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68 沈むしかない泥舟
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「何故だ!!」
レジム公爵は焦っていた。レジム家の貯蓄金を使って金をばら撒いた。しかし、何の効果も無かった。
「金が手に入ったら、ああいう連中は酒を飲みに行くだろう!飲みに行くなら人を誘うはず!そして仲良くなる!それが普通だろう?!」
大声での独り言のようだが、ハインツは苦笑するしかない。何故そうなる、どうしてそう考える?ハインツですら理解できないし、そんな杜撰すぎる計画とも呼べない事にあんな大金を注ぎ込んだのかと思うと苦笑以外何も出来なかった。
「そうだろう!?ハインツ!」
「え、えーと……わ、私には分かりかねます……」
お金を貰っても絶対飲食に使う訳ではないし、アルコールを嗜むなら、気心の知れた友人が良い。ハインツの常識に照らし合わせても「それはない」だった。
「こ、コレではいかん……これでは……」
ブツブツと青い顔で繰り返すレジム公爵。ハインツは苦笑しながら探っている。約束の日数も減ってきた。あと20日程で結果を出さなければならない。
焦って追い詰められた公爵はどんな策を打つのか?きっとこう言う所を見てこいと言われたのだろう。
「も、もっとだ……!きっと渡す金が少なかったのだ!!もっと金を、金を渡そう!!」
わあ、すごーい
ハインツの感想はそれしか出てこなかったが、これはディエスに報告書を出した時
「わぁ……すごーい……」
ディエス本人もそう言ったので、アイリスの君の慧眼を持ってしても見通せなかった事だったようだ。
こうして武官達も文官達も備品の整備や、補充が充実し、2.3年はそちらの方に費用を割かなくて良くなった。
が、彼等の仲はちっとも深まらなかった。
期限まで残り10日となり、全く成果が出ない。レジム公爵は掻き毟り過ぎて髪の毛がかなり抜けている。
「ど、どうすれば、どうすれば……?!」
彼には誰かに教えを乞うとか、助力を求めると言う考えがないのだとハインツは知った。自分は有能である、自分は何でも出来る。自分以外は全て格下の存在で、話を聞く必要がないと本気で思っているのだと。
「これだったか」
ディエスが自分に見せたかった物とは。同じ公爵と言う地位を持つ者、これから受け継ぐであろう者。レジム家の執事は何度も計画をやり直す事を勧めてきたし、家の金を使う事を諌めた。
しかし公爵は聞く耳を持たずに金をばら撒いた。そしてこうだ。
「ハインツは見た目が優しいから、舐められる所もあるかもしれない。だけどそれは利点だ、活かして良い公爵になってくれよ?」
「ありがとうございます……!目が覚めた心地です。我が命あるディエス様に忠誠をお誓い申し上げます!」
「待て待て。俺じゃなくて、そこは皇帝にしなよ」
「あっ!」
そんな会話を思わず皇帝ラムシェーブルの前でしてしまったが、皇帝は特に気にしていないようで、度量の深さにハインツは深々と頭を下げた。
「さて、その泥舟。最後までしっかり見届けて来い」
「はい、分かりました」
沈むしかないと分かっているレジム公爵をハインツは見ている。自分ならここから立て直せるか?陛下とアイリスの君に泣きつけば評価は下がるがなんとかなるか?優しい、人が良さそうな顔の裏で必死に計算する。
アイリスの君に泣きつくのが1番の打開策だろう。かの方が一言皇帝に「許してやってよ」と言えば大抵許される、城に勤務するものなら何となく気づいている事実だ。
ただそれは完全にアイリス派に降る事だし、ひいてはソレイユ派に完全敗北したと言う事だ。
名誉を取るか家を守るか。そこまで追い詰められている事にこの公爵は気がついているのだろうか?気がついていないだろう。
「お父様!新しいドレスなのですが、私はやはり赤が似合うでしょう?私の金の髪が映えるのはやっぱり赤!でも真っ赤が駄目みたいだからこのオレンジと朱色のドレスにしたいわ!フリルもたくさんつけて可愛らしさをアピールするの」
「おお、そうだな。リリシアよ。お前はぱっと明るい色が似合うからな、そうしなさい。いつものドレス商に頼むが良い。次に陛下の前に行くのは10日後だ。それまでに仕立てておきなさい」
「あら?それなら特急料金が必要だわ。急いで命じておかなくちゃ」
パタパタではなくドスドスとリリシアは駆けて行った。最近ストレスとやらで甘い物が食べたくて食べたくて仕方がないらしい。ハインツは数ヶ月で女性がパンパンに膨らんでいく様を見てびっくりした。
「女の子って……膨らむんだね……」
「えっ……膨らむ?!」
婚約者であるレシアとのデートの時についうっかりとある令嬢が膨らんでいく様子を見てしまったと零した。
「とある令嬢……まあ……」
ハインツがどこの家の手伝いをしているかを知っている彼女は、思い当たる令嬢が一人しかいなくて納得してしまう。
「君は絶対そんな事ないって知ってるけど!君にはストレスなんかかけないように頑張るけど!ごめん、ちょっと怖かったから……」
「ハインツ様、大丈夫ですわ。絶対に私はそうならないと誓いますから」
「ありがとう……!」
ハインツは自分の婚約者が可憐で良かったと心から思うのであった。
レジム公爵は焦っていた。レジム家の貯蓄金を使って金をばら撒いた。しかし、何の効果も無かった。
「金が手に入ったら、ああいう連中は酒を飲みに行くだろう!飲みに行くなら人を誘うはず!そして仲良くなる!それが普通だろう?!」
大声での独り言のようだが、ハインツは苦笑するしかない。何故そうなる、どうしてそう考える?ハインツですら理解できないし、そんな杜撰すぎる計画とも呼べない事にあんな大金を注ぎ込んだのかと思うと苦笑以外何も出来なかった。
「そうだろう!?ハインツ!」
「え、えーと……わ、私には分かりかねます……」
お金を貰っても絶対飲食に使う訳ではないし、アルコールを嗜むなら、気心の知れた友人が良い。ハインツの常識に照らし合わせても「それはない」だった。
「こ、コレではいかん……これでは……」
ブツブツと青い顔で繰り返すレジム公爵。ハインツは苦笑しながら探っている。約束の日数も減ってきた。あと20日程で結果を出さなければならない。
焦って追い詰められた公爵はどんな策を打つのか?きっとこう言う所を見てこいと言われたのだろう。
「も、もっとだ……!きっと渡す金が少なかったのだ!!もっと金を、金を渡そう!!」
わあ、すごーい
ハインツの感想はそれしか出てこなかったが、これはディエスに報告書を出した時
「わぁ……すごーい……」
ディエス本人もそう言ったので、アイリスの君の慧眼を持ってしても見通せなかった事だったようだ。
こうして武官達も文官達も備品の整備や、補充が充実し、2.3年はそちらの方に費用を割かなくて良くなった。
が、彼等の仲はちっとも深まらなかった。
期限まで残り10日となり、全く成果が出ない。レジム公爵は掻き毟り過ぎて髪の毛がかなり抜けている。
「ど、どうすれば、どうすれば……?!」
彼には誰かに教えを乞うとか、助力を求めると言う考えがないのだとハインツは知った。自分は有能である、自分は何でも出来る。自分以外は全て格下の存在で、話を聞く必要がないと本気で思っているのだと。
「これだったか」
ディエスが自分に見せたかった物とは。同じ公爵と言う地位を持つ者、これから受け継ぐであろう者。レジム家の執事は何度も計画をやり直す事を勧めてきたし、家の金を使う事を諌めた。
しかし公爵は聞く耳を持たずに金をばら撒いた。そしてこうだ。
「ハインツは見た目が優しいから、舐められる所もあるかもしれない。だけどそれは利点だ、活かして良い公爵になってくれよ?」
「ありがとうございます……!目が覚めた心地です。我が命あるディエス様に忠誠をお誓い申し上げます!」
「待て待て。俺じゃなくて、そこは皇帝にしなよ」
「あっ!」
そんな会話を思わず皇帝ラムシェーブルの前でしてしまったが、皇帝は特に気にしていないようで、度量の深さにハインツは深々と頭を下げた。
「さて、その泥舟。最後までしっかり見届けて来い」
「はい、分かりました」
沈むしかないと分かっているレジム公爵をハインツは見ている。自分ならここから立て直せるか?陛下とアイリスの君に泣きつけば評価は下がるがなんとかなるか?優しい、人が良さそうな顔の裏で必死に計算する。
アイリスの君に泣きつくのが1番の打開策だろう。かの方が一言皇帝に「許してやってよ」と言えば大抵許される、城に勤務するものなら何となく気づいている事実だ。
ただそれは完全にアイリス派に降る事だし、ひいてはソレイユ派に完全敗北したと言う事だ。
名誉を取るか家を守るか。そこまで追い詰められている事にこの公爵は気がついているのだろうか?気がついていないだろう。
「お父様!新しいドレスなのですが、私はやはり赤が似合うでしょう?私の金の髪が映えるのはやっぱり赤!でも真っ赤が駄目みたいだからこのオレンジと朱色のドレスにしたいわ!フリルもたくさんつけて可愛らしさをアピールするの」
「おお、そうだな。リリシアよ。お前はぱっと明るい色が似合うからな、そうしなさい。いつものドレス商に頼むが良い。次に陛下の前に行くのは10日後だ。それまでに仕立てておきなさい」
「あら?それなら特急料金が必要だわ。急いで命じておかなくちゃ」
パタパタではなくドスドスとリリシアは駆けて行った。最近ストレスとやらで甘い物が食べたくて食べたくて仕方がないらしい。ハインツは数ヶ月で女性がパンパンに膨らんでいく様を見てびっくりした。
「女の子って……膨らむんだね……」
「えっ……膨らむ?!」
婚約者であるレシアとのデートの時についうっかりとある令嬢が膨らんでいく様子を見てしまったと零した。
「とある令嬢……まあ……」
ハインツがどこの家の手伝いをしているかを知っている彼女は、思い当たる令嬢が一人しかいなくて納得してしまう。
「君は絶対そんな事ないって知ってるけど!君にはストレスなんかかけないように頑張るけど!ごめん、ちょっと怖かったから……」
「ハインツ様、大丈夫ですわ。絶対に私はそうならないと誓いますから」
「ありがとう……!」
ハインツは自分の婚約者が可憐で良かったと心から思うのであった。
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