが自分以外の為に時間を使っているのだ。domなら仕方ない感情だと思う。
なかなか来ない慧に痺れを切らし(といっても時間にして数分なのだが)、龍士郎は、
「慧くん、こっちに来て、座って」
慧に向かって、少し強めに言った。
コマンドの気配を察知し、慧はキッチンから龍士郎を見た。
少し不機嫌そうになっている自分のdomを見て何かを察し、仕方ないなあと苦笑を浮かべながらも、素直にキッチンから出てきた。
そして、なんの躊躇いもなく自然に、龍士郎の膝の上に横向きにちょんと座った。
「あっ」
「?!」
そして、忍の前である、という事を思い出し、慧は一気に顔を真っ赤にした。
座って、のコマンドは龍士郎の膝の上、だと刷り込まれているとはいえ、これは、恥ずかしすぎる。慌てて立ち上がろうとするが、許しを得ていない。勝手には、立てない。
「りゅ、龍士郎、さまっ」
家族同然の忍の前で、これは羞恥プレイすぎる。
慧が抗議の声を上げるが、龍士郎はニマニマ笑ったままだ。
はあん、と、忍はため息まじりの声を上げた。
「ちょと心配だったけど、仲良くやってるようで、何よりだわ」
苦笑しながら二人を見る忍。
慧は必死に、
「龍士郎さま、あの、ほんと、下ろしてっ」
そうお願いするが、龍士郎は、
「だーめ」
楽しそうにそのお願いを、却下した。
慧は、もう打つ手がないと、穴があったら入りたいと両手で顔を覆った。龍士郎は楽しそうに笑っている。
「まぁ、そんなにアタシを牽制しなくても大丈夫よ。アタシも、今彼氏と暮らす話してるから、むしろ慧は此処に居て欲しいっていうかあ」
「えっ、忍さん彼氏さんと暮らすの?!」
今まで隠れるように顔を隠していた慧が、驚いたように声を上げた。そんな慧に、忍はニッと笑う。
「そ。アンタも出て行ったし、丁度いいかと思ってね。あの家、一人で住むには大きいじゃない?」
「そっか……」
顔は笑顔だが、何かを思ったようにすっと表情が暗くなる。それに龍士郎も気づいたが、何も言葉をかけられなかった。代わりに。
「まあ? アンタが喧嘩して帰って来たいっていうなら、いつでも良いわよ。部屋はいくらでも空いてるんだし。でも、アタシと彼氏のイチャイチャを見たら、アンタも帰りたくなると思うわあ」
高らかに笑う忍に、慧は苦笑していた。
これは、龍士郎でもわかった。忍が、あえて慧が負い目を感じなくて良いように、わざと茶化しているのだろう、と。
そんな二人のやり取りに、入りこめない絆のようなものを感じてしまい、ぎゅっと慧を抱きしめていた。
「わっ、龍士郎さま?」
突然抱きしめられ驚いたようだが、それをほどいたり拒否したりはしない。慧だって、ちゃんと龍士郎を特別に想っている。のを知っている。が、知っているがそれと不安はまた別問題だ。
それを見ていた忍が、コーヒーに口をつけ、カップを置いた。そして、二人を見る。
「……秋水さん。この子は、色んな事で傷ついてきました。アタシは、母親がわりに面倒を見てきたつもりでしたけど、こんな風に幸せそうに笑っているのを、見た事ありませんでした。何事も無い平穏、がこの子の幸せなんだって。アタシなりに愛情を注いだつもりなんですけど、それでも、今の慧にはかないません。どうか、不器用なこの子を、よろしくお願い致します」
真剣な顔で、忍は頭を下げた。はらりと髪の毛が下に落ちる。
「忍さん……」
慧は、忍の言葉に思わず口に手を当てた。
恩人の忍に、慧はもちろん感謝しているし、好きだった。
だけど、龍士郎に対する愛はもっと違うものだと、忍はわかっていたのだ。
家族として、家族の幸せを願われている。その事実に、慧は泣きそうだと思った。悲しいんじゃない、嬉しい方だ。
「はい。オレの方こそ、愛想つかされないように、頑張ります。これからは、オレが、慧くんをちゃんと幸せにします」
龍士郎も、慧の腰を抱きながら、頭を下げた。この状況に、どうしていいのかわからない慧。
「あの、おれも、頑張ります……?」
挙句の果てに、よくわからないまま言葉を発し、二人に苦笑されてしまった。
「慧くんは頑張ってるよ。これ以上頑張るのは、ダメ」
「え」
「そーよー、せっかくパートナーが出来たんだから、思う存分甘えなさいよ」
またしても真っ赤になる慧に、二人して笑ったのだった。
帰り際。
「じゃ、またね」
「うん」
「あ、そうだ。明後日出勤したら、一緒に千代子さんの所に行くから、覚えておいて」
「わかった」
「なんで、実家に行くんですか?」
玄関口で業務連絡をしていると、慧の隣にいた龍士郎が疑問の声を上げた。靴を履き終わり、後ろを振り返る忍。
「あら、知らなかった? 秋水家って、ずっとうちのお得意さんなのよ。上得意客だから、アタシが特別に担当してるの。で、お宅が広いから定期的にこうやって、数人で大掃除してるのよ。結構大変なのよ」
忍がなんてことない風に言うと、龍士郎は、抗議するような声を上げた。
「そんな、じゃあ母さんはオレより先に慧くんを知ってたって事? しかも、今慧くんが行ったら、母さんが喜々としてなんやかや慧くんに吹き込むよな。……オレ、明日、慧くんが仕事してる間、実家帰る」
ぶっと噴出した鏑木家に、龍士郎はもう意見を譲る気は無いようだった。
「龍士郎さま、仕事は」
「実家でも出来るよ」
「まあ、千代子さんも喜ぶと思うわ~。出無精の息子が帰って来るんだから。さっそく後で教えてあーげよ。じゃあ、お邪魔しました~」
忍は面白そうに笑って、軽やかに帰って行った。何故か忍と千代子は馬が合ったらしく、こうして友達のように接しているのだが、それを凄いなと思っていた慧自身が、その息子ともっと深い関係になるなんて、いったい誰が思っただろう。
しかし。
龍士郎はそれで大丈夫なんだろうか。まず間違いなく、千代子に根掘り葉掘り聞かれたり弄られたりするだろうに。
でも。
「お仕事中も、龍士郎さまが居ると、嬉しいです」
素直に気持ちを言葉にすると、横の龍士郎が腰をぐっと強く抱き寄せた。
「良く言えました。オレも、仕事してる慧くん見てるの好きだから、嬉しいよ」
頭を摺り寄せて、褒められる。龍士郎に褒められると、慧は本当に幸せだと思う。
この人の願いを、全て叶えてあげたくなる。
そして、その願いが、おれの幸せなのだというのなら。幸せになろうと、思う。
もう、怖いものは無い。この人がいれば。
「龍士郎さま、オレ、あなたにあえて良かったです」
左の薬指の指輪を、慧はきゅっと握った。オレだけの、カラー。プラチナ色の首輪。
「オレも、慧くんが選んでくれて、嬉しいよ。前は、漠然と自分に関係する人には優しくしないといけないって思ってたんだけど、今は、慧くんだけに優しくしたら良いんだって思えて、気が楽になった。変な人に絡まれる事も無くなったし、慧くんは本当にオレの運命の人だよ」
龍士郎の言葉に慧は、はにかみながら、おれもそう思います、と嬉しそうに頷いたのだった。
happy end
結局、龍士郎はマンションを引っ越す事なく、慧が同居する事になった。
慧はこの龍士郎の家が、自分が仕事をやりとげた部屋で勝手がわかっている事と、気になる細かい所を掃除していたら、愛着がわいたのだという。
慧が持ち込んだものはとても少なく、同棲後に増えたものは、全て龍士郎が慧に買い与えたものだった。
龍士郎としては、もっと高価なものや沢山の物をねだって欲しいのだが、慧がそれを恐縮してしまう。ただ、キッチン周りと掃除用具は、遠慮なく欲しがるので、言われるままに買った。
龍士郎はソレの何が良くて、何で欲しいのかわからないのだが、慧がねだってくれるという事実だけで嬉しかった。
だから、でかいスチームオーブンレンジが来た時も、なんでこんなに大きいのが必要なんだろう、と思ったが口を出さなかった。慧は、憧れていた機械が目の前にあって、とても嬉しそうだった。それでまあ良いかと思うのだから、龍士郎もたいがいである。
そんな二人の部屋に、今日は忍が遊びに来ていた。
「お邪魔するわよ。はいこれ、千代子さんからもお土産」
「いらっしゃい、忍さん」
「わざわざすいません」
二人が同棲してはじめての、忍の訪問に慧は数日前から張り切っていた。
それに仄かに嫉妬していたが、龍士郎もさすがに言いはしなかった。忍が、慧にとっての恩人でどれだけ大切に思っているのか、知っているからだ。
「まー、結構良いとこね。なにアンタ達、スチームオーブンレンジなんて持ってんの。いいわね」
「そうでしょ。めちゃくちゃ便利だよ、これ」
忍と龍士郎をダイニングテーブルの椅子に座らせ、慧はシステムキッチンに向かった。お茶と、今日の為に作っておいたパウンドケーキを用意しているようだ。
一旦、お茶とお菓子を置いて、座るのかと思ったら、慧はまたキッチンにもどり、何やら手を動かしていた。
「慧くん。こっちに来て座りなよ」
それを見かねて、龍士郎が声をかけると、慧は何かを用意しながら、
「いえ、せっかく忍さんが来てくれたんですから」
と言って、また何かを再開した。龍士郎が眉を寄せても、慧は龍士郎を見る事なくそのまま作業を続けていた。
それを見ながら、忍は、
「へー。アンタ達、案外うまくやってんのねー」
と、少しニヤニヤとしながら言った。
その忍の余裕のある態度に、龍士郎は少しイラっとした。それでなくても、自分のsubが自分以外の為に時間を使っているのだ。domなら仕方ない感情だと思う。
なかなか来ない慧に痺れを切らし(といっても時間にして数分なのだが)、龍士郎は、
「慧くん、こっちに来て、座って」
慧に向かって、少し強めに言った。
コマンドの気配を察知し、慧はキッチンから龍士郎を見た。
少し不機嫌そうになっている自分のdomを見て何かを察し、仕方ないなあと苦笑を浮かべながらも、素直にキッチンから出てきた。
そして、なんの躊躇いもなく自然に、龍士郎の膝の上に横向きにちょんと座った。
「あっ」
「?!」
そして、忍の前である、という事を思い出し、慧は一気に顔を真っ赤にした。
座って、のコマンドは龍士郎の膝の上、だと刷り込まれているとはいえ、これは、恥ずかしすぎる。慌てて立ち上がろうとするが、許しを得ていない。勝手には、立てない。
「りゅ、龍士郎、さまっ」
家族同然の忍の前で、これは羞恥プレイすぎる。
慧が抗議の声を上げるが、龍士郎はニマニマ笑ったままだ。
はあん、と、忍はため息まじりの声を上げた。
「ちょと心配だったけど、仲良くやってるようで、何よりだわ」
苦笑しながら二人を見る忍。
慧は必死に、
「龍士郎さま、あの、ほんと、下ろしてっ」
そうお願いするが、龍士郎は、
「だーめ」
楽しそうにそのお願いを、却下した。
慧は、もう打つ手がないと、穴があったら入りたいと両手で顔を覆った。龍士郎は楽しそうに笑っている。
「まぁ、そんなにアタシを牽制しなくても大丈夫よ。アタシも、今彼氏と暮らす話してるから、むしろ慧は此処に居て欲しいっていうかあ」
「えっ、忍さん彼氏さんと暮らすの?!」
今まで隠れるように顔を隠していた慧が、驚いたように声を上げた。そんな慧に、忍はニッと笑う。
「そ。アンタも出て行ったし、丁度いいかと思ってね。あの家、一人で住むには大きいじゃない?」
「そっか……」
顔は笑顔だが、何かを思ったようにすっと表情が暗くなる。それに龍士郎も気づいたが、何も言葉をかけられなかった。代わりに。
「まあ? アンタが喧嘩して帰って来たいっていうなら、いつでも良いわよ。部屋はいくらでも空いてるんだし。でも、アタシと彼氏のイチャイチャを見たら、アンタも帰りたくなると思うわあ」
高らかに笑う忍に、慧は苦笑していた。
これは、龍士郎でもわかった。忍が、あえて慧が負い目を感じなくて良いように、わざと茶化しているのだろう、と。
そんな二人のやり取りに、入りこめない絆のようなものを感じてしまい、ぎゅっと慧を抱きしめていた。
「わっ、龍士郎さま?」
突然抱きしめられ驚いたようだが、それをほどいたり拒否したりはしない。慧だって、ちゃんと龍士郎を特別に想っている。のを知っている。が、知っているがそれと不安はまた別問題だ。
それを見ていた忍が、コーヒーに口をつけ、カップを置いた。そして、二人を見る。
「……秋水さん。この子は、色んな事で傷ついてきました。アタシは、母親がわりに面倒を見てきたつもりでしたけど、こんな風に幸せそうに笑っているのを、見た事ありませんでした。何事も無い平穏、がこの子の幸せなんだって。アタシなりに愛情を注いだつもりなんですけど、それでも、今の慧にはかないません。どうか、不器用なこの子を、よろしくお願い致します」
真剣な顔で、忍は頭を下げた。はらりと髪の毛が下に落ちる。
「忍さん……」
慧は、忍の言葉に思わず口に手を当てた。
恩人の忍に、慧はもちろん感謝しているし、好きだった。
だけど、龍士郎に対する愛はもっと違うものだと、忍はわかっていたのだ。
家族として、家族の幸せを願われている。その事実に、慧は泣きそうだと思った。悲しいんじゃない、嬉しい方だ。
「はい。オレの方こそ、愛想つかされないように、頑張ります。これからは、オレが、慧くんをちゃんと幸せにします」
龍士郎も、慧の腰を抱きながら、頭を下げた。この状況に、どうしていいのかわからない慧。
「あの、おれも、頑張ります……?」
挙句の果てに、よくわからないまま言葉を発し、二人に苦笑されてしまった。
「慧くんは頑張ってるよ。これ以上頑張るのは、ダメ」
「え」
「そーよー、せっかくパートナーが出来たんだから、思う存分甘えなさいよ」
またしても真っ赤になる慧に、二人して笑ったのだった。
帰り際。
「じゃ、またね」
「うん」
「あ、そうだ。明後日出勤したら、一緒に千代子さんの所に行くから、覚えておいて」
「わかった」
「なんで、実家に行くんですか?」
玄関口で業務連絡をしていると、慧の隣にいた龍士郎が疑問の声を上げた。靴を履き終わり、後ろを振り返る忍。
「あら、知らなかった? 秋水家って、ずっとうちのお得意さんなのよ。上得意客だから、アタシが特別に担当してるの。で、お宅が広いから定期的にこうやって、数人で大掃除してるのよ。結構大変なのよ」
忍がなんてことない風に言うと、龍士郎は、抗議するような声を上げた。
「そんな、じゃあ母さんはオレより先に慧くんを知ってたって事? しかも、今慧くんが行ったら、母さんが喜々としてなんやかや慧くんに吹き込むよな。……オレ、明日、慧くんが仕事してる間、実家帰る」
ぶっと噴出した鏑木家に、龍士郎はもう意見を譲る気は無いようだった。
「龍士郎さま、仕事は」
「実家でも出来るよ」
「まあ、千代子さんも喜ぶと思うわ~。出無精の息子が帰って来るんだから。さっそく後で教えてあーげよ。じゃあ、お邪魔しました~」
忍は面白そうに笑って、軽やかに帰って行った。何故か忍と千代子は馬が合ったらしく、こうして友達のように接しているのだが、それを凄いなと思っていた慧自身が、その息子ともっと深い関係になるなんて、いったい誰が思っただろう。
しかし。
龍士郎はそれで大丈夫なんだろうか。まず間違いなく、千代子に根掘り葉掘り聞かれたり弄られたりするだろうに。
でも。
「お仕事中も、龍士郎さまが居ると、嬉しいです」
素直に気持ちを言葉にすると、横の龍士郎が腰をぐっと強く抱き寄せた。
「良く言えました。オレも、仕事してる慧くん見てるの好きだから、嬉しいよ」
頭を摺り寄せて、褒められる。龍士郎に褒められると、慧は本当に幸せだと思う。
この人の願いを、全て叶えてあげたくなる。
そして、その願いが、おれの幸せなのだというのなら。幸せになろうと、思う。
もう、怖いものは無い。この人がいれば。
「龍士郎さま、オレ、あなたにあえて良かったです」
左の薬指の指輪を、慧はきゅっと握った。オレだけの、カラー。プラチナ色の首輪。
「オレも、慧くんが選んでくれて、嬉しいよ。前は、漠然と自分に関係する人には優しくしないといけないって思ってたんだけど、今は、慧くんだけに優しくしたら良いんだって思えて、気が楽になった。変な人に絡まれる事も無くなったし、慧くんは本当にオレの運命の人だよ」
龍士郎の言葉に慧は、はにかみながら、おれもそう思います、と嬉しそうに頷いたのだった。
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