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隣国ヘーラクレール編

3 みなさまは知っていた。

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〈えーと……〉
〈わ、わたくしたちはマーガレッタに幸せになって貰いたくて……〉
〈面倒事を押し付けたくないんだ……〉

「面倒なんてありません、何かあったのですよね? 教えてください」

 「みなさま」と話をしたいとアーサーに告げると、アーサーは笑って部屋から出て行った。

「うん、ゆっくり聞いてみて。分かったら教えてね、下でお茶でも飲んでるよ」
「ありがとう」

 アーサーならいても問題はなさそうだと思ったけれど、アーサーの言葉に甘えさせてもらった。そして自分の中、心の内に話しかけると、少し躊躇し困った様な返事が返ってきた。やっぱり「みなさま」は何か事情を知っているらしかった。

〈えーと……実は〉

 私に心配や面倒事をかけたくないと秘密にしていたことは隣国のヘーラクレール王国に関する事だった。

〈ヘーラクレール王国がある場所はずーっと昔に9つの首がある毒竜ヒュドラが住んでいたんだ。そいつは大地を汚染して人々の命を奪った厄介者で我々も何とかしたいと思っていた。その時、ヘーラクレールっていう聖騎士が立ったんだ〉
〈それで私達はヘーラクレールに力を与えてヒュドラ退治を手伝ったの。ヘーラクレールの討伐は成功したけれど、長年汚染され続けた大地は中々回復しないし、ヒュドラの遺骸も酷い毒と瘴気を放って手が付けられない状態で……だからヘーラクレールの大地に封じ込めるのがやっとだったの〉
〈そして聖騎士ヘーラクレールは子々孫々国王として、ヒュドラの毒と瘴気を封印し続けることになったんだけど長年のことで封印が緩んだんだ〉

 悲しみ感情が伝わって来るからきっと「みなさま」は深いため息をついたんだろう。

〈近隣諸国には内緒にしているがヘーラクレールは今、封印から這い出ている毒と瘴気に晒され、かなりの死傷者が出ている……少し前に聖女が亡くなってから更に酷い〉
〈流石に哀れに思ってね。神殿からの悲痛な叫びに応えて神獣を送ったのよ……でもヘーラクレールでは送った神獣を育てることができなかったの。あまりに力がなくてね〉

「その神獣様が助けを求めているのですね? でもどうしてイグリス様の助けを求めるのですか?」

 また、間が空いた。言いたくない事だったんだろうか。

〈そのね……この辺りで一番聖女としての適性が高いのはマーガレッタなのだけれど、私達が止めたの。マーガレッタに迷惑をかけたくなくて〉

「まあっ! 水臭いじゃないですか!私、迷惑なんて思いません。いつも「みなさま」には力を貸して頂いて感謝しているんですよ」

〈マーガレッタ……そう言ってもらえると嬉しいよ。でも君は自分の幸せを考えて欲しいんだ。もう聖女として頑張って働くことはしなくていい〉

「大丈夫です、私は十分幸せですよ! イグリス様の事もありますが、その神獣様も心配です。毎夜助けてと泣いているんでしょう?」

〈……適任者をずっと探しているんだが、中々見つからなくて。マーガレッタの次に神獣と適性が高かったのがイグリス王太子でね。迷惑をかけているね、彼にも申し訳ない〉

「私、ヘーラクレール王国へ行ってきます。私には聖女の力はないですが、体力回復のポーションを飲ませてあげるだけでも元気が出るかもしれませんし」

〈でもマーガレッタ、あなたはもうそんな事しなくて良いのよ。ここで皆と幸せに暮らすのよ〉

「私がしたくて行くんです、面倒なんかじゃありません。私も「みなさま」のために何かしたいんです。お願いです私に神獣様を助ける手助けをさせてください!」

〈マーガレッタ……ありがとう。凄く嬉しいわ〉

「お任せください!」

 よし、そうと決まればヘーラクレール王国へ行く準備をしなくちゃ。地図でしか見たことのない国だけど、頑張ろうと思う。私はぎゅっと拳に力を込めた。



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