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 とうとうラムがキレた。

「支援など必要ない。お前達は何も困っていないのだから。貴族を助け、平民を切る政策を取っただけであろう」

 そうだな……色々言った所で本質はそれかもしれない。そしてその助けるべき貴族はこうして皆元気いっぱいだ。金がかかるから来なくていいと通達までしたのに何十人も引き連れてやってくるくらい、ソルリアの貴族達は救われていて金がある。ソルリアが採択した政策は成功しているんだ。助けなどいらない。
 ただ、切り捨てられた平民や貧民がどう思っているかは知らない。

「行くぞ、ディエス」

「はい」

 ラムが支援が必要ないと言った。それが全てだ。皇帝の決定は絶対なんだから。

「ま、待って!待て、このまま帰られません!義父上ぇ!」

「くうっ!」

 エイダン君が何を言おうともう決定した事だ。このまま俺達が退場すれば終わりだったのだが、イレギュラーが起こった。

「お呼びとあり、参上仕りました」

 ソレイユ様がイーライ様を胸に抱いて登場したのだ。

「かくなる上は……ッお前ら!正妃と皇子を捕らえろッ!」

「ハッ!」

「なッ!」

 確かにクロードはいない。だが、警備はしっかりしていたはずなのに!ソルリア一行の騎士達が隠し持っていた短剣を抜いてソレイユ様に襲い掛かったのだ。

「正妃様ッ!!」

「ソレイユッ!」

 最初に動いたのはセイリオスで、ソレイユ様に手を伸ばそうと一番近くにいたソルリアの騎士の腕が凍り付いた。セイリオスが魔法を放ったようだ。そう言えば魔法があるんだったこの世界!次に動いたのはラムで腰に吊っていた剣をやり投げの如く投げつけ、騎士を貫いた。

「ガッ!」

「っ!」

 目の前で血しぶきは上がったが、ソレイユ様はイーライ様をぎゅっと抱きしめ、敵から目を反らさない。反らさないまま、全速で後退る。後ろには侍女やメイドだけじゃなくて女性騎士達も控えているんだから。その人垣に逃げ込めば安全は確保される。

「ソレイユさまっ!」

 異変にすぐ気が付き、抜刀した騎士が飛び出す。勿論壁際に控えていた騎士や、ラムの近衛達も剣を抜く。

「気が違ったか!」

「うるさいっ!ここでなんとしても支援をもぎ取らねば、私に帰る国はない!!」

 宰相も隠し持っていた短剣を抜くが、屈強な帝国騎士に勝てるわけもない。すぐに取り押さえられ、床に這いつくばった。

「ち、義父上、な、何をなさっている……っ!」

 エイダン君はその場でおろおろとするばかり。何も聞かされてなかったのかもしれないが。でも宰相と連れてきた騎士達が武器を隠し持っていた。そしてそれを抜いた。

 もう庇い立てしようもない……。

「愚かな……」

「ディエス!国を裏切るのか!!国の惨状を助けぬ王子がどこにいる!!」

 床に叩きつけられながらも宰相が喚く。それにとうとうラムがブチ切れた。

「貴様が私に売ったのだろう?ディエスから全てを取り上げて、金で私に売り渡したのだろう!ディエスはもうお前らの物ではない、私の物だ!」

 モノ扱いかよとは思ったけれど、あのラムが本気で怒っている……なんだか少し不思議な気持ちだ。俺はラムのもの、確かにそうなんだけど……はっきり言われるとなんだか照れるな。
 そんな風に俺が気を抜いたのも悪かったかもしれない。

「あんたが……大人しくお父様の言う事を聞けばいいのよッ!」

 長くない距離を短剣を構えて走ってくる令嬢。宰相の娘であり、エイダンの婚約者だ。女だと思って騎士達は油断したんだ。この娘も武器を携えていたなんて!
 広くない部屋、宰相を詰る為に近寄ったラム。それに付き従っていた俺。距離はそう遠くない。狙いは俺か……俺を刺してどうするつもりなのか分からんが、憎らしかったんだろうな。最初から睨まれてたし。

「ディエス……ッ」

 ラムが俺を自分の後ろに庇う。そして手を腰の剣に……ない、ないんだ。ラムの剣はさっきソレイユ様を襲おうとした男に投げて突き刺した。ちっ、舌打ちの音が聞こえる。それでもどんくさい俺より色々と出来るラムがあの令嬢に遅れを取るとは思えない。

 ああ、そうか。駄目だ。そうだな、そうだよな。

 分かってしまった俺の体は考えるより先に動いた。刃を構え狂気の目で突進してくる赤いドレスの女。ラムの体はトラウマで硬く固まっている。俺を背中に庇ったままのラムを横に押しやる。俺だってそれくらい出来るぜ?

 まるでスローモーションのように、赤いドレスは俺に向って突っ込んでくる。ラムは皇帝だ、そいつに怪我なんかさせるわけにはいかない。俺らのような下っ端の社畜が死んでも、社長が無事なら会社は回る、他の社員が路頭に迷わなくていいだろう?

 ドン、と人間一人分がぶつかった衝撃を感じたが、それっきりだった。

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