【本編完結】オマケ転移だった俺が異世界で愛された訳

鏑木 うりこ

文字の大きさ
30 / 42
その他の話

7 帰るか7

しおりを挟む
「とりゃぁーーー!」

「ぎゃーーー!」

 流石に俺もリオウも目を丸くした。キーチェは黒い弾丸のように飛んで行ってナーチをぽーんと吹き飛ばしてしまった。

「え?」

「早い!」

「いっくよー!」

「来るなーーーっ!」

 場外、とかそんなレベルじゃない。壁際まで逃げたナーチに向かってすっ飛んでいって渾身、には程遠い蹴りを繰り出す。しかも当てるつもりはないらしくナーチのだいぶ上を狙って……ボゴォッ!凶悪な音がして壁が無くなった。

「ひぇえ……」

 青くなっているのは俺だ。なんせ決闘場の壁は穴だらけ、梁は折れてぼろぼろ。もちろんやったのはキーチェただ一人。

「良いぞ、キーチェ!やれぇ」

「ボコったれーーー!」

 ランシャ様達は囃し立て、キーチェはますます調子にのってあちこち壊しまくっている。

「3人まとめてでもいーよ!だって君達獅子の血なんだろ?」

「ううっ!ニーズ、ネネイっ来い!」

「兄上ぇ!」

 10歳対8歳、しかも3対1なのにキーチェはにやっと笑って

「そーい!」

「うぎゃーーー!」

 まとめて投げ飛ばしてしまった。いくら連携しようが圧倒的な暴力の前になすすべなんてなかったんだ。

「はっはっは!これは次の王太子はキーチェで決まりではないか」

 愉快そうにパンパンと拍手をしながら王様がやって来た。何言ってんのかな??

「やはり男の子はこれくらいヤンチャでなければのう」

 いや待ってくれ、ヤンチャのレベルを超えてますけど?!

「キーチェ、お前の勝ちだ」

 キーチェの目の前で止まった王様はキーチェを優しく見ている。

「うーん、なんだか弱い者虐めをしてるみたいで俺はやだったよ、お爺ちゃん。これならケティとクーの方が強いと思うもん」

「……そうか、ナーチは弱かったか?」

 キーチェは素直にこくんと頷いた。

「だって遅いんだ、次に何をするか分かるもん。分かったらそこから避ければ良いだけだもん」

「ほう」

 何だかキーチェがとんでもないことを言っている気がするけど気のせいだろうか……。俺は隣にいるリオウに恐る恐る聞いてみる。

「どう、思う?」

「あれ程までとは思わなかった。町は駄目だ、キーチェは力を正しく使う訓練が必要だ。このままでは意図せずに誰かを傷つける可能性がある。親としてここで最高の技官に学ぶ事を薦める」

 真剣な眼差しだったから、俺は降参のポーズで両手を上げるしかなかった。後からわかったことなんだが、やっぱりあの強さは俺のせいで、他の獣の混じり気のない人族でさらに異世界人に虎の血がかけ合わさったゆえに生まれた力だそうだ。

 それによって引きこもりになっていたヒュー君が注目を浴びたが、あの国の王子がすべて断ったらしい。

「ヒューくらいは喚んだ我が国で。いえ、私が責任を持ちます」

「おうじさまぁ……」

 わがままも沢山してかなり困らせたようだけれど、落ち着いて来たらしい。中学生って言ってたからね、保護者が必要だったんだろう。

「なんかそんなとんでもない超虎が後四人程いるんですが??」

「あっはっは!頼もしい限りだよ!」

 歩く爆弾みたいな子供達を本当に嬉しそうに誇るから、やっぱりリオウの国に来て良かったようだ。

「ケティもクーも好きなタイミングで武術を習い始めたら良いし、サーシャもスオウもいつだって良い。俺は強い子供達に囲まれて嬉しいぞ!いやあガチで戦える相手が息子になるなんてなあ!」

 いや、訂正。リオウもお馬鹿だった。結局子供達のことを考えると王宮に残らざるを得なかった。しかし、キーチェの強さが周りに伝わって獣人たちはキーチェを尊重してくれるようになったし、母親のジュライ妃や妹のヒルデが面倒で口を出さなかったハイラムが声を上げるようになったのも大きい。

「だから私はリオウと王位を取りあおうなんて思ってないんです。私はどちらかというと研究職の方が好きなんで!子供達を王位につけたいとも思っていない!」

 そして力による優劣がついてしまうとナーチ達はキーチェに嫌味を言わなくなった。逆にキーチェがナーチ達を追いかけ始めてしまった。

「ナー兄さんニー兄さんネー兄さん!」

「な、なんだよ。キーチェ」

 兄さん兄さんと慕われるとあの三人も悪い気がしないらしく、いろいろとキーチェに教えてくれているらしい。何せキーチェはあの三人とやったいたずらや悪だくみを俺に隠すようになってきたんだよなあ。ま、王宮の誰かが見ていて危ないことは止めてくれているんだが。

「キーチェも下の弟妹の世話ばかりだと息苦しいよな。兄さん達と行動したい年頃になったんだな」

 ケイティ達は少し不満げだが、ランシャ様が今まで以上に構ってくれてそっちは女子同士で盛り上がっているらしい。俺は下のサーシャとスオウに時間を多く割けるようになったしクレノには厄介な虫も付いてリオウとバチバチやっている。まだわからないが多分クレノはオメガの気配がしていて、それを嗅ぎつけた面倒な奴が寄ってきてしまった。

「町で暮らしたかったんだけどなあ」

 王宮は良い人がたくさんいるがやっぱり疲れる。気楽な街暮らしの方が俺は好きだ。

「子供達が大きくなったら町へ降りよう。でも親父がキーチェを気に入ってしまったからなあ……」

 キーチェ王か……頼もしいようなやっぱり不安なような気がする。

「しゃあない、しばらく王宮で我慢しますか」

「住みよい王宮になるように努力しますので、もうしばらく我慢してくださいお嫁様」

 この国で一番住みよい場所をそんな風にリオウは言う。もちろんその冗談に乗ってやるしかないよな?

「しょうがないから我慢してやるとするか」

「ははー、ありがたき幸せ」

 真面目な役人が聞いたら怒り出す所だろうけれど、近くにいなくて助かった。でもきっとリオウは何かと変えて行ってくれる気がする。やるといったらやる男だし……俺には甘くて優しい。

「全部、俺に任せておけ」

「……いや、二人でやろう。俺はそうしたい」

 少し驚きに目を見開いたが、リオウはやっぱり俺を優先してくれる。

「ああ、流石俺のカイリだ」

 尻尾を俺の腕に絡ませてくるのは嫌いじゃない。俺はきっとここで上手くやっていけるだろう、何せ周りが頼もしすぎる。

「そうと決まれば、キーチェには勉強して貰わないとなあ」

「それは一番難題かもしれんな!」


 俺達は腹の底から笑いあうことができるこの場所が大好きだ。





 
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。 ----------------------------------------- 0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

愛を知らない少年たちの番物語。

あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。 *触れ合いシーンは★マークをつけます。

処理中です...