家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃

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 無言で、時間が流れていく。
 時計は見ていないが、十数分ぐらいだろうか。
 ようやく収まっていく動悸に、慧がホッと息を吐く。

「落ち着いた?」

 真横からかかる優しい声に、慧はゆっくり振り向いた。
 そこに居たのは、龍士郎。
 慧を襲ったdomではない。残酷な程に優しい、domりゅうしろうだ。
 慧は何度か大きく深呼吸して、口を開いた。

「す、すみません、ご迷惑を」
「ううん。落ち着いたら良かった。はい、水。ちょっと、横になる?」
「いえ、そこ、までは」

 いつの間に用意したのだろう。コップに入った水を飲む。
 ぬるい。ずっと持っていてくれたようだ。
 冷たくない方が、良い。
 コクコクと喉を潤し、返す。

 立ち上がろうとしたら、ふらついた。

 まだ、完全に落ち着いたわけでは無いようだ。
 龍士郎が肩をかしてくれたので、素直に従い、連れられたのは、大きなソファー。

 前々からここでも寝れるなと思っていたが、実際に自分が寝かされると、その適度な柔らかさと弾力に落ち着き、本当に寝入りそうになる。

 そこまで迷惑をかけられない、と断る慧に、龍士郎は良いから少しだけ横になってと、何度か押し問答になったが、結局慧が少し休ませてもらう事で落ち着いた。





 はぁーと大きく溜息を吐き、目の上に腕を乗せる。光を遮断したかった。すると、袖が何か湿ったような感触がした。
 そこではじめて、慧は自分が泣いている事に気づいた。
 ここまで失態を見せていたとは。

 仕事中なのに、とプライドが傷ついたのが半分、優しくしてもらって安心したのが、半分。

 そう、安心したのだ。

 この、出会って四日しか経っていない、それも、雇用主であるdomに。

「慧くん。オレの主治医が、switchとかも結構診てる人だから、一回行ってみない? 紹介できるし、オレだったら好きな時に予約とれるからさ」

 頭のすぐそばで、龍士郎の優しい声がする。
 その提案は有難いのだろうが、今の慧には何も考えられなかった。

「switchって診断されたらそれ用の薬とか、どうしたら良いかとか教えてもらえると思うし、君にとって悪くないと思うんだ。……どうかな。君を、傷つけてしまったみたいだから、そのお詫びに都合の良い時に予約、取るよ」

 慧が目の上から腕を下ろし、顔を横に向けると、龍士郎はすぐ側に座って慧を見下ろしていた。
 心配そうに。

 慧は、ぼんやりその顔を見上げる。
 その目を見つめる。
 気のせいでなければ、龍士郎も、慧を特別に見つめているようだった。

「……明日」

 ぼんやりした、少し酸素の足りていない脳が、言葉をこぼす。

「明日?」
「予約、明日で、あれば」

 慧がぼんやり口にする言葉に、龍士郎は少しだけ眉を下げたが、微笑んだ。ちょっとだけ悲しそうに。

「わかった。ちょっと待ってて」

 そう言って、少しだけ慧の額にかかった髪の毛を払い、立ち上がった。
 龍士郎の方に沈み込んでいた偏りが、戻る。それが、少しだけ寂しいと思った。



 遠くから龍士郎の声がしている。何かを強めに言っているようだ。

 しばらくもしない内に足音が近づいてきて、 

「慧くん、明日の三時から予約、取れたよ。場所わかる? これ、その先生の名刺。オレの名前を受付で出してくれたら、わかるから」

 龍士郎は屈んで、慧と同じ目線で慧を見た。慧は、ぼんやり龍士郎を見る。何故か、涙がこぼれた。

「わわっ、大丈夫? 慧くん。誰か連絡したら、迎えに来てくれる人いる? 今日はもう、帰った方が良い」

 龍士郎はそう言うと、慧のバッグを持ってきてくれた。のそのそと手を伸ばし、それを受け取る。

 中からスマホを取り出し、言われた通り、迎えに来てくれる人に電話をかけた。


 プルルルル…

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