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隣国ヘーラクレール編

20 記憶の蓋をこじ開けられる気がする

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「ふうん? 資格ねえ……ごきげんよう、レッセルバーグからのお客人。私はこの国の王太子、ディエゴ・ヘーラクレール、以後お見知りおきを」
「……ご丁寧にどうも、王太子ディエゴ殿。こちらからも名乗る前にあなたの妹君を下がらせて貰えないか。神獣様が怯えていらっしゃる」

 私達の中で一番貴族として位が高いアーサーがディエゴ王太子に答えた。突然の場違い気味な台詞に私は狼狽えてしまったが、返事は必要だった。

「ふむ……騎士達、とりあえずタニアを部屋から連れ出して……どこかで落ち着かせると良い」
「お、お兄様っ!何を仰るのですかッ」
「タニアを外へ」
「はっ」
「お兄様ッ!!」

 ディエゴ王子の後ろに控えていた騎士達に強引に連れ出され、廊下に声を響かせながらもタニア王女は部屋から出て行ってくれた……。パタンと扉が閉まり、私と神官さん達はほっと溜息をついたが……神官長とアーサー、カールさんは緊張を保ったままだ。
 目の前にはまだ数名の騎士を連れてディエゴ王太子が立っている……私もしろ様を抱きしめ直し、まっすぐに王太子をみる。

「こちらの要望を聞き届けて頂き感謝する。私はレッセルバーグ第二王子アーサー、そしてこちらが私の婚約者であるマーガレッタ・ナリスニア公爵令嬢。そしてその向こうにいる冒険者が私達が信頼している冒険者のカールだ……私達はレッセルバーグの王太子の命によりこの地を訪れている」
「ああ、聞き及んでいるよ、アーサー王子。王太子は大変な目に合われているそうだね」

 当たり障りのない会話に聞こえるけれど、私はこのディエゴ王太子のことはどうも好きになれなかった。声を荒げてはいないが喋り方、雰囲気がタニア王女とそっくりなのだ。自分以外のすべての人間を下に見ている、そんな感じがする……そして私を上から下までまるで鑑定するような目で見る……ああ、これは最近幸せ過ぎて忘れかけていたけれど、祖国で良く向けられた視線と一緒だ。怖い……気持ち悪い……っ。あの時の記憶の蓋がこじ開けられて行くようなそんな……暗くて辛い、息が吸えない。

「彼女は私の大切な婚約者なんだ」
「っ……アーサー」
「令嬢をジロジロ見ないで欲しいんだがね? 王太子殿下」

 アーサーが私を抱き寄せ、カールさんが王太子の視界から私を隠すように立つ。ディエゴ王太子の値踏みするような視線から隠されてやっと呼吸ができるようになった……。

「ご、ごめんなさい、アーサー」
「無理しないで、マーガレッタ。今はしろを守る、だろ?」
「はい」
「でもタニア王女相手に啖呵を切った時は良かったぜ、マーガレッタ」

 ディエゴ王太子に聞こえないくらいの声で笑顔と共に二人は話しかけてくれた。いつも二人は沈みかけた私を明るい方へ引っ張り上げてくれるんだ。
 
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