【本編完結】オマケ転移だった俺が異世界で愛された訳

鏑木 うりこ

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その他の話

1 ヒューの大冒険1

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「うわあああっうわああああん!」

 子供の泣き声がする。しかも本当に小さな子供じゃない。年の頃はそう……もう24.5にでもなろう大人だが、カイリさん曰く

「中学生って言ってたからなー。しかも毎日親の送り迎えつきの塾通い。ちょっと……いや、結構甘やかされて育って……あっこれはヒュー君には言わないで。中学生ってのはね、子供に毛が生えたような……見た目は立派な青年だけど、まだまだ子供って事だよ」

 もう三人も子供がいて自分の立場を確立し、しっかり自立し……ディーゲ獣王国の時期王妃としての作法も身につけつつあるカイリさんとはまったく違う。

「比べちゃ可哀想だよ。優しくしてやって欲しいんだ……寂しいんだよ」

 そう言われると少し、いやかなり煩わしいが手を差し伸べなくてはならないと思うし……ヒューを無理やりこちらの世界に連れて来たのは私達だ。

「ヒュー」
「アディ!」

 転んで泣いていたのに、ヒューはものすごい速さで駆け寄って来て、私の胸に飛び込んだ。

「できない、できないよー!」
「何ができないんだい?」

 私とさほど変わらない年恰好のヒューに飛びつかれると流石にたたらを踏んでしまうが、転ぶことなくなんとか受け止めた。私も体を鍛えた方が良さそうだ。

「あの騎士団長が、木刀で石を切れっていうの!木で石を切れるわけないでしょう!出来ないことをやらせようとしてるの!見て、僕の手。皮がむけて血がでたの、痛い、痛いよーアディ、うわあああん」

 ヒューはぼろぼろと大粒の涙を流す。私にしがみついて泣いている姿は……とても庇護欲を誘って可愛らしいとは思う。

「本当だね、この手は痛そうだ……ヒール」
「わあい!アディありがとう!痛くなくなったよお!」

 小さな治癒魔法を使うことができる私は最近少し硬くなってきたヒューの手のひらを治してあげられる。最初来た時には包丁も持ったことがない細くてきれいな手のひらだったのに、最近は剣ダコが出来ていた……頑張っているんだね。

「ダン団長、ヒューに革手袋を上げていいだろう?流石に痛そうだ」
「そ、それは……そうですね」
「手袋をしなさい、ヒュー。そしたらここまで酷くならないからね」
「買ってくれるの!?」
「一緒に買い物に行こう、今日は無理だけど、二日後に予定を調整する、どうだい?」
「わーーい!アディと買い物、楽しみ」

 さっきまで泣いていたのに、もう笑っている。ヒューはいい子なんだ……カイリさんを襲った事件もヒューの鬱屈した心に気が付いてやれなかった周りの大人のせいもあるし、ヒューを使ってカイリさんを誘拐しようとした貴族の汚い思惑もあった。


 あの事件は不審なことがありすぎて、徹底的に調べ上げると、他国と通じた我が国の貴族がカイリさんを誘拐し、他の国に売り渡そうとしていたことが分かった。そしてその責任をすべてヒューに押し付ける手筈だったと。
 ことが発覚して、冷静になったヒューは毎日泣いて暮らしていた。

「ぼく……ぼく、カイリさんになんてことを!カイリさん、カイリさん……ごめんなさい、僕、ぼく……う、ううう」

 カイリさんの無事が確認され、ティーゲ国で元気に暮らしていて……ヒューに会いに来てくれるまでヒューは部屋から一歩も出なかった。

「怒ってた。でも許すよ。俺達はここで生きて行かないといけないんだ、なら生きよう」
「カイリさん……うわあああんっ」

 青白い顔でガリガリに痩せたヒューはやっと外に出て来た。やって来た時の可愛らしさも何もかもなくなっていたけれど、ヒューはあれからすぐに元気を取り戻した。


「ヒュー。でもさ、木刀で石を切ったら、かっこいいよね?」
「え!かっこいい?ホント?ホント??アディ、かっこいいっておもう?」
「思うよ、凄くかっこいいと思う」
「そ、そう……だよね!だんちょー!もう一回やってみる~~!教えて!」

 ヒューは要らないと投げ捨てた木刀を拾って、ダン団長の所へ走って行く。ヒューは今は素直で元気だ、その笑顔に癒される事も多い。

「フッ!! 」
「おお!! 」

 気合の入った掛け声と空を裂く音が聞こえて、ダン団長の感嘆の声が聞こえ……修練場にあった巨大な岩がズズ……と音を立てて、一部が滑り落ちる……え?

「う、嘘だろう、本当に木刀で石を切るなんて……伝説の勇者と同じじゃないか……」

 私はきっと口を開けていただろうし、ダン団長もまさか本当に石を切るとは思っていなかったと思う。だって手がブルブル震えているもの。

「わあああい!できたあ~アディできたよ~~~!僕、かっこいい?かっこいい??」

 ぴょんぴょんとヒューは跳ねながらこちらへ向かってくる。ヒューは褒めれば褒めるほど実力が伸びるタイプのようだ……そしてその力は勇者と呼ぶのに相応しいと言える。

「うん、凄くかっこいいよ、ヒュー。流石だね」
「やったあ~~!じゃあさ、お買い物の時に、ケーキも買ってよ、僕、甘い物食べたい!」
「ああ、もちろんだとも」
「やったぁ~~!一緒に食べようね!」

 ヒューは自分がオマケだから、自分は何もできないと言っているがどうだろう?ヒューには彼の言う勇者の力が備わっているのではないだろうか?





______(*‘ω‘ *)お久しぶりでーす。


オマケ勇者、日遊(ヒュー)君の番外編です。
この「オマケ転移~」をなろう・ムーンライトさんに転載した所、「ヒューどうなったの?」というご意見を頂戴いたしまして、番外編としてドタバタが始まりました。

アディ王太子(α)×転移勇者(オマケの方)ヒュー(α)がもちゃもちゃする話になります。

こちらで先行後、ムーンさんでも更新予定となっております~(*‘ω‘ *)
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