【完結】生き残りたい俺は死者と語る。

鏑木 うりこ

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46 取り巻く状況

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「人の心ね、そんなの俺持ってないよ」

 つい、その男の前で呟いてしまった。彼は聞こえていたのか、そう返してよこした。

「そんなものが生き残るのに何の必要がある?ない方がいい。ぐっと生き残る確率が上がる」

「あ、あなたは人の心を失って何のために生きているの!?」

 思わず口から出た言葉だったが、返って来た返事に唖然としてしまった。

「生き残るために生きている。それ以外何があるというの?」

 この人はどこもかしこもおかしい。人ではないような事を平然としゃべり出す。この人ではない考えがナナというこの人を人ではなく天使だと思わせる一因なのかもしれない……。

「出て行ってくれる?用事は何もないから部屋に近づかないでくれるのが一番嬉しい」

 夜のお渡りの支度以外、食べる物を運ぶだけしか世話をしなくていいから楽と言えば楽だった。着るものも動きやすい物を求めるし、この部屋から一歩も出ないのになぜか汚れていたりもするが、あとは本当に大人しく過ごしている。

「たまに中から喋っている声がしますが……独り言のようです」

 扉の外に配置された兵士がそう言っているくらいだ。ナナは本当によく分からない。




「王がご執心のアレの処分は?」

「ソフィア妃、それが簡単にはいかぬのです」

「何故っ!」

 第三側妃のソフィアは苛立って扇をパシンと打ち付けた。使い捨てのアンヌで挨拶にも来ぬ新参者の男を殺そうとしたのに上手くいかなかった。アンヌやあの男のように遠征のたびに連れ帰る側妃とソフィアは格が違う。正妃と第二、第三側妃まではこの国の有力貴族との政略を伴う婚姻であるからだ。

「わたくし達は貴方たちのような「使い捨て」とは訳が違うのよ?」

 それがソフィアの拠り所であるが、はてさてどんなものなのか。王の渡りがないという点で「寵妃」と何が違うのかと問われれば答えに窮するだろう。だが、それは正妃であっても同じであり、家の格と言うプライドだけで暮らしているといえもする。
 王が遠征から帰って以来、毎日通いのある平民。救いは男であるので、子を成すことがないという事。正妃にも第二側妃にも、第三側妃のソフィアにも王子も王女もいる。子を成す心配はないが、たかが平民のそして男に魅力で負けているのかと思うと、腹立たしさが倍加する。

「何故、アレを始末することが出来ないのですか!?」

「……アレはどうもグレイデールの血を引いているらしいのです。瞳の色に紫が混じっております」

「は!?我が国の宿敵グレイデールの!?なぜそんな危険な者を城内にッ!」

「お、王の御意向でして、我々にはどうしようもなく」

 ソフィアは形の良い爪をギリッと噛んだ。よりによってグレイデールの血を引く者だと?

 遥か昔、この地はグレイルという大きな帝国があった。そこに双子の兄弟が産まれたのだ、名をデールとアッシュと言う。二人とも素晴らしく才能のある人物に育ち、甲乙つけがたい青年に成長した。そしてグレイル帝国は二つに割れたのだ。
 兄のデールにつく者、弟のアッシュにつく者。弟とはいえほんの数分世に出るのが遅かっただけなのだから。血で血を洗う戦いは長きに渡り、ついに国は二つに割れ、兄のデールは「グレイデール」を弟のアッシュは「グレイアッシュ」という二つの国に分かれることになった。
 その二人のどちらかに加担した近隣の国に土地はかなり奪われ、大帝国グレイルは消滅する。思えば二人の骨肉の争いも覇権を狙う近隣諸国の策略であったのかもしれなかった。二つの国に分かれたが、デールとアッシュは抜け目もなく知能も高い人物であった為、次々と周辺国を併呑し、今の国を作り上げた。
 二つの国の間には5か国が挟まり、グレイデールとグレイアッシュは直接国境を触れ合ってはいない。しかしお互いに牽制しあい、ナナが住んでいた地獄街の周りの五か国の小競り合いにちょっかいをかけ、奪い取ろうと日々狙っているのだ。

 それがこの辺りの国の分布図となっていた。

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