83 / 118
隣国ヘーラクレール編
66 私は逃げなくてはなりません
しおりを挟むその寒気がする顔を見た時、咄嗟に恐怖で体が動かなくなった。
「ディ、ディエゴ様、何故こちらに」
そんな私を庇うようにルシアナ様が私とディエゴ王太子の間に入る。ディエゴ王太子と私との間はまだかなり距離があるけれど、ゆっくり近づいてくる姿に恐怖がどんどん増していく。
「ル、ルシアナ様……!」
ルシアナ様と私は背の高さもそんなに変わらないし、年だって変わらない。なのに彼女を盾にするようなことはできない。ルシアナ様は厳しい視線をディエゴ王太子に向けたまま、小声で私に話しかけた。
「マーガレッタ様、もしマーガレッタ様に何かあればヘーラクレールは滅亡します。あなたを溺愛するレッセルバーグ国王と王妃殿下が我が国を許すはずがない。お願いです、マーガレッタ様。あなただけでもお逃げ下さい」
「そ、そんなルシアナ様も一緒に……」
ディエゴ王太子は話が通じない。そんな人の前にルシアナ様一人を置いて逃げるなんて私にはできない。
「もちろん、出来るところまではご一緒ですわ。でも最悪の場合は絶対にお一人でお逃げ下さい……それが私の望みなのです、私はこんな国でもこの国を愛しているのです」
「ルシアナ様……」
ルシアナ様の決意は相当固い……そしてなんて凄い人なんだろうと私は気高い志に圧倒された。国のために今まで尽くした来たルシアナ様……その努力を無駄にしないためにも彼女の心に応えるべきだ。
「わかり……ました」
小さく同意を伝えると緊張の面持ちの中でも少しだけ微笑んだ。
「大丈夫、です。きっとクロードがすぐ来てくれますから。ああ見えてクロードは強いんですよ、今まで手加減してずっとディエゴやゴルダに負けてあげていましたけど、もう容赦しないと思いますし」
「え、ええ……きっとアーサーも一緒に来てくれますよね、すぐに……それまで時間を稼げばいい、そうですね」
「その通りです……頑張りましょう」
いくら軟弱そうなディエゴ王太子といえど、私達が走って逃げてもすぐに追いつかれてしまうだろう。私達のすることはなんとか距離を保ちつつ、時間を稼ぐこと。ディエゴ王太子が一歩こちらへ近づけば一歩下がる……そうやって物理的な距離を取りつつ、逃げる方向を見定める。
「ルシアナ様、ここはお城のどこに当たるのですか」
「ここは中庭奥になります……外に通じる道は城内へ戻るか、ディエゴの後ろの先ほど私達が最初に出る予定だった封印塚のある封印の広場前に通じる道になります」
「……後ろ……」
それが分かっていて、ディエゴ王太子はそちら側から現れたのだろう……王太子のかなり後ろに良く整えられた小道が見える。こんな状況でなければルシアナ様に案内していただいて、楽しく庭木の鑑賞などできたでしょうに。
「中庭奥はかなり広く、バラ園や生け垣の小さな迷路などもあります。ディエゴを中に誘い込んで、なんとかクロード達がいる封印塚の広場へ行ければ……」
「……わかりました」
つまり私達は時間を稼ぎながら中庭の奥へ後退しつつ、隙を見て前方に見えている小道を目指せばいい。土地勘もないし難しいことだけれど、やらなくては。私は無事にレッセルバーグへ帰らなくてはならない。自分のためにもルシアナ様も為にも。
このヘーラクレースのためにも。
応援ありがとうございます!
30
お気に入りに追加
10,979
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。