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学園編
8.私は保護観察中…2
しおりを挟む――まあ、要するに色々あって、クリストフ殿下とは疎遠になってはいたが、パトリックの方とは連絡を取らざるを得なかった。彼は私にとっては保護観察官のようなものだ。行方をくらませたりしたら処刑される……。
私と違い、彼は今もクリストフ殿下と親しい関係にあった。私の傷の件も、実はまだ気にしているのだと言う。その話題が出る度に、殿下がパトリックに治癒能力のことを言い出したらどうしよう、と不安がよぎる。動揺していたのはパトリックも同じ。私と同じ疑念を抱いてるのを……私は知っている。
マリー・トーマンの孤児院への寄付についても、パトリックには報告済み。
恥ずかしかったので、できることなら内緒にしておきたかった。だって、私の頭には、『マリー・トーマン大嫌い時代』の記憶がこびりついている。そんな私が、彼女のために匿名で寄付をしているって……なんか、当時の『わたくし』を知っている人には、あまり知られたくない。……いるはずもないが。他に知っているのは父のみ。
孤児院の経営を傾けないだけの寄付金の額を用意するのは、結構骨が折れる。父は欲まみれの人間ではなくなったが、孤児院に寄付をする価値を見いだせていない。父を丸め込む気もないので、己の力で頑張ることにした。
「お前、そんな姿でいることにストレスとかないのか? 変に自分を追いつめて爆発でもされたら、そっちの方が厄介なんだが?」
「ああ、それについては問題ありません。この服なら、一人で着ることができますし、防御力が高いので行動範囲が広がるので」
日本人だった頃は、こういう服が普通だった。作業服がというわけではない。ズボンは普通にはくし、地面に引きずる丈のスカートなんて履かなかったし、ドロワーズなんて、なんだあのカボチャパンツは!
――今は、日本人である感覚を大事にしていたいのだ。
マリー・トーマンを前にして、傲慢な悪役令嬢に戻らないためにも。今の私を悪役令嬢でない、別のなにかにしておくために……日本人の感覚はとても大事だ。
普段はこっちの姿でいようかな……。
「この服だったら、さっきみたいに相手が刃物を持っていても、小さな傷くらいなら防御してくれるんですよ。マリー・トーマンは正義感が過ぎるようなので、シテリンの小娘が暗躍していようがいまいが、トラブルを抱え込みそうなので」
なので心配はいらない……と続けるつもりだったのだが。
「お前、姉上の時もそうだったけど、無駄に死のうとするの本当に止めろよ!」
「え? あの、そんなことしようとはしてませ――」
「お前のサイドビジネス! 俺は止めさせたいんだよ!」
「犯罪をしているわけではありません! あの、本当に今回の今回は、本当に心を入れ替えて――」
「それは分かってるよ!」
……分かっている…………。
自分の発言に対して、パトリックがそのような反応を示すとは思っていなかった。これではまるで、本当に心配されているみたいだ。そんなはずがない。仮にパトリックが心配するとしたら、「私がまた悪事に手を染めたりしていないか」だろう。
パトリックは……私を恨みこそすれ、心配したりなんかしない。
するはずない。忘れてはならない。
――許されることはない。
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