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121  助けを求める相手が一人しかいないから*

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「ラ、ラム……」

「ん」

「ぬ、ぬぬぬ……」

「はっきり言え」

 ぬぅっ!頼みたいような、とても頼みたくないような。しかしもう限界だ。力いっぱい締め上げられたコルセットはきつくてきつくてもう眩暈もするし、リボンやらネックレスやらどこでどうつながっているか分からないし。靴ですら脱げない。なんだこれ?縛ってあるのか??これは服というよりドレスというより拘束具だろう!?黒いし!

「ぬ、脱がせてぇ……」

 もう無理、限界。空気をいっぱい吸いこみたい!顔の化粧は落としてもらった涙目の俺はラムに頼むしかなかった。だってメイドちゃんとか呼んでも来ないんだもん!!!絶対ラムが何か言った!

「ふふ、分かった」

「は、早くぅ」

 苦しいいいいいい!吐きそう!とりあえずコルセットだけでも緩めてくれええええ!ぶわっと広がったスカートの中に手を突っ込んで中でぎゅうぎゅうに締め上げている紐だけでも解いてもらう。

「ど、どうして女性はこんなに締めたがるんだ……勘弁して欲しい」

「ふふ、そうだな」

 ラムは笑っているが、俺にはそんな余裕はない。やっと息がまともに吸えるようになった気がする。それにしてもこの服どうなってるんだ??まともに動けないぞ?

「なあこれ、どうなってんの?早く助けてよ」

「助けて、ではなくて脱がせてだろう?」

「どっちでも一緒だ!」

 脱げば助かるだろう!?



「んひっ……っ」

 いや、少しは理解出来る、少しだけだけれども。非日常な格好をしたままコトに及んでみたいと思うというフェチズムな感じ、少しは分かるけれど。但しやられる側になりたくはなかった。
 確かにこの世界に来て、着替えを手伝ってもらうと言う事に抵抗はなくなっていた。側妃という立場だったから女装というかドレスっぽい服を着る事もあったし、下着もそれに合わせて女性っぽい物を用意されることも良くあった……誰かの趣味とかなんとかでちょっと透けてるとかまあ色々あったから……割とそれが普通だって勘違いして油断してたって言うのもあった。あとこの服を着付けたメイド達の手際が良すぎて気が付いたら穿き替えていたって言うのもあったが……。

 いつの間にか穿かされていた黒い紐パンよ、どこへ飛んで行った?めちゃくちゃ薄いぱんつだったけどあるのとないのじゃ大ちがいなんだぞ。

 俺はぱんつだけを失った姿でラムに抱かれている。

「ラ、ラム、やめ……んっ!」

「やめない」

「脱がせてくれるんじゃ……なかったのか?」

「脱がせるさ、一枚づつ」

 嫌な宣言だな。でも言葉通り良く分からない構造のドレスを脱がせて行く。ウェストの所の編み上げ紐を解いてくれた時にやっと窮屈さがなくなった。

「これ、汚れちまうよ……」

 この途中から色が変わっていく黒いウエディングドレス、高いんだろう?布自体なんかキラキラしてるし、柔らかな手触りが高級感満載だもん。
 倒れ込んでるから下敷きになった所はもう皺になってるかもしれないけど、皺と液体系の汚れは別モンだからな……。

「レーツィアが私に寄越した物だ。だからどう扱おうが私の好きにして良いそうだ」

「へ、へぇ。も、もしかして今回の報酬はコレだった?」

 皇帝を引退したラムは表に出る事を避けていた。それなのにいくらレーツィアの頼みとは言え、こんな発表会に姿を現すなんて、どう言う風の吹き回し?って思っていたんだよ。

「ああ、レーツィアはいつも何かと面白い物を用意してくれる」

 ニヤリと笑うラムがそう言えばだいぶ昔着せたドレスを脱がせたいとか言ってたな、とふと思い出した。




 

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