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その他の話

7 帰るか7

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「とりゃぁーーー!」

「ぎゃーーー!」

 流石に俺もリオウも目を丸くした。キーチェは黒い弾丸のように飛んで行ってナーチをぽーんと吹き飛ばしてしまった。

「え?」

「早い!」

「いっくよー!」

「来るなーーーっ!」

 場外、とかそんなレベルじゃない。壁際まで逃げたナーチに向かってすっ飛んでいって渾身、には程遠い蹴りを繰り出す。しかも当てるつもりはないらしくナーチのだいぶ上を狙って……ボゴォッ!凶悪な音がして壁が無くなった。

「ひぇえ……」

 青くなっているのは俺だ。なんせ決闘場の壁は穴だらけ、梁は折れてぼろぼろ。もちろんやったのはキーチェただ一人。

「良いぞ、キーチェ!やれぇ」

「ボコったれーーー!」

 ランシャ様達は囃し立て、キーチェはますます調子にのってあちこち壊しまくっている。

「3人まとめてでもいーよ!だって君達獅子の血なんだろ?」

「ううっ!ニーズ、ネネイっ来い!」

「兄上ぇ!」

 10歳対8歳、しかも3対1なのにキーチェはにやっと笑って

「そーい!」

「うぎゃーーー!」

 まとめて投げ飛ばしてしまった。いくら連携しようが圧倒的な暴力の前になすすべなんてなかったんだ。

「はっはっは!これは次の王太子はキーチェで決まりではないか」

 愉快そうにパンパンと拍手をしながら王様がやって来た。何言ってんのかな??

「やはり男の子はこれくらいヤンチャでなければのう」

 いや待ってくれ、ヤンチャのレベルを超えてますけど?!

「キーチェ、お前の勝ちだ」

 キーチェの目の前で止まった王様はキーチェを優しく見ている。

「うーん、なんだか弱い者虐めをしてるみたいで俺はやだったよ、お爺ちゃん。これならケティとクーの方が強いと思うもん」

「……そうか、ナーチは弱かったか?」

 キーチェは素直にこくんと頷いた。

「だって遅いんだ、次に何をするか分かるもん。分かったらそこから避ければ良いだけだもん」

「ほう」

 何だかキーチェがとんでもないことを言っている気がするけど気のせいだろうか……。俺は隣にいるリオウに恐る恐る聞いてみる。

「どう、思う?」

「あれ程までとは思わなかった。町は駄目だ、キーチェは力を正しく使う訓練が必要だ。このままでは意図せずに誰かを傷つける可能性がある。親としてここで最高の技官に学ぶ事を薦める」

 真剣な眼差しだったから、俺は降参のポーズで両手を上げるしかなかった。後からわかったことなんだが、やっぱりあの強さは俺のせいで、他の獣の混じり気のない人族でさらに異世界人に虎の血がかけ合わさったゆえに生まれた力だそうだ。

 それによって引きこもりになっていたヒュー君が注目を浴びたが、あの国の王子がすべて断ったらしい。

「ヒューくらいは喚んだ我が国で。いえ、私が責任を持ちます」

「おうじさまぁ……」

 わがままも沢山してかなり困らせたようだけれど、落ち着いて来たらしい。中学生って言ってたからね、保護者が必要だったんだろう。

「なんかそんなとんでもない超虎が後四人程いるんですが??」

「あっはっは!頼もしい限りだよ!」

 歩く爆弾みたいな子供達を本当に嬉しそうに誇るから、やっぱりリオウの国に来て良かったようだ。

「ケティもクーも好きなタイミングで武術を習い始めたら良いし、サーシャもスオウもいつだって良い。俺は強い子供達に囲まれて嬉しいぞ!いやあガチで戦える相手が息子になるなんてなあ!」

 いや、訂正。リオウもお馬鹿だった。結局子供達のことを考えると王宮に残らざるを得なかった。しかし、キーチェの強さが周りに伝わって獣人たちはキーチェを尊重してくれるようになったし、母親のジュライ妃や妹のヒルデが面倒で口を出さなかったハイラムが声を上げるようになったのも大きい。

「だから私はリオウと王位を取りあおうなんて思ってないんです。私はどちらかというと研究職の方が好きなんで!子供達を王位につけたいとも思っていない!」

 そして力による優劣がついてしまうとナーチ達はキーチェに嫌味を言わなくなった。逆にキーチェがナーチ達を追いかけ始めてしまった。

「ナー兄さんニー兄さんネー兄さん!」

「な、なんだよ。キーチェ」

 兄さん兄さんと慕われるとあの三人も悪い気がしないらしく、いろいろとキーチェに教えてくれているらしい。何せキーチェはあの三人とやったいたずらや悪だくみを俺に隠すようになってきたんだよなあ。ま、王宮の誰かが見ていて危ないことは止めてくれているんだが。

「キーチェも下の弟妹の世話ばかりだと息苦しいよな。兄さん達と行動したい年頃になったんだな」

 ケイティ達は少し不満げだが、ランシャ様が今まで以上に構ってくれてそっちは女子同士で盛り上がっているらしい。俺は下のサーシャとスオウに時間を多く割けるようになったしクレノには厄介な虫も付いてリオウとバチバチやっている。まだわからないが多分クレノはオメガの気配がしていて、それを嗅ぎつけた面倒な奴が寄ってきてしまった。

「町で暮らしたかったんだけどなあ」

 王宮は良い人がたくさんいるがやっぱり疲れる。気楽な街暮らしの方が俺は好きだ。

「子供達が大きくなったら町へ降りよう。でも親父がキーチェを気に入ってしまったからなあ……」

 キーチェ王か……頼もしいようなやっぱり不安なような気がする。

「しゃあない、しばらく王宮で我慢しますか」

「住みよい王宮になるように努力しますので、もうしばらく我慢してくださいお嫁様」

 この国で一番住みよい場所をそんな風にリオウは言う。もちろんその冗談に乗ってやるしかないよな?

「しょうがないから我慢してやるとするか」

「ははー、ありがたき幸せ」

 真面目な役人が聞いたら怒り出す所だろうけれど、近くにいなくて助かった。でもきっとリオウは何かと変えて行ってくれる気がする。やるといったらやる男だし……俺には甘くて優しい。

「全部、俺に任せておけ」

「……いや、二人でやろう。俺はそうしたい」

 少し驚きに目を見開いたが、リオウはやっぱり俺を優先してくれる。

「ああ、流石俺のカイリだ」

 尻尾を俺の腕に絡ませてくるのは嫌いじゃない。俺はきっとここで上手くやっていけるだろう、何せ周りが頼もしすぎる。

「そうと決まれば、キーチェには勉強して貰わないとなあ」

「それは一番難題かもしれんな!」


 俺達は腹の底から笑いあうことができるこの場所が大好きだ。





 
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