家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃

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『もしもし。慧? アンタ、今日は定時で帰って来いって言ったデショ』

「”かあ、さん”」

 慧がそう、スマホの、忍とでている画面に言うと、ハッと息を飲む音が聞こえた。

『アンタ今どこ。例の仕事場?』
「うん」
『すぐ行くわ。着いたら電話する』

 そう性急に言って、スマホの電話はブツリと切れた。

 パタン、と腕を下ろすと、水を持ってきた龍士郎が見えた。その顔は、少しの驚き。

「慧くん……あ、これ、水。飲む?」
「ありがとう、ございます」

 上体を起こし、コップを受け取る。冷たい水を、嚥下する。
 何か聞きたげだが、何かを聞いてまた刺激してはまずいと黙っている、龍士郎を慧は見た。ただただひたすら残酷なまでに優しい、domを。





 そこから、三十分ほど経った頃だろうか。

 慧はソファーに横たわり、無言で目を閉じていた。龍士郎はそんな慧を見守るように、ダイニングテーブルでPCを開いて仕事をしている。

 プルルル。

 慧のスマホが鳴った。が、すぐ切れた。
 画面を見るまでも無く、慧は目を開けて、龍士郎を見た。

「すみません、龍士郎さま。迎えが、来たので、帰ります」

 思った以上に弱弱しい自分の言葉に、まだ襲われかけたトラウマを引きずっている事を自覚する。
 声をかけられた龍士郎はパッと慧を見て、近寄って来た。
 立ち上がるのを手伝ってくれるようだ。
 だいぶ回復し、そこまでではないので、やんわり断る。

「すみません、大丈夫です」
「でも慧くん」

 立ち上がったぐらいで、龍士郎の部屋のインターホンが鳴った。

 龍士郎の玄関の鍵は、部屋の中から開けられるタイプなので、一瞬慧から離れ、龍士郎は玄関のカギを開け、慧の所に戻り慧を支えようとした。が、それも断られる。何か声をかけたいが、その言葉も見つからず、龍士郎は途方に暮れていた。

 慧は、思ったよりはしっかりとした足取りで、玄関に向かい、扉を開けた。
 そこには。

「慧、アンタ大丈夫」

 美人、という言葉がしっくりくる男性が、そこにいた。
 龍士郎よりも高い身長、がっしりとした筋肉がわかる体つき、そしてサラサラのロングヘアに、ばっちりメイクした整った顔。
 いわゆる、オネエ。
 その人物に向かって、慧は迷いなく近づいた。

「ごめん、忍さん……」
「全く。……あっ、あなたが秋水様ですね。わたくし、アロー家事代行サービスの責任者をしております、鏑木 忍と申します。この度は身内がご迷惑をおかけしたようで、誠に申し訳ございません。この謝罪は、後ほどまた正式にさせて頂きます。仕事道具は、明日回収に参りますので、一晩おかせて頂ければ幸いです。
さ、帰るわよ慧」

 慧を後ろに隠すようにしながら、忍と名乗った人物は慇懃無礼にお辞儀をし、さっさと帰ろうとした。龍士郎は呆気にとられ固まってしまった。

「あの、申し訳ありません、龍士郎さま」

 慧は忍の後ろの狭い隙間から顔を覗かせ、龍士郎に謝った。そして、龍士郎が反応する前に、二人はさっさと撤収してしまった。








 かっ飛ばす車の後部座席で横になりながら、慧はミラー越しに忍を見た。

「かあさん」
「なぁに」

 反ってきた返事は、優しいものだった。

「おれ、switchっていうやつかも、しれないって。明日、クリニック、予約してもらった」
「え? どういう事?」

 戸惑ったように、忍が振り返ると、慧はもう目を閉じていた。丸まって寝るのは、昔からの癖のようなものだ。
 忍はその様子を見て、ふーと鼻から息を吐いた。

「慧。アンタが何であれ、アタシは味方だからね」

 忍の小さな呟きは、夜の闇に、そして、慧の瞼から零れる雫に溶けていった。
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