15 / 26
15 確かにその通りです
しおりを挟む
色んな罠みたいな人達を掻い潜り、アンセルは無事最終学年に到達した。一学年上のランディ先輩や王太子オレルアン殿下が卒業だ。
「最後のパーティくらい来てくれよ」
「私達は最後ではないので、先輩達の同級の人達と楽しんでください」
そんな危ないパーティになんて出る訳がない!弱味を握られている訳じゃないし、卒業パーティはやっぱり卒業生で楽しむ物だろうしね!
アンセルと私ユールは生徒会のような執行部会に誘われたけれど、アンセルは辞退した。だから私も勿論辞退して、のんびりとした最後の学生を過ごすことにした。のんびりといっても卒業と同時に領地経営の実践や社交界に本格参入となるから本当にのんびりなんてしていられないのだけれども。
新しく入ってくる一つ下の学生達も結局は後輩で見知った顔も多い。有力だったり縁故だったりする子息達との顔合わせは済んでいるからまあ楽なものだ。
「……うう、吐きそう」
「ダルタン、流石にもう無理だと思う」
アンセルが気づかわし気に背中をさすってやるけれど、私はため息をつくしかない。
「時期を考えなよ……まだ学生なんだよ、ダルタンは」
本当にダルタンもグリード先生も実験馬鹿だから……時期も何も考えずに試したらしいんだよね。自分達の理論と研究の成果の男性妊娠薬を。そしたら……天才って怖いよね、ダルタンのお腹はもう隠しきれないほど膨らんじゃって、吐きそう、吐きそうって……悪阻だよね、レモンばっかり齧ってる。
太ったっていう言い訳ももう無理なくらい。お腹だけがポンと大きくなってきちゃってるから……ダルタンは近々休学しないと駄目だろう。もしかしたらそのまま退学かもしれないし、グリード先生は辞職かクビか……。
「ある意味生徒に手を出して妊娠させた教師だもんなぁ」
「言葉に嘘はないね」
「でもぉ……」
まったく「でも」じゃないよ?ダルタン。
「届、書きなよ」
「……うん……」
ダルタンとグリード先生は二人の両親とも話し合って、アンセルの王都のフェルム家でお世話になることになった。製薬の研究室を拡大、屋敷の離れを研究所兼2人の愛の巣にする事に。何せ、アンセルのお父さんの公爵がダルタンとグリード先生に最大限の支援を約束してるからね。
「二人の研究がなければ私はあのままベッドの上で寝たきりだっただろう」
フェルム公爵は痛みと戦い、相当な努力の末に、とうとう自力で歩けるようになった。勿論、杖は必要だし、ゆっくりだけれど、脊椎を損傷したであろう成人男性が歩けるようになったんだよ?!ダルタンとグリード先生の研究は本当にすごいと思う。そしてその技術は今、少しづつ実験をする人々を増やしていて数年後には治療法として確立するかもしれない。
戦いで腱を切られて腕が動かなくなったり足が動かなくなったりした人なんかを募って今の所かなりの確率で良い方向へ進んでいる。なんでそっち方面だけ特化しなかったのかなあ……?
「へへ……でもねえ、先生とボクの子供だよ」
「絶対実験好きの薬好きな天才が産まれるね」
ダルタン、幸せそうなんだよねえ。「俺」の作ったゲームにこんな事はなかったけれど、ニコニコ笑うダルタンを見ていたらこれで良かったのかもしれないって思ってしまう。暗い顔でオドオドしながらランディ先輩の後ろをついて歩くダルタンより絶対良かったよね?ゲームのダルタンの最後は禁忌の薬物を製造した罪で斬首だった。
「は、はは……やっと、やっと楽になれる……」
それがゲームのダルタンの最後の言葉で、泣きながら首が転がるシルエットのスチルを挟んだ気がするな。
「ディル。一緒に行こう」
今後について決めた翌日、教室にグリード先生がやって来て、ダルタンの手を取った。
「アンセル君、お世話になるよ」
「勿論ですよ、先生。うちの馬車が門の所で待ってますからそのまま乗って帰って下さい」
「ありがとう」
ゆっくりダルタンを立たせて、二人で学園長室へ向かっていく。辞表と退学届を出しに行く二人なのにとても楽しそうで幸せそうなのが不思議だ。きっと二人の届けは受理されて、そのまま学園には戻ってこないだろう。
「あれで良かったんだよね、アンセル」
「そうだよね……。私が頼んだから早く実験しちゃったんだよねえ、ダルタン。私が早くユールに私の子供を産んで貰いたくて……」
「……アンセル何を言ってるんだい……」
はあ、アンセルは別の国にいる婚約者と結婚するんだろうに。私じゃなくてその女性に跡継ぎを産んで貰いなさいよ。
「最後のパーティくらい来てくれよ」
「私達は最後ではないので、先輩達の同級の人達と楽しんでください」
そんな危ないパーティになんて出る訳がない!弱味を握られている訳じゃないし、卒業パーティはやっぱり卒業生で楽しむ物だろうしね!
アンセルと私ユールは生徒会のような執行部会に誘われたけれど、アンセルは辞退した。だから私も勿論辞退して、のんびりとした最後の学生を過ごすことにした。のんびりといっても卒業と同時に領地経営の実践や社交界に本格参入となるから本当にのんびりなんてしていられないのだけれども。
新しく入ってくる一つ下の学生達も結局は後輩で見知った顔も多い。有力だったり縁故だったりする子息達との顔合わせは済んでいるからまあ楽なものだ。
「……うう、吐きそう」
「ダルタン、流石にもう無理だと思う」
アンセルが気づかわし気に背中をさすってやるけれど、私はため息をつくしかない。
「時期を考えなよ……まだ学生なんだよ、ダルタンは」
本当にダルタンもグリード先生も実験馬鹿だから……時期も何も考えずに試したらしいんだよね。自分達の理論と研究の成果の男性妊娠薬を。そしたら……天才って怖いよね、ダルタンのお腹はもう隠しきれないほど膨らんじゃって、吐きそう、吐きそうって……悪阻だよね、レモンばっかり齧ってる。
太ったっていう言い訳ももう無理なくらい。お腹だけがポンと大きくなってきちゃってるから……ダルタンは近々休学しないと駄目だろう。もしかしたらそのまま退学かもしれないし、グリード先生は辞職かクビか……。
「ある意味生徒に手を出して妊娠させた教師だもんなぁ」
「言葉に嘘はないね」
「でもぉ……」
まったく「でも」じゃないよ?ダルタン。
「届、書きなよ」
「……うん……」
ダルタンとグリード先生は二人の両親とも話し合って、アンセルの王都のフェルム家でお世話になることになった。製薬の研究室を拡大、屋敷の離れを研究所兼2人の愛の巣にする事に。何せ、アンセルのお父さんの公爵がダルタンとグリード先生に最大限の支援を約束してるからね。
「二人の研究がなければ私はあのままベッドの上で寝たきりだっただろう」
フェルム公爵は痛みと戦い、相当な努力の末に、とうとう自力で歩けるようになった。勿論、杖は必要だし、ゆっくりだけれど、脊椎を損傷したであろう成人男性が歩けるようになったんだよ?!ダルタンとグリード先生の研究は本当にすごいと思う。そしてその技術は今、少しづつ実験をする人々を増やしていて数年後には治療法として確立するかもしれない。
戦いで腱を切られて腕が動かなくなったり足が動かなくなったりした人なんかを募って今の所かなりの確率で良い方向へ進んでいる。なんでそっち方面だけ特化しなかったのかなあ……?
「へへ……でもねえ、先生とボクの子供だよ」
「絶対実験好きの薬好きな天才が産まれるね」
ダルタン、幸せそうなんだよねえ。「俺」の作ったゲームにこんな事はなかったけれど、ニコニコ笑うダルタンを見ていたらこれで良かったのかもしれないって思ってしまう。暗い顔でオドオドしながらランディ先輩の後ろをついて歩くダルタンより絶対良かったよね?ゲームのダルタンの最後は禁忌の薬物を製造した罪で斬首だった。
「は、はは……やっと、やっと楽になれる……」
それがゲームのダルタンの最後の言葉で、泣きながら首が転がるシルエットのスチルを挟んだ気がするな。
「ディル。一緒に行こう」
今後について決めた翌日、教室にグリード先生がやって来て、ダルタンの手を取った。
「アンセル君、お世話になるよ」
「勿論ですよ、先生。うちの馬車が門の所で待ってますからそのまま乗って帰って下さい」
「ありがとう」
ゆっくりダルタンを立たせて、二人で学園長室へ向かっていく。辞表と退学届を出しに行く二人なのにとても楽しそうで幸せそうなのが不思議だ。きっと二人の届けは受理されて、そのまま学園には戻ってこないだろう。
「あれで良かったんだよね、アンセル」
「そうだよね……。私が頼んだから早く実験しちゃったんだよねえ、ダルタン。私が早くユールに私の子供を産んで貰いたくて……」
「……アンセル何を言ってるんだい……」
はあ、アンセルは別の国にいる婚約者と結婚するんだろうに。私じゃなくてその女性に跡継ぎを産んで貰いなさいよ。
26
お気に入りに追加
1,671
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の兄、閨の講義をする。
猫宮乾
BL
ある日前世の記憶がよみがえり、自分が悪役令嬢の兄だと気づいた僕(フェルナ)。断罪してくる王太子にはなるべく近づかないで過ごすと決め、万が一に備えて語学の勉強に励んでいたら、ある日閨の講義を頼まれる。
帝国皇子のお婿さんになりました
クリム
BL
帝国の皇太子エリファス・ロータスとの婚姻を神殿で誓った瞬間、ハルシオン・アスターは自分の前世を思い出す。普通の日本人主婦だったことを。
そして『白い結婚』だったはずの婚姻後、皇太子の寝室に呼ばれることになり、ハルシオンはひた隠しにして来た事実に直面する。王族の姫が19歳まで独身を貫いたこと、その真実が暴かれると、出自の小王国は滅ぼされかねない。
「それなら皇太子殿下に一服盛りますかね、主様」
「そうだね、クーちゃん。ついでに血袋で寝台を汚してなんちゃって既成事実を」
「では、盛って服を乱して、血を……主様、これ……いや、まさかやる気ですか?」
「うん、クーちゃん」
「クーちゃんではありません、クー・チャンです。あ、主様、やめてください!」
これは隣国の帝国皇太子に嫁いだ小王国の『姫君』のお話。
神獣の僕、ついに人化できることがバレました。
猫いちご
BL
神獣フェンリルのハクです!
片思いの皇子に人化できるとバレました!
突然思いついた作品なので軽い気持ちで読んでくださると幸いです。
好評だった場合、番外編やエロエロを書こうかなと考えています!
本編二話完結。以降番外編。
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます
オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。
魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。
【完結】目が覚めたら縛られてる(しかも異世界)
サイ
BL
目が覚めたら、裸で見知らぬベッドの上に縛られていた。しかもそのまま見知らぬ美形に・・・!
右も左もわからない俺に、やることやったその美形は遠慮がちに世話を焼いてくる。と思ったら、周りの反応もおかしい。ちょっとうっとうしいくらい世話を焼かれ、甘やかされて。
そんなある男の異世界での話。
本編完結しました
よろしくお願いします。
子悪党令息の息子として生まれました
菟圃(うさぎはたけ)
BL
悪役に好かれていますがどうやって逃げられますか!?
ネヴィレントとラグザンドの間に生まれたホロとイディのお話。
「お父様とお母様本当に仲がいいね」
「良すぎて目の毒だ」
ーーーーーーーーーーー
「僕達の子ども達本当に可愛い!!」
「ゆっくりと見守って上げよう」
偶にネヴィレントとラグザンドも出てきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる