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26 泣くのは狡い

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「う、うう……僕は、僕はああ……ずっとずっと兄さんに迷惑をかけ続けて、最後まで兄さんを、兄さんを……」
「泣くな、エセル……一緒にレオンと子供達、そして猫の子と蝙蝠の子に謝ろう。そして約束をたがえなかったことをルドガーに報告するんだ」

 あれから暫くして、勇者オーリが魔王を討ったとの吉報が世界を回った。一時死んだと噂が流れた勇者オーリだったが、無事に魔王を倒し、噂は噂だと誰もが胸をなでおろしたという。あちこちの国や街で歓迎の宴があったけれど、オーリは誇ることもなく、ただ静かに微笑むだけだったらしい。

「確かに、犠牲はたくさんあった……」

 オーリの姿をみて、浮かれていた人々は気を引き締めたという。この平和を長く続けるために出来ることを模索することを忘れないようにと。

 人々から解放されたオーリとエセルはまた小さな町へやってきた。

「あ!勇者オーリだ」
「ほんとだ、勇者ありがとう、魔王を倒してくれて!」
「勇者~!」

 町の子供達の賞賛にも静かな笑顔で答えるだけ。オーリの隣にいる人物の肩を抱き寄せ、りんごの木に囲まれた館へまっすぐに向かう。

「すまない……恨まれているのは重々承知だ。だが、ルドガーに……義兄に挨拶をさせてくれ」

 扉の前で、言い放つオーリの声が聞こえる。

「はーい、今行きまーす」
「!?ルドガー!?」
「はーい、私ですけど?あ、エセルもいたんだ。入って入って」
「ル、ルドガー!どうして、どうして生きてるんだ!あの時灰になったろう!」
「……えっと、玄関で聞きたいのかい?」

 そういうとオーリもエセルも大人しく応接室へやってきた。まあその方が落ち着くでしょ。

「えっとですね。私が異変に気が付いて駆けつけた時にはもうエセルバードさまはとびさったあとで、こんもり灰が残ってるだけだったのですにゃ。でも灰でしたから、もしかして復活できるのかにゃ!?なんて思ったのですが」
「ですがなんだ!」
「にゃあ……にゃんと!灰の山の中からにゅっと足が出て来たんですにゃ!まごうことなきルドガーさまの細い足だったのですにゃあ」
「気持ち悪いよねえ、灰から足なんて」
「良いから続けて!! 」

 エセルに怒られてしまった……。

「それでですね、次々体が出て来て、気が付くとすっぽんぽんのルドガーさまが座っていたわけです。びっくりしましたにゃあ」
「私も何が起こったか分からなかったよ。真っ暗になって、ああ終わるんだなあって思ったらまた明るくなってね」

 本当に何が起こったか分からない。そして……。

「私、吸血鬼じゃなくなってたんだ」
「じゃあ今目の前にいるルドガーは何なんだ」
「……淫魔だよ……一番近いのはサキュバス種らしい……エセルが5つも核を埋めるから!核が死ぬことを拒否して、肉体を再構成したんだって。その時に吸血鬼成分を排除して、サキュバスとして作ったって!私、男なのにサキュバスだよ!分かる?元々人間だったのに、吸血鬼になって、さらに淫魔だよ!どうしてくれるの!」

 私はいっぱい怒って良いはずだ!ぷう、と頬を膨らませたらエセルが滝のように泣き出してしまった。えー!泣くなんて狡くないかなー!
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