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102 6月の素敵な花嫁

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「えーとな?色は全部白」

「白!?」

「豪華な、結婚式に一回しか着ない専用ドレス」

「一回!?眩暈がします!」

 俺が一生懸命現代日本における結婚式の花嫁の服装を身振り手振りを使って思い出しながら話している。

「透けるような薄いヴェールを被って」

「見えちゃうじゃないですか!」

「こう、ちらちら見えるのが良いんだ。見えるよりなんだか見えない、見えないよりなんか見える」

「深い」

 サムシングフォーの話までして、思い出せるものは全部教えて……そして鼻息も荒く衣装部の侍女ちゃんとメイドちゃんは帰って行った。俺の下手くそな絵も持って行ったからどんな完璧なものを作ってくるか楽しみだ。

「たかが一日の式なのだろう?」

「まあ基本結婚式は一回限りだ。女の子の夢がいっぱい詰まってるらしい。現実的な話をすれば男性にモノを買わせるより女性にモノを買ってもらった方が良く売れる」

「それは事実だ」

 ラムはまだソルリアの処分に関する書類を見ているが、俺はどうもセイリオスとクロード達の結婚の準備に手を貸す事になっているようだ。

「記念、というのはそれだけで金を惜しまなくなるそうだよ。たった一回の希少価値だね」

「なるほど」

 セイリオスとクロードは「好きにしてください」だったのでサファイアとプリネラをしょっちゅう呼び出して会議をしている。何故か知らないが別室ではなくて、ラムの執務室の応接セットで打ち合わせだ。うるさくないのかな?

「ウェディングドレスというものを着てもらいたい。その後に「お色直し」と言ってそこからは色付きの自分の好きなものにして欲しい」

「何故、白なのですか?」

「相手の色に染まります、とかそんなんだった気がするけれど。まあ神様も白っぽい服を着てるしそう言うアレにして」

「分かりました、そういうアレにしますね」

 サファイアもプリネラも俺の適当な説明を分かってくれてとても嬉しい……。

「是非とも違うタイプのドレスを着て、見に来てくれた人に自分も着たいと思わせて欲しい」

「分かりましたわ。では事前に婚前の令嬢達にはそれとなく情報を流しておきます」

「ああ頼む。日時も決めていいだろうか?」

 二人は頷き、俺はあちこちに指示を出す日々が続く。6月の豪華な結婚式のひな型のような式が開催される事になった。



「うん」

 セイリオスとサファイア、クロードとプリネラの結婚式は真っ青に晴れ渡った青空の日に行われた。

「うんうん」

「あの、ディエス様?」

 俺と……来賓席で待ってろと何度も言ったのにくっ付いて来たラムは新郎新婦の控室に来ている。もうすぐ帝国内の教会で一番偉い神官長が執り行う式が始まるのだが、俺は控室に4人を呼び、人払いをした。
 この部屋には俺とラム、そして新郎新婦しかいない。

「セイリオス、クロードちょっとこっちに」

「?」

 二人を呼ぶ。サファイアとプリネラは微笑んで後ろに下がった。主役の花嫁二人は了承済みだからね。俺はごそごそと割と適当に作ったストラを首から下げる。なんか神父っぽいだろ!?てか俺の知ってる残念社畜神のタオル感が出てるんだよな……。

「えーと……クロード・ラグデールはこの者、セイリオス・リンツを生涯の伴侶とし……」

「側妃様ッ!?」

 先に声を上げたのはセイリオスだった。クロードも分かりやすく顔色を変えている。

「う、内容を忘れそうだ。言いたいことがあるならさっさと言え」

 俺は頑張って宣誓の台詞を暗記してきたんだから、はやくしてくれ。

「あ、あの!私はこれからサファイアと結婚をするのです、それなのに……」

「サファイア、言ってやって」

 俺が口を開くと忘れる忘れる……!

「嫌ですわ、セイリオス様。私達は2番目で良いと言ったではありませんか。これは私達の感謝と真心そして覚悟です」

「そうですわ、クロード様。私達はこう見えてお二人を応援していますのよ?」

「プリネラまで……しかし、私達は……」



 盛大な結婚式を挙げる前に、セイリオスとクロードの式を執り行ってくれ、と俺は二人に頼まれた。

「お、俺が!?」

「ディエス様以外誰がなされると?陛下にお願いしたら良いですか?」

「それは天地がひっくり返っても無理だから俺で良いです!」

 この契約結婚について知っている人間は極僅か。確かにもらして広めていい話じゃない。よし、分かった!二人の覚悟をしっかり受け取った俺は一生懸命覚えて来たんだ。

「ご覧ください、リングを」

 結婚指輪を売りたいとこの4人に指輪の交換もするように式を組ませた。内側に相手の名を刻むことも含めて、俺のポケットマネーで頑張りました。痛かった……。

「これがどうかしたのか……あっ」

 セイリオスもクロードも言葉に詰まるだろう。だから花婿側もちゃんと結婚式の話し合いに参加しないとダメなんだ、こうやって勝手に名前を彫られちゃうんだぞ。

 セイリオスに渡る指輪にはクロードの名前が。クロードの指輪にはセイリオスの名前が。
 サファイアの指輪には「リンツ」とセイリオスの家名が入り、プリネラの指輪には「ラグデール」とクロードの家名が入っている。

「私達は家と結婚するのです。ええ、何の問題もありません、私達自身がそう望んだのですから」

「ですからお二人は家をしっかり守り、家から逃げる事の無いようお願い致しますわ」

 艶やかに笑う令嬢二人は美しくとても強かった。声を失う花婿たち、セイリオスの方にラムが寄ってゆく。

「ディエスの始めた事だ。私も協力しろと令嬢に詰め寄られたぞ、恐ろしい物だな」

 ラムは小さな箱をセイリオスに手渡す。

「2代前の皇帝が使っていたカフスボタンだ。サムシングオールド、というのだろう?」

「へ、陛下ッ!?」

 中には小ぶりだが深い玉虫色に光るカフスボタンが入っている。値段は聞きたくないから聞かなかった、怖い。結婚する花嫁に幸せを呼ぶサムシングフォーの一つサムシングオールド何か古い物

「私からは新しいタイを。サムシングニュー新しい物ですわ」

 今までつけていたタイを引き抜き、サファイアは新しいタイをセイリオスの首に巻く。

「私からは青いタイピンを。サムシングブルー青い物ですわ」

 そのタイにプリネラが青い石が綺麗なピンを止めた。

「そして俺からはサムシングボロー借りた物、ハンカチだ」

 本当はラムの持ってきたカフスボタンも俺が渡す予定だった。だってラムから貰ったらセイリオスだってカチコチに緊張しちゃうかもしんないだろう?でもラムが「オレ警備」でついてくるというので渡してもらった。俺は正確には友人じゃないのかもしれないけれど……い、一応幸せな結婚生活を、送ってるって事で……うっ恥ずかしいなおい!

「あ、あの、あの……」

 弁の立つセイリオスですら、言葉が出てこなかった。クロードなどもう混乱で口をパクパクするだけだ。

「やりましたわ、プリネラ。セイリオス様に一泡吹かせましたわ」

「ほほほ、流石私達ね、サファイア。この調子で行きましょう!」

 やっぱりこの二人はとても強い、強いよ。



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