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学園編
60.最後の中間イベント
しおりを挟む些末な問題はあったけれど、おおむね平和に感謝祭は終わった。
殿下とマリー・トーマンには、この感謝祭で間柄を強固なものにするのかと思っていたのだけど、そうはならなかった。全くもって、なぞだ。
ここは漫画の世界で、私はタイムリープしてきただけだ。
前世の記憶によると、SF映画なんかでは過去改変は、本来とても大変な作業となるはず。中の一人がちょっと性格が変わったり、ちょっと行動に変化があったりしたくらいでは変わらないとされてきたのに。
このまま、万が一、マリー・トーマンと殿下が結ばれない未来が訪れたら、どうなるのだろう? ヒロインに本来救われるはずだった、弱き者達は虐げられたまま。悪は栄えるがまま……と、なってしまうのだろうか。それは、いやだな。
……殿下は今、何を、考えているのかな…………?
◇◆◇ ◇◆◇
「次のイベントは『生誕祭』だね!」
「私達、平民が参加できるような、お城で開かれるパーティーはこれが最後かぁ」
最近日課となってしまった、マリー・トーマン達がいる寮室で座談会の最中、マリー・トーマンのルームメイトたちはやけにしんみりとしながらそう言った。
ルームメイトたちは王都に住んでるけど、マリー・トーマンは辺境の村にある孤児院に戻るなら、めったに会うことはできなくなるな。
王都からマリー・トーマンが住んでいた孤児院まで、通常の馬車移動なら一月はかかる。
車や新幹線だったら夜通し走れば到着するかもしれないけど、馬車はそこまでのスピードは出ないし、居心地も悪いから一日に進める距離はさらに減る。
十二月二十五日に行われる女神クレディアの『生誕祭』――恐らく、クリスマスを元に作られたものと思われるイベント。私は知らないけど、もしかしたら街中では、恋人同士のイベントとして、認識されていたりするのかもしれない。
そう言えば、前回はこの感謝祭の最中に、王家の秘宝のうわさを聞いたんだ。
あれは……ああ、そうだ。デリアに聞いたような……気がする。
パトリックは、あの秘宝についての特殊能力を知ってるみたいだったし、まあ、パトリックのご両親は王家と近い血縁にあるらしいから、知っていても不思議はない、かな?
「ねえ、最後なんだからナナミは出るよね?!」
「えっ?!」
しばらく大人しいと思っていたら、いきなり私の腕にしがみつきマリー・トーマンが涙ながらにすがりついてきた! なんだ一体!
「そう言えばそうだね。ナナミも一緒に出ようよ」
「うんうん! 最後くらいは、ね?」
「うーん……どうしよう、かな……」
その場で即答はできなかった。
その時は、ミーシャ・デュ・シテリンでいたほうが、万が一の時に対処できるのではないかと思っていたから。
――しかし。
「ミーシャ様はまたクリストフ殿下と参加されるでしょうから、そうね……ミーシャ様に付き纏う男を用意しましょう。殿下はミーシャ様から離れられなくなるでしょうし、ミーシャ様も悪い気はしないはずですわ」
ふふふ、と口元に酷薄な笑みを浮かべながら、物陰でとんでもないことを画策するデリア・リナウドを見かけたのは、マリー・トーマン達から誘いを受けてから一週間後のことだった。
「えげつないこと考えるんだな……」
ナナミモードの私の隣には、殺気立ったパトリックがいる。
パトリックの中のデリア・リナウドの好感度がマイナスに振り切れそうだ。
いや、もう振り切れているかも。
デリアもねぇ、女なんだから、不必要な男につきまとわれることに対する嫌悪感とか、ちょっとは考えて欲しいんだけど……。
「『王家の秘宝』についてのうわさについても調べたいので、今回はナナミで行こうかな、って思ってます」
「そうか……大丈夫か?」
「なんかミーシャでいてもナナミでいても、あの子の罠からは逃げられなさそうなので、逃げやすいほうで行きたいと思います!」
ドレスの下は運動靴で行きたいくらいだ。
ピンヒールも、それなりに攻撃力はあるけど……どうしようかな?
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