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110 俺達は引退したはず……あれ?

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 俺達のスローライフはここらか始まるぜ!と王宮から馬車で30分のアイリス領の屋敷に住み込んだのだが……。

「やはりイーライ様はそのおつもりのようで、手のものが追い返されました」

「あの方の事だ上手くやるだろうが……」

「ディエス!ちょっとメルクーリアにミルクを上げてちょうだい!ホント子供に好かれる人ね!」

「あーん、ここってホント楽できてサイコー」

「……」

「父上ー。私、ちょっと釣りに行ってくるので書類の代行お願いしまーす」

「陛下?お一人で行かないで下さい。わたくしも参りますわ!」

 狭い屋敷の仕事部屋はなんか人間がたくさん詰まっていて、俺の腕には

「あーきゃ!きゃー!」

 と、ご機嫌なアレッシュ様の息子のメルクーリアがスポンと収まっている。

「なあ、ラム。俺達引退したよな」

「……ああ」

 アレッシュ様に無理矢理押し付けられた書類をラムは何故か処理している。ご丁寧に筆跡はアレッシュ様そっくりで俺が見ても見分けがつかないくらい完璧だ。

「良いじゃない。引退して暇なんでしょう?はい、ミルク」

 ポンとソレイユ様にミルク瓶を渡されたのでメルクーリア様に飲ませている……何故だ?

「あー!やっぱり王宮にいないと思ったらこちらにいらっしゃった!陛下を捕まえろー!」

「うわーーー!逃げろー!」

「逃すなー!」

 ドタバタと走り回る侍従達。

「賑やかになりましたなぁ」

 お爺ちゃんになりかけのニコラスがニコニコとラムにお茶を出している。

「……ディエスが悪い」

 ラムに非難の目を向けられるけれど、流石に反論が出来ないぜ。

 この屋敷に移り住んで次の日からすぐセイリオスがやって来た。

「引き継ぎの済んでいない書類が見つかりまして……」

 下らない書類を持って来たけれど、どうもメインは書類じゃなかった。

「うちの上の子がクロードの下の子と結婚するといって聞かなくて、下の子はじゃあクロードの上の子と結婚できなきゃ死んでやるとか言い出して」

「はあ……」

「そしたらサファイアとプリネラが「あら良いわね、そうしましょ」なんて同意してしまって、私でもどうしたら良いか分かりません」

「はあ……」

 2時間愚痴りっぱなしで帰って行く。その後もひっきりなしに人が来るもんでつい

「トロッコでも引けば?地下鉄みたいにさ」

「詳しく」

 王宮の地下には昔俺が探検した緊急脱出用の通路がある。それをちょっと拡張してトロッコを走らせれば地下なら早く着くぞ、なんて言ってしまったら……。

「開通しました」

「うぎゃあ?!」

 俺の大事なキャベツ畑の真ん中にぽっこり穴が開いたからびっくりした。

 キャベツ畑は別に移動して、そこは立派な魔道トロッコの発着場になってしまい

「あら?便利ね」

 と、ソレイユ様まで来るようになって……なんか変な事になっている。一応この発着場とトロッコは登録した人間しか使えない事になっているが、どんな管理になってるかいまいち不安だ。

「だからごめんて」

 ミルクを全部飲み終わったメルクーリア様の背中をトントンしながらラムに謝るも

「げぇ~っふ!」

「お、出たぁ」

「……」

 大物感漂うげっぷの音にかき消されたりしていた。

「ディエス、お前の言うスローライフは皇帝であった時とさほど変わらぬな。お前はそんなに仕事が好きか?」

 なんて真面目に聞かれた。ちがーう!これはスローライフなんかじゃない!!俺はもう仕事したくなーい!


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