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プロポーズと招待と(1)
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「ほーら、あんたたち、もう帰った帰った!!」
翌日、ヘルマは家の入口でわあわあやって来た男たちを追い返す。
以前からミリアの左足がよくないことを知っていたが、ギスタークとの戦闘で更に拗らせてしまったことを知って、警備隊の人々が見舞いに大量の食糧やら何やらをもって押し寄せて来たのだ。
それとは別に、感謝のしるしにとばかりに町長から、それから謝罪に例の商人たちが、みなたまたま、本当に偶然、同じ時間に彼らの家に集まってしまった。
宿屋にまだ泊まっていたスヴェンも大慌てで彼女の足を確認に来てくれたが、彼は苦々しく「きちんと休んでください。これでは、ここに来た時とそう変わりがなくなってしまいましたよ。まだ治ります。ですが、本当にここからは安静に」と彼女を怒った。が、それとは別に
「ありがとうございました。この町を守ってくださって。わたしも滞在をしているだけの身ですが、あなたに感謝を」
と言って、今回の治療費はなしにしてくれた。
それから、警備隊とは別に、町の人々がミリアに「差し入れだよ」と果物をくれた。ヘルマは「突然大金持ちに求婚されたみたいになっていますよ」と、山積みになったものを呆れながら見つつ、折角だからとひとつ果物の皮をむいてミリアに持って行った。
さて、それからどうしようかとヘルマが口をへの字にして、贈り物の山を見ていると……
「わあ、わあ、こりゃ大変だ」
少し間が抜けた声が聞こえる。クラウスの声だ。ヘルマは慌てて入り口に行き
「何ですか! もう、朝からお客さんにはもうこりごりですよ!」
と、開口一番怒鳴る。が、それに特にめげた風もなく、クラウスは
「それは申し訳ないですね。とはいえ、それはヘルマさんがこりごりなだけで、ミリアさんは大丈夫でしょう?」
なんて涼しい顔で言うものだから、ヘルマはむうっと頬を膨らせた。
「そりゃあ、お嬢様はわたしと違ってお心が広いですからね!」
その言葉にクラウスは笑い、それから彼の後ろにいたヴィルマーが顔を出す。
「すまんな。ちょっとだけミリアに話があって」
ミリアは体調が悪いというわけではない。ただ、左足を使わないようにと言われて静かにしているだけなので、本来彼が会うことは問題がないのだ。だが、ヘルマは「うーん」と唸って
「ちょっとだけですよ!?」
と釘をさす。すると、そう言われたらそう言われたで、今度はヴィルマーの方がいささかむっとした表情になる。それは珍しいことで、単に彼はヘルマに「合わせた」だけだ。
「うーん、言うほどちょっとでもないかもしれん」
「どっちですか!」
「おいおい、悪いのは左足だけなんだろう? 風邪で寝込んでいるならともかくさ……」
結局、へにゃりと笑って、そう言いながら家の中に入るヴィルマー。大量に並んでいる食料品やら何やらを見て「ははぁ」と苦々しい表情になる。
「こりゃ、大変だな。食べきれるのか?」
「多分無理だと思うんです。だから、これから大きな鍋を借りて、今晩は警備隊のみんなにご飯をふるまおうと思うんですけど。ヴィルマーさんたちもどうですか? あの、みんなで訓練をしているところに集まって、夕ご飯にするのは」
「そいつはいいな! クラウス、手伝ってやれよ。お前、料理得意だろう」
その言葉にヘルマは「えっ」と驚きの声をあげる。クラウスは「いえ、そこまでは」と謙遜をしつつも「とはいえ、お手伝い出来ますよ」と答えた。
「ちなみに、俺は不得意だ」
「言われなくてもなんかそんな気がしていました」
そのヘルマの答えにクラウスは声を出して笑う。ヴィルマーは肩を竦めて「ミリアは部屋か?」と言って「ちょっと、失礼するな」と奥へと歩いていく。
「まあ~! もう我が家の間取りをよーくご存じのようで!」
と、意地が悪いことをヘルマが云えば、またクラウスは笑った。
「俺は知っているんだぞ、というマウントは恥ずかしいですねぇ」
「ですよね? も~! 昨日ちょっとお嬢様をここに送ってくださったからって……お嬢様は渡しませんからね!」
「折角、ガツンと言ったのに?」
「……やっぱり、ガツンと言ったんですか!?」
「あれ、ミリアさんから聞いていませんか?」
「聞いていないですよぉ。ええ~、ついに……ついに、ガツンと言っちゃったんですか? それで? お嬢様のお返事はどうなんですか……?」
そこで黙ってにやにやと笑うクラウスに、ヘルマは「教えてくださいよ!」と駄々をこねるのだった。
「ミリア。起きているか」
「起きていますよ」
ミリアの部屋をノックして、扉を開けるヴィルマー。彼女は、ベッドの上で体を起こして、読書をしているところだった。
「いらっしゃい。ヘルマは?」
「ああ、なんだかいろんなものを差し入れでもらったみたいだったから、それを調理して警備隊のみなに食べてもらうと言っている。でかい鍋を借りに……うん。クラウスと、出かけたみたいだ」
ドアを開けたまま、ヴィルマーは背をそらして居間を覗いてそんなことを言う。それから「入ってもいいか?」と尋ねるので、ミリアは「どうぞ」と笑って返事をした。
翌日、ヘルマは家の入口でわあわあやって来た男たちを追い返す。
以前からミリアの左足がよくないことを知っていたが、ギスタークとの戦闘で更に拗らせてしまったことを知って、警備隊の人々が見舞いに大量の食糧やら何やらをもって押し寄せて来たのだ。
それとは別に、感謝のしるしにとばかりに町長から、それから謝罪に例の商人たちが、みなたまたま、本当に偶然、同じ時間に彼らの家に集まってしまった。
宿屋にまだ泊まっていたスヴェンも大慌てで彼女の足を確認に来てくれたが、彼は苦々しく「きちんと休んでください。これでは、ここに来た時とそう変わりがなくなってしまいましたよ。まだ治ります。ですが、本当にここからは安静に」と彼女を怒った。が、それとは別に
「ありがとうございました。この町を守ってくださって。わたしも滞在をしているだけの身ですが、あなたに感謝を」
と言って、今回の治療費はなしにしてくれた。
それから、警備隊とは別に、町の人々がミリアに「差し入れだよ」と果物をくれた。ヘルマは「突然大金持ちに求婚されたみたいになっていますよ」と、山積みになったものを呆れながら見つつ、折角だからとひとつ果物の皮をむいてミリアに持って行った。
さて、それからどうしようかとヘルマが口をへの字にして、贈り物の山を見ていると……
「わあ、わあ、こりゃ大変だ」
少し間が抜けた声が聞こえる。クラウスの声だ。ヘルマは慌てて入り口に行き
「何ですか! もう、朝からお客さんにはもうこりごりですよ!」
と、開口一番怒鳴る。が、それに特にめげた風もなく、クラウスは
「それは申し訳ないですね。とはいえ、それはヘルマさんがこりごりなだけで、ミリアさんは大丈夫でしょう?」
なんて涼しい顔で言うものだから、ヘルマはむうっと頬を膨らせた。
「そりゃあ、お嬢様はわたしと違ってお心が広いですからね!」
その言葉にクラウスは笑い、それから彼の後ろにいたヴィルマーが顔を出す。
「すまんな。ちょっとだけミリアに話があって」
ミリアは体調が悪いというわけではない。ただ、左足を使わないようにと言われて静かにしているだけなので、本来彼が会うことは問題がないのだ。だが、ヘルマは「うーん」と唸って
「ちょっとだけですよ!?」
と釘をさす。すると、そう言われたらそう言われたで、今度はヴィルマーの方がいささかむっとした表情になる。それは珍しいことで、単に彼はヘルマに「合わせた」だけだ。
「うーん、言うほどちょっとでもないかもしれん」
「どっちですか!」
「おいおい、悪いのは左足だけなんだろう? 風邪で寝込んでいるならともかくさ……」
結局、へにゃりと笑って、そう言いながら家の中に入るヴィルマー。大量に並んでいる食料品やら何やらを見て「ははぁ」と苦々しい表情になる。
「こりゃ、大変だな。食べきれるのか?」
「多分無理だと思うんです。だから、これから大きな鍋を借りて、今晩は警備隊のみんなにご飯をふるまおうと思うんですけど。ヴィルマーさんたちもどうですか? あの、みんなで訓練をしているところに集まって、夕ご飯にするのは」
「そいつはいいな! クラウス、手伝ってやれよ。お前、料理得意だろう」
その言葉にヘルマは「えっ」と驚きの声をあげる。クラウスは「いえ、そこまでは」と謙遜をしつつも「とはいえ、お手伝い出来ますよ」と答えた。
「ちなみに、俺は不得意だ」
「言われなくてもなんかそんな気がしていました」
そのヘルマの答えにクラウスは声を出して笑う。ヴィルマーは肩を竦めて「ミリアは部屋か?」と言って「ちょっと、失礼するな」と奥へと歩いていく。
「まあ~! もう我が家の間取りをよーくご存じのようで!」
と、意地が悪いことをヘルマが云えば、またクラウスは笑った。
「俺は知っているんだぞ、というマウントは恥ずかしいですねぇ」
「ですよね? も~! 昨日ちょっとお嬢様をここに送ってくださったからって……お嬢様は渡しませんからね!」
「折角、ガツンと言ったのに?」
「……やっぱり、ガツンと言ったんですか!?」
「あれ、ミリアさんから聞いていませんか?」
「聞いていないですよぉ。ええ~、ついに……ついに、ガツンと言っちゃったんですか? それで? お嬢様のお返事はどうなんですか……?」
そこで黙ってにやにやと笑うクラウスに、ヘルマは「教えてくださいよ!」と駄々をこねるのだった。
「ミリア。起きているか」
「起きていますよ」
ミリアの部屋をノックして、扉を開けるヴィルマー。彼女は、ベッドの上で体を起こして、読書をしているところだった。
「いらっしゃい。ヘルマは?」
「ああ、なんだかいろんなものを差し入れでもらったみたいだったから、それを調理して警備隊のみなに食べてもらうと言っている。でかい鍋を借りに……うん。クラウスと、出かけたみたいだ」
ドアを開けたまま、ヴィルマーは背をそらして居間を覗いてそんなことを言う。それから「入ってもいいか?」と尋ねるので、ミリアは「どうぞ」と笑って返事をした。
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