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隣国ヘーラクレール編

67 それがシロのおちからなのだ、えっへん

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「くそっちっせぇ鳥かごの癖に結構頑丈だな」
「カールさん、駄目ですか?」
「いや、いける。だが……シロのハラがつかえてこれくらいの隙間じゃ出てこれねえんだ」
「ンジーッ! (だって、くっきーすごくおいしかったの!)」

 鳥かごは鉄製でカールさんが引っ張って少し曲げてくれたけれど、シロの腹が突っかかった。マーガレッタにあまりクッキーを与えるなといわれていたのに、私が食べさせたのがいけなかった……。

「ンジッ! ンジッ! (がまんするからひっぱってーあーさー!)」
「引っ張れっていってる気がするけど、シロが怪我したらマーガレッタもルシアナ嬢も凄く悲しむぞ。二人の悲しい顔を見たいのかい?私はみたくない」
「……ジイ……(やだ……)」

 マーガレッタからシロを受け取った私達はクロードに案内されて先を急いだ。途中で城の正面で兵士達と揉めていたカールさんと合流できたが、シロの籠が壊れない。

「ジーーッ! (はやくでたいのーっ)」
「私達も早く出してあげたいよ」

 籠に閉じ込められた鳥というものは哀れだ。それが意志があり、表情を豊かなシロならなおさらのことでしかも無理やり詰め込まれたというのだから、同情しかないが小さな籠の癖に中々手強かった。

「クロードさんよ、この上の取っ手を持ってくれ。俺は底を引っ張る。力づくでぶっ壊そう」
「ええ、剣はやはり危ない。シロ様、宜しいですか」
「ジイッ! (くろーど、かーるおねがい!)」

 二人は己の筋肉に任せることにしたらしい。確かに二人とも腕力がある……それが一番中にいるシロの安全性も保てそうだ。

「行くぜ、クロードさんっ」
「ええ、引っ張ります、カールさんっ!」

 カールさんとクロードの腕に血管が浮き上がり、筋肉が盛り上がる。二人とも顔が赤くなっていく。

「ふんっぬーーっ!」
「うおおおおおっ!」

 カールさんはさておき、クロードは公爵令息に似つかわしくない雄たけびをあげるが、今は緊急事態だ。頼む二人とも頑張ってくれ。

「ジーーッ!! (おじちゃん!へーらくれーるのおじちゃん、ちからをかして!)」
「!」

 なんだかシロが淡く光った気がする。最初見た時は今にもへたりそうな萎びた毛玉みたいだったのに、マーガレッタに手当てされ、皆から可愛がられて元気を取り戻すうちにシロは成長した。よれ気味だった毛玉がふわふわとどんどん手触りは良くなるし、チョコチョコ歩き回る姿にもきれが出て来たきがする。それと頭に乗ると最近はなんだか少し重たい気もする。
 シロは神獣としての力を取り戻しつつあるんだ。

≪おう!カール、もっと足腰を踏ん張らんかッ≫
≪クロード、脳筋の力をみせなさいっ≫

「ん……?」

 なにかほんの小さく途切れ途切れに応援としてはあまりにも雑な言葉が聞こえた気がした。これは一体なんなんだろう。

≪筋肉では勝てないからなあ……暑苦しい≫
「え?」

 今度は耳元で何か聞こえる。二人を見て少し呆れているような声だ……でもこの声は聞き覚えがある。マーガレッタに会ってからたまに聞こえる私を助けてくれる声。もしかしてこれがマーガレッタのいう「みなさま」なのか?だとしたらあの二人は今まで以上、持てる力以上に実力を発揮できる状態なのかもしれない。

「二人ともいけーっ!「みなさま」が応援してくれているぞ」
「おお、嬢ちゃんの「みなさま」か!任せとけ!クロードさん、俺に引っ張られんなよーっ」
「何のことかはわかりませんが、今凄く力が漲っています!カールさんこそ吹っ飛ばされないで下さいよっ」
「ジーッ! (がんばってーー!)」

 ミシ、ミシミシと鳥籠が引き延ばされ始める。そして溶接の甘い所が悲鳴を上げ、変な音を立てながら一本、また一本と千切れてゆく。

「シロッ! もうすぐ通れる!」
「ジッ! (もうちょっとだよっ)」
「フンガーーッ!」
「ぬおおおおおおおっ」

 バキンッ、何の音かと思えばカールさんとクロードの足の下の石畳が割れた。そして今度は金属が千切れる音。シロが入れられていた鳥籠が真っ二つになり弾け飛んだ。

「ジーーーッ! (だっしゅつーー!)」
「シロッ!」

 ぽーんと籠から飛び出たシロを空中で捕まえる。シロに怪我は一つもなくてマーガレッタとルシアナ嬢が大切に守ったことがすぐにわかった。

「ギャアアッ」
「うわっ!」

 勢い余って筋肉自慢の二人がその場に尻もちをつく。その衝撃でまた石畳が割れるなんて二人とも一体どんな力で引っ張り合っていたんだ??
 おかしなことに二人とも尻もちをついた格好のまま、自分の両手をみて、指を動かして何かを確認しているような動作をしている。

「なんかよお、最近あるんだよなあ? 自分の実力以上の力が出ることがさ。今回もそれっぽいなあ」
「なんでしょう、シロ様のお声の後、急に力が増したような気がしました」
「ジイッ! (それがしろのおちからなのだー!えっへん)」

 私達にシロが喋る正確な言葉はわからない。でも今シロが胸を張って褒めて欲しがっていることは分かる。うん、凄いなあシロは。

「そうか、シロのお陰か。よっ流石神獣!ただお菓子に似た毛玉じゃねえな!」
「ありがとうございます、シロ様! 流石でございます」
「ジーッ! (おかしじゃないのよーっ)」
「あ、怒った」

 ひとしきり安堵で笑いあい、私達は封印塚のある封印広場という場所に急ぐことにした。マーガレッタとルシアナ嬢は城の秘密通路を使い、その広場にある出口から逃げ出してくる算段だという。早くいって助けてやらなくては。誰がいうわけでもなく、我々はひしゃげた鳥籠を捨て、走り出した。

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