91 / 139
91 最悪
しおりを挟む
とうとうラムがキレた。
「支援など必要ない。お前達は何も困っていないのだから。貴族を助け、平民を切る政策を取っただけであろう」
そうだな……色々言った所で本質はそれかもしれない。そしてその助けるべき貴族はこうして皆元気いっぱいだ。金がかかるから来なくていいと通達までしたのに何十人も引き連れてやってくるくらい、ソルリアの貴族達は救われていて金がある。ソルリアが採択した政策は成功しているんだ。助けなどいらない。
ただ、切り捨てられた平民や貧民がどう思っているかは知らない。
「行くぞ、ディエス」
「はい」
ラムが支援が必要ないと言った。それが全てだ。皇帝の決定は絶対なんだから。
「ま、待って!待て、このまま帰られません!義父上ぇ!」
「くうっ!」
エイダン君が何を言おうともう決定した事だ。このまま俺達が退場すれば終わりだったのだが、イレギュラーが起こった。
「お呼びとあり、参上仕りました」
ソレイユ様がイーライ様を胸に抱いて登場したのだ。
「かくなる上は……ッお前ら!正妃と皇子を捕らえろッ!」
「ハッ!」
「なッ!」
確かにクロードはいない。だが、警備はしっかりしていたはずなのに!ソルリア一行の騎士達が隠し持っていた短剣を抜いてソレイユ様に襲い掛かったのだ。
「正妃様ッ!!」
「ソレイユッ!」
最初に動いたのはセイリオスで、ソレイユ様に手を伸ばそうと一番近くにいたソルリアの騎士の腕が凍り付いた。セイリオスが魔法を放ったようだ。そう言えば魔法があるんだったこの世界!次に動いたのはラムで腰に吊っていた剣をやり投げの如く投げつけ、騎士を貫いた。
「ガッ!」
「っ!」
目の前で血しぶきは上がったが、ソレイユ様はイーライ様をぎゅっと抱きしめ、敵から目を反らさない。反らさないまま、全速で後退る。後ろには侍女やメイドだけじゃなくて女性騎士達も控えているんだから。その人垣に逃げ込めば安全は確保される。
「ソレイユさまっ!」
異変にすぐ気が付き、抜刀した騎士が飛び出す。勿論壁際に控えていた騎士や、ラムの近衛達も剣を抜く。
「気が違ったか!」
「うるさいっ!ここでなんとしても支援をもぎ取らねば、私に帰る国はない!!」
宰相も隠し持っていた短剣を抜くが、屈強な帝国騎士に勝てるわけもない。すぐに取り押さえられ、床に這いつくばった。
「ち、義父上、な、何をなさっている……っ!」
エイダン君はその場でおろおろとするばかり。何も聞かされてなかったのかもしれないが。でも宰相と連れてきた騎士達が武器を隠し持っていた。そしてそれを抜いた。
もう庇い立てしようもない……。
「愚かな……」
「ディエス!国を裏切るのか!!国の惨状を助けぬ王子がどこにいる!!」
床に叩きつけられながらも宰相が喚く。それにとうとうラムがブチ切れた。
「貴様が私に売ったのだろう?ディエスから全てを取り上げて、金で私に売り渡したのだろう!ディエスはもうお前らの物ではない、私の物だ!」
モノ扱いかよとは思ったけれど、あのラムが本気で怒っている……なんだか少し不思議な気持ちだ。俺はラムのもの、確かにそうなんだけど……はっきり言われるとなんだか照れるな。
そんな風に俺が気を抜いたのも悪かったかもしれない。
「あんたが……大人しくお父様の言う事を聞けばいいのよッ!」
長くない距離を短剣を構えて走ってくる令嬢。宰相の娘であり、エイダンの婚約者だ。女だと思って騎士達は油断したんだ。この娘も武器を携えていたなんて!
広くない部屋、宰相を詰る為に近寄ったラム。それに付き従っていた俺。距離はそう遠くない。狙いは俺か……俺を刺してどうするつもりなのか分からんが、憎らしかったんだろうな。最初から睨まれてたし。
「ディエス……ッ」
ラムが俺を自分の後ろに庇う。そして手を腰の剣に……ない、ないんだ。ラムの剣はさっきソレイユ様を襲おうとした男に投げて突き刺した。ちっ、舌打ちの音が聞こえる。それでもどんくさい俺より色々と出来るラムがあの令嬢に遅れを取るとは思えない。
ああ、そうか。駄目だ。そうだな、そうだよな。
分かってしまった俺の体は考えるより先に動いた。刃を構え狂気の目で突進してくる赤いドレスの女。ラムの体はトラウマで硬く固まっている。俺を背中に庇ったままのラムを横に押しやる。俺だってそれくらい出来るぜ?
まるでスローモーションのように、赤いドレスは俺に向って突っ込んでくる。ラムは皇帝だ、そいつに怪我なんかさせるわけにはいかない。俺らのような下っ端の社畜が死んでも、社長が無事なら会社は回る、他の社員が路頭に迷わなくていいだろう?
ドン、と人間一人分がぶつかった衝撃を感じたが、それっきりだった。
「支援など必要ない。お前達は何も困っていないのだから。貴族を助け、平民を切る政策を取っただけであろう」
そうだな……色々言った所で本質はそれかもしれない。そしてその助けるべき貴族はこうして皆元気いっぱいだ。金がかかるから来なくていいと通達までしたのに何十人も引き連れてやってくるくらい、ソルリアの貴族達は救われていて金がある。ソルリアが採択した政策は成功しているんだ。助けなどいらない。
ただ、切り捨てられた平民や貧民がどう思っているかは知らない。
「行くぞ、ディエス」
「はい」
ラムが支援が必要ないと言った。それが全てだ。皇帝の決定は絶対なんだから。
「ま、待って!待て、このまま帰られません!義父上ぇ!」
「くうっ!」
エイダン君が何を言おうともう決定した事だ。このまま俺達が退場すれば終わりだったのだが、イレギュラーが起こった。
「お呼びとあり、参上仕りました」
ソレイユ様がイーライ様を胸に抱いて登場したのだ。
「かくなる上は……ッお前ら!正妃と皇子を捕らえろッ!」
「ハッ!」
「なッ!」
確かにクロードはいない。だが、警備はしっかりしていたはずなのに!ソルリア一行の騎士達が隠し持っていた短剣を抜いてソレイユ様に襲い掛かったのだ。
「正妃様ッ!!」
「ソレイユッ!」
最初に動いたのはセイリオスで、ソレイユ様に手を伸ばそうと一番近くにいたソルリアの騎士の腕が凍り付いた。セイリオスが魔法を放ったようだ。そう言えば魔法があるんだったこの世界!次に動いたのはラムで腰に吊っていた剣をやり投げの如く投げつけ、騎士を貫いた。
「ガッ!」
「っ!」
目の前で血しぶきは上がったが、ソレイユ様はイーライ様をぎゅっと抱きしめ、敵から目を反らさない。反らさないまま、全速で後退る。後ろには侍女やメイドだけじゃなくて女性騎士達も控えているんだから。その人垣に逃げ込めば安全は確保される。
「ソレイユさまっ!」
異変にすぐ気が付き、抜刀した騎士が飛び出す。勿論壁際に控えていた騎士や、ラムの近衛達も剣を抜く。
「気が違ったか!」
「うるさいっ!ここでなんとしても支援をもぎ取らねば、私に帰る国はない!!」
宰相も隠し持っていた短剣を抜くが、屈強な帝国騎士に勝てるわけもない。すぐに取り押さえられ、床に這いつくばった。
「ち、義父上、な、何をなさっている……っ!」
エイダン君はその場でおろおろとするばかり。何も聞かされてなかったのかもしれないが。でも宰相と連れてきた騎士達が武器を隠し持っていた。そしてそれを抜いた。
もう庇い立てしようもない……。
「愚かな……」
「ディエス!国を裏切るのか!!国の惨状を助けぬ王子がどこにいる!!」
床に叩きつけられながらも宰相が喚く。それにとうとうラムがブチ切れた。
「貴様が私に売ったのだろう?ディエスから全てを取り上げて、金で私に売り渡したのだろう!ディエスはもうお前らの物ではない、私の物だ!」
モノ扱いかよとは思ったけれど、あのラムが本気で怒っている……なんだか少し不思議な気持ちだ。俺はラムのもの、確かにそうなんだけど……はっきり言われるとなんだか照れるな。
そんな風に俺が気を抜いたのも悪かったかもしれない。
「あんたが……大人しくお父様の言う事を聞けばいいのよッ!」
長くない距離を短剣を構えて走ってくる令嬢。宰相の娘であり、エイダンの婚約者だ。女だと思って騎士達は油断したんだ。この娘も武器を携えていたなんて!
広くない部屋、宰相を詰る為に近寄ったラム。それに付き従っていた俺。距離はそう遠くない。狙いは俺か……俺を刺してどうするつもりなのか分からんが、憎らしかったんだろうな。最初から睨まれてたし。
「ディエス……ッ」
ラムが俺を自分の後ろに庇う。そして手を腰の剣に……ない、ないんだ。ラムの剣はさっきソレイユ様を襲おうとした男に投げて突き刺した。ちっ、舌打ちの音が聞こえる。それでもどんくさい俺より色々と出来るラムがあの令嬢に遅れを取るとは思えない。
ああ、そうか。駄目だ。そうだな、そうだよな。
分かってしまった俺の体は考えるより先に動いた。刃を構え狂気の目で突進してくる赤いドレスの女。ラムの体はトラウマで硬く固まっている。俺を背中に庇ったままのラムを横に押しやる。俺だってそれくらい出来るぜ?
まるでスローモーションのように、赤いドレスは俺に向って突っ込んでくる。ラムは皇帝だ、そいつに怪我なんかさせるわけにはいかない。俺らのような下っ端の社畜が死んでも、社長が無事なら会社は回る、他の社員が路頭に迷わなくていいだろう?
ドン、と人間一人分がぶつかった衝撃を感じたが、それっきりだった。
476
お気に入りに追加
7,452
あなたにおすすめの小説

悪役令息の死ぬ前に
やぬい
BL
「あんたら全員最高の馬鹿だ」
ある日、高貴な血筋に生まれた公爵令息であるラインハルト・ニーチェ・デ・サヴォイアが突如として婚約者によって破棄されるという衝撃的な出来事が起こった。
彼が愛し、心から信じていた相手の裏切りに、しかもその新たな相手が自分の義弟だということに彼の心は深く傷ついた。
さらに冤罪をかけられたラインハルトは公爵家の自室に幽閉され、数日後、シーツで作った縄で首を吊っているのを発見された。
青年たちは、ラインハルトの遺体を抱きしめる男からその話を聞いた。その青年たちこそ、マークの元婚約者と義弟とその友人である。
「真実も分からないクセに分かった風になっているガキがいたからラインは死んだんだ」
男によって過去に戻された青年たちは「真実」を見つけられるのか。
【完結】僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
⭐︎表紙イラストは針山糸様に描いていただきました

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

BLR15【完結】ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました
厘/りん
BL
ナルン王国の下町に暮らす ルカ。
この国は一部の人だけに使える魔法が神様から贈られる。ルカはその一人で武器や防具、アクセサリーに『加護』を付けて売って生活をしていた。
ある日、配達の為に下町を歩いていたら指輪が落ちていた。見覚えのある指輪だったので届けに行くと…。
国を救った英雄(強面の可愛い物好き)と出生に秘密ありの痩せた青年のお話。
☆英雄騎士 現在28歳
ルカ 現在18歳
☆第11回BL小説大賞 21位
皆様のおかげで、奨励賞をいただきました。ありがとう御座いました。

有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います
緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。
知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。
花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。
十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。
寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。
見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。
宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。
やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。
次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。
アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。
ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中

婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる