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隣国ヘーラクレール編

21 ヘーラクレールの血

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「はは、それは済まないことをしたねえ……いやなに、我が妹が酷い侮辱を受けたと私に泣いて訴えたので神殿で何事があったのかと心配になってね? 誰かに聖女の資格ないと罵られたといってねえ?」

 ディエゴ王太子の視線は私のほうを向いている……私はシロ様の言葉を伝えた、でもタニア王女には私が彼女を侮辱したと捉えられたのかもしれない……皆、ディエゴ王太子の言葉に反応してくれ、一番最初に抗議の声を上げてくれたのは神官長様だった。

「王太子殿下、タニア王女に聖女の資格がないのは本当の事でございます。平時ならともかく今はかように国が荒れております。すぐに新しい聖女を指名せねばならぬのに、何故いらぬと突っぱねるのでございましょうか」
「はて、異なことを神官長。王家より必ず一人聖女として任に当たるのがこの国の通例。それに沿っての聖女であるはずであろう?そして聖女が一人おれば良いとタニアが申しておったのだが?」
「……その件も何度も申し上げておりますが、タニア王女は聖女としてのお役目は果たせておりません。一年前に亡くなった平民より聖女になったベルがすべて一人で担っておりました。それゆえ浄化の流れが滞り、国内に瘴気が溢れておるのです!」

 訴える神官長のお話は少し前に私も聞いてとても驚いた。なんとこの状況は王家が作り出していたようなものだと教えてもらったからです。

「はは、神官長殿は何を仰る。我が妹は初代王ヘーラクレールの正当な血を引く王女です。その尊き血を以てして聖女としての資格は十分に備えているのは一目瞭然」

 そう代々言われて来たことだったらしい。しかし神官長は強い視線で王太子を見据える。

「私達もそう思っておりました。ヘーラクレール王の血故、聖女となる……今は何の力もないけれど、いつか聖女として目覚めてくださると思って何とか耐えに耐えておりました。国民に負担をかけ、神官達だけで祈り、いつか立派な聖女として力が花開くであろうと信じてお仕えして参りました。しかし、そうではないと神獣様が教えてくださったのです」

 一度言葉を切り、もっと強い口調で続ける。

「違うのです。ヘーラクレール王の血筋故に聖女なのではなかったのです。努力と研鑽を積んだからこその聖女なのです……立場に甘え、努力を怠ったものを聖女とは呼んではならないのです!」
「……ほう? 神官長は、我がヘーラクレール王家の血を甘くみておるようだな?」

 ディエゴ王太子の目つきも鋭くなった。声を荒げていないけれど、タニア王女が怒った顔とそっくりだった……間違いなく二人は兄妹であの目つきは……怖い、私の元家族も良くあんな目を私に向けて来た……幸せな毎日で思い出す事も少なくなってきたけれど、私の心の深い所にはあの家でお兄様とお姉様に向けられた視線を忘れ切れていない。

「マーガレッタ」
「……! アーサー!」

 指先から冷えてゆく私に暖かい声をかけてくれる人、そうだ……私にはこの人がいる。

「手を繋ごう、マーガレッタ。片手でもシロを抱っこできるね?」
「え、ええ……大丈夫です」
「良かった」

 つないだ手はとても暖かい……おひさまみたいにふわふわと心地よいアーサーの体温はいつでも私を冷たい過去から引き上げてくれる。

「なあアーサー。あの王太子、
「ああ、そうだね、カールさん。でもマーガレッタとシロは用心するに越したことはない」
「だな」

 神官長様と言い争いをするディエゴ王子……確かに怖いけれど、私は一人じゃない、助けてくれる人がこんなにもいてくれる。



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