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隣国ヘーラクレール編

18 また来た王女

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「道をお開け! 私はこの国唯一にして至高の聖女! その私のいうことを聞けない神官など全員クビにするわよ! あの無礼者たちを出しなさい! 全員処罰してやるんだから!!」

 かなり離れた場所にいるはずなのに、タニア王女の金切り声が神殿の中に響く。抱きかかえているシロ様が恐怖でふるふると震えだす。

「ジ……(まーがれった、こわい、こわいよう)」
「大丈夫、アーサーやカールさんが守ってくれますからね」

 私では微弱な盾にしかなれないかもしれない。でもシロ様を守らなきゃ!

「マーガレッタ、私の後ろから離れないように。シロをしっかり抱っこしてて」
「お願いします、アーサー」
「俺が先頭に立つ。アーサーはマーガレッタとシロ坊を」
「頼んだ、カールさん」

 激しく床を踏み鳴らす音はかなりの人数がいるらしく、神官さん達が止めようとしても無理のようだ。言い争いの喧騒が聞こえ……私達がいる部屋の扉が乱暴に開かれる。

「来なすったぜ、薄汚ぇ第二王女サマがよ」
「お黙り! 冒険者風情がッ! その役立たずをこっちへ寄越しなさい! そしてあんたたちは牢獄行きよ!」
「意味が分からんな。俺達にそんな罪はねえよ。」
「私がそう言ったらそうなの! 私はこの国の王女にして神聖なる神より選ばれし聖女なんですから!」

 はっきり言い切るタニア王女にカールさんは動じない。それどころか軽蔑した眼差しを向け……つばでも吐きかけそうな勢いだった。

「いや、アンタは神から選ばれた聖女じゃねえよ。アンタにゃ聖女の資格は一欠片もねえ……どうせ権力と金で買い取った肩書だろ」
「っ!?」

 言葉に詰まって顔を真っ赤にするタニア王女。どうやら心当たりがあるようだ……。

「お、お前みたいな冒険者にそんなこと分かる訳ないじゃない!」
「分かるさ、俺の信じてる戦神様なら絶対そういうからな」
〈まったくその通りだ。嘆かわしい……ヘーラクレールが知ったら自決するくらい憤慨するだろうよ〉

 カールさんの怒りの横顔に「みなさま」のうちのお一人、戦神様が重なる。二人は同じ気持ちなんだろう。

「ジジ……(おじちゃん……!)」

 戦神様の気配を感じたのか、シロ様が少し顔を上げてカールさんの方を向いた。戦神様もシロ様の気が付いてほんの少しだけ優しい空気が流れたが、すぐに引き締まる。目の前にタニア王女がいるのだから。

「シロ、もっとちゃんとマーガレッタにくっ付いてるんだ」
「ジ……(あーさー……?おにいちゃん?)」
「大丈夫、シロ様……「みなさま」も助けて下さるわ」
「ジ……(まーがれったはおねえちゃんと、せんせい、おねえちゃまも?)」

 きっとしろ様が呟いているのは私に力を貸してくれる「みなさま」のことなのね。近くに温かい気配がする、シロ様を守り抜いてみせる。
 私は一人じゃない、皆がいてくれる。

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