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幼少期編
15.楽しいお茶会の時間です4
しおりを挟む「――なんの騒ぎだ!!!」
叫びながら室内へと入ってきたのは父、続いてシュトルツァー公だ。
床にあお向けに大の字で倒れ込んでいるマデリーネ嬢を見るまで、シュトルツァー公は純粋な驚きをその顔に浮かべていた。どこか他人事だったのだろう。彼女の姿を確認すると、困惑した表情で視線をさまよわせ、最終的にこちらへと視線を落とした。状況が飲み込めていないらしい。
その視線を受けて、倒れたマデリーネ嬢の枕元に座り込んでいた私は、ゆっくりと立ち上がり、シュトルツァー公の前に立った。
「ごめんなさい、おじさま。私、おねえさまが言っていたことがよく分からなくて……いえ、私、おかしくなってしまったのかもしれません! 牧師さまに『悪魔払いの儀』を受ける宣言しようと思います!」
貴族令嬢として品がよくなり過ぎないよう言葉遣いを注意しながら、戸惑いと後悔を訴えて見せた。
「――ま、待ってくれ!」
シュトルツァー公の、反応速度の速さは予想以上だ。
……やはり黒か。公爵は全てを知っていて、パトリック一人に長女の面倒を見ることを押しつけていたのだ。
お断りさせていただくが、マデリーネ嬢に薬など盛ってはいない。彼女が暴走し始めたので、一本背負いで投げ飛ばしただけだ。当初の計画とは少々ずれたが、その際に生じた音が予想外に大きく響いたらしい。音を立てて父たちをこの場に呼び込むのは、計画のうちだからよしとしたい。
ケブルトン王国は、ヴィクトリア朝のイギリスをモデルに創造された架空の国だ。そこに根付いている宗教も、実際のキリスト教とほぼ同じ。
『悪魔払いの儀』とは、教会へ悪魔に取り憑かれてしまった可能性があると訴え出て、宗教裁判にかけられることを意味する。
今現在、貴族よりは教会の方が上位の裁判権を持っている。
教会は王家管理下に置かれてはいるものの、貴族法により貴族の裁判権は教会のそれより一段階下となっている。ゆえに貴族と言えども、裁判から逃げることはできない。太古の昔ならいざ知らず、今現在の科学技術でも薬物の使用状況を調べることは、十分可能なのだ。
「いや、しかしこの状況は……」
実父が、納得していない様子で、シュトルツァー公の制止に否を突きつける。これは演技だ。マデリーネ嬢の薬物疑惑については頭に入っているので、良い感じに誘導してもらおう。
「おねえさんが『A』? がどうとかお前もか! とか……よく分からないことを言ってきて――」
「なんということを! ご令嬢がそんなことを言うわけがないな。申し訳ないシュトルツァー公、今すぐ牧師を――」
「待ってくれ!」
私と父がはじめたのは棒読みの三文芝居だというのに、シュトルツァー公は何も気付いていないようで、ただひたすらに焦っている。
「いや、パ、パトリックを呼んでくる、長女は息子と一番仲が良いから――」
――あ、ダメだこの人。
激しくうろたえ、己の頭脳では何一つ考えることができない。そうにしか見えない。そんな様子を、シュトルツァー公は私たちに見せつけている。挙げ句に、十二歳の少年に、何をさせようと言うのか。
――なんなの? なんなのこの人? え、この人なんなの?!
「いや、その必要はありません。この度は娘がお嬢様に大変申し訳ないことを致しました。娘のせいでお嬢様に対してとんでもない悪評がついてしまうと大変です。それに、娘についた悪魔が悪い影響を与えてしまうといけません!
事は公には致しませんので、是非とも教会へ――」
取り乱しながらも部屋を出て、パトリックを呼び出そうとするシュトルツァー公。その前に、父が立ちはだかる。私は己の中に渦巻く感情のせいで、シュトルツァー公をまともに見ることができなくなりそうだ。
――だが、私にもやることがある! この計画は、完遂しなければ意味がない。父がシュトルツァー公の注意を引いているスキに、部屋を出て別室に控えている牧師を呼んで来なければならない。
そのためにドアへ急ぐ私の足を……床に倒れ込んでいたはずの、マデリーネ嬢が……つかんだ。
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