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90 潜在阿呆能力の阿呆分布図

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「ま、待ってくれ!いやお待ちくださいッ!貴様……ディエスッ」

 やだっ!俺、呼び捨てにされた!?当然ラムは俺を引き寄せて、眉間に皺をいっぺんに3本くらい増やした。こわっ……!
 流石に俺を呼び捨てにするのは不味いと気が付いたのか取ってつけたように後から「……様……ッ」なんて言ってるけどねえ?無視しよ。

「ディ、ディエス様はいかがお考えなのですかっ!?貴方の故国が、御父上がお困りなのですよ!?」

「……」

 多分あの国王は困ってない。今日ここにやってきた宰相やエイダン、その婚約者や……取り巻いている貴族騎士達を見ればわかる。全員顔艶が良くて腹いっぱい飯を食って、「食い物がない?なければケーキを食べればいい」みたいな顔してる。あの国で本当に困ってるのは貧民、平民……そして下級貴族や、心ある貴族商人達だろうなあ。
 だけれども、俺の今の立場は「ソルリアの王子」じゃなくて「帝国の側妃」だ。

「宰相、その件に関しては書状にてお返事をしたはずです。各々頑張りましょうと」

「ぐっ……し、しかし、しかしですぞっ!!」

 まだ食い下がるかね?本当に強く言われてるんだろうなあ。でもさ、帝国を舐められちゃ困る。俺が軽くみられるのは良い。だけれどもラムやソレイユ様がちょっと言えばほいほい金を出してくれるような人だと思われても困るんだよ。

「私は帝国へ嫁いだ身。もうソルリアの民ではないのです。ならば帝国の事を第一に考えるのが筋です」

「あ、義兄上……ソルリアは……路上に餓死者が溢れ、民衆の暴動も酷く……」

 エイダン君が生れて初めて兄って呼んだわ。なんだろう、そう言えって後ろにいる婚約者に扇で尻でも突かれたんだろうか?

「王太子エイダン様。それを何とかするのが貴族の務めでしょう。自国の事は自国で、他国民が何とかするものではありません」

 そんでこいつら凄い事に今まで頭を下げるって事をしてない。エイダンも「自分とこがこんなんなってますー」の現状報告だけだし。こっちが「なんて可哀想!喜んで助けさせてくださいませ~」なんて言うとでも思ってんだろうか?
 あ!ま、まさかアレか!?皇帝ラムシェーブルが国民や騎士達にとても手厚い補助をしているからその優しさを期待してんのか!?だとしたら馬鹿だぞ!?ラムは自分の国の民だから優しいだけだ。他の国なんて基本知ったこっちゃねえ奴だからな!
 ていうか、基本ラムは冷たい。職務に忠実な奴で「理想的な皇帝陛下」だ。多分俺が横からワイワイ言わなきゃ今回も「貧民が飢えて死ぬのは当然だ」で切り捨てたと思う……。そしてもし暴動が起こったとしてもそれを制圧する武力と知力も帝国には揃っている。まあ、俺がそんなの嫌だったから駄々を捏ねただけなんだけどね。

「で、ですから……あの、小麦を……」

 エイダン君とまともに話をしたことはなかったけれど、こいつ……意外と、いや、かなり?相当……阿呆だな?昔のディエスと同じくらい阿呆じゃないのかな……?いや待て?ディエスは6歳くらいの時から阿呆の英才教育をされていた。だからと言っちゃあなんだけれど、立派な阿呆に成長した。
 でもエイダン君は生まれた時から王太子になるべくきちんとした教育を受けたはずだよな?それなのにこれでは、もしかしてなんだけれど、潜在阿呆能力はエイダン君の方がディエスより上なのでは……!?ディエスより阿呆!?しかしだ、あの国王の血を濃く受け継いでいるんだから……国王も相当阿呆!?
 
 なんて恐ろしい事に俺は気が付いてしまったんだ……。やはり会社も血縁に継がせるとロクなことがないもんな……。アレッシュ様やイーライ様。ウィフィルド様は……ソレイユ様は超賢いし、ラムも阿呆じゃないから大丈夫か!
 俺はこの仮説を後でセイリオスに説明しなきゃと頭の中でソルリア国阿呆分布図をまとめていた。もうあそこから誰か連れて来るんじゃないよ、と注意しとかなきゃな。

「わ、わが国に、支援を……」

 大丈夫かな……?人の話聞いてる??聞いてないよなあ……。

「王太子殿下、ディエス様はもはやこの帝国のお方。そのお方が、自国の事は自国で、と仰ったのです。お引き取り下さい」

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