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49 皇帝の傷
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「わっ」
無言で、何のフリもなく腕を引かれたのでバランスを崩す。俺はラムの上に乗っかってしまった。
「ラム……?」
「ああ」
微かに、しかしこれだけ密着しなければ気がつかない訳にはいかなかった。
「ラム……」
「過去、と言う物は中々変えられるものではないな」
ラムの手は暖かい方だ。それなのに氷の様に冷えて……小さく震えていた。
「何の支障もないつもりだったのに」
「……そうか」
ラムの母親は政敵の暗殺者にラムを庇って殺されたらしい。いくら皇帝となるべく帝王学を学んできたラムでも目の前で真っ赤な血を吹き上げた母親を見たらトラウマにならないはずがない。帝国皇帝にそんな弱点があってはならないと、必死で克服した。
「……ソレイユに頼んで赤いドレスを纏ってもらい、隣に立ってもらった事もあった……その時は大丈夫だった、だから、もう大丈夫かと思った」
俺を抱き寄せて、耳元でほんの小さい声で囁く。誰にも聞かせられないラムの弱気な言葉。帝国皇帝ラムシェーブルに弱音は許されない……だから俺を抱き寄せて耳元で喋っている内容は睦言であっても弱音ではない、そうでなければならないのだ。
「……お前は、暖かいな」
「そうだな」
慰めるのも違う気がする、否定するのも違う気がする。ラムは俺の知る限り「皇帝ラムシェーブル」を降りるつもりはなさそうだ。何があっても皇帝として生きていく覚悟を持っている気がする。だから無責任な言葉をラムにかけたくはない。もう決まっているラムの覚悟を俺は認めて尊重するだけだ。
「ところであのラフレシアみたいな令嬢を正妃にするつもりはないよな?アレを正妃にするなら俺は側妃なんてイヤだぞ」
流石のラムも一瞬きょとんとした顔をして、ほんの少しだけ笑う。
「らふれしあ、とは何のことかわからんが察するに巨大で異臭がする物体の事だろうか」
「大体正解。そして花らしいんだ」
「ディエスはアレの事も花と認識してやるとはなんと心が広く優しいのだろうな。流石私の側妃だけの事はある」
おおっと?褒められたのか?ラフレシアを花と呼んでいいのかどうかは分からない見た目だが、花だと分類されているんだから花なんだろう。だからあのリリシア嬢も令嬢だと自分で言っているから令嬢なんだろう。
しかし先日はちらっとしか見なかったけれど、今日はかなり近くからよく見たけど、まあ……凄い女性だったな。きっと蝶よ花よとちやほやされ、育てられてきたんだろうなぁ。何の苦労も挫折もなく、自分が思った事は全て現実にそうなる、そうと信じて一欠片も疑わず生きてきた、そんな気がする。
この国で一番偉いはずのラムですら、誰にも見せられない傷とトラウマを抱え、それを隠しながら生きているのに、あのお嬢様はそんな事もなく周りに守られ、甘やかされ……。比べるのもラムに悪いがラムがああじゃなくて本当に良かった。
「だろう?皇帝ラムシェーブルの側妃は心優しいからな」
「そうだな……側妃が優しくて私は本当に嬉しいよ」
その日の仕事は流石に全部やめにした。ラムが俺を離さなかったからだけれど、俺もされるがままになっていた。二人でくっ付いていれば、皆気を遣って近くに寄ってこない。
だから少し青褪めた顔とか、震える足先とか誰も気がつかないだろう。
上着だけ脱がせて部屋で布団に包んでやった。二人で閉じこもればやはり誰も声をかけてこない。
ラムの小さな震えが止まったのは夜もふけ、月が頂点に昇る頃だった。小さな寝息が聞こえて来て、やっと落ち着いたのを確認し、俺もそのまま隣で眠ってしまっていた。
無言で、何のフリもなく腕を引かれたのでバランスを崩す。俺はラムの上に乗っかってしまった。
「ラム……?」
「ああ」
微かに、しかしこれだけ密着しなければ気がつかない訳にはいかなかった。
「ラム……」
「過去、と言う物は中々変えられるものではないな」
ラムの手は暖かい方だ。それなのに氷の様に冷えて……小さく震えていた。
「何の支障もないつもりだったのに」
「……そうか」
ラムの母親は政敵の暗殺者にラムを庇って殺されたらしい。いくら皇帝となるべく帝王学を学んできたラムでも目の前で真っ赤な血を吹き上げた母親を見たらトラウマにならないはずがない。帝国皇帝にそんな弱点があってはならないと、必死で克服した。
「……ソレイユに頼んで赤いドレスを纏ってもらい、隣に立ってもらった事もあった……その時は大丈夫だった、だから、もう大丈夫かと思った」
俺を抱き寄せて、耳元でほんの小さい声で囁く。誰にも聞かせられないラムの弱気な言葉。帝国皇帝ラムシェーブルに弱音は許されない……だから俺を抱き寄せて耳元で喋っている内容は睦言であっても弱音ではない、そうでなければならないのだ。
「……お前は、暖かいな」
「そうだな」
慰めるのも違う気がする、否定するのも違う気がする。ラムは俺の知る限り「皇帝ラムシェーブル」を降りるつもりはなさそうだ。何があっても皇帝として生きていく覚悟を持っている気がする。だから無責任な言葉をラムにかけたくはない。もう決まっているラムの覚悟を俺は認めて尊重するだけだ。
「ところであのラフレシアみたいな令嬢を正妃にするつもりはないよな?アレを正妃にするなら俺は側妃なんてイヤだぞ」
流石のラムも一瞬きょとんとした顔をして、ほんの少しだけ笑う。
「らふれしあ、とは何のことかわからんが察するに巨大で異臭がする物体の事だろうか」
「大体正解。そして花らしいんだ」
「ディエスはアレの事も花と認識してやるとはなんと心が広く優しいのだろうな。流石私の側妃だけの事はある」
おおっと?褒められたのか?ラフレシアを花と呼んでいいのかどうかは分からない見た目だが、花だと分類されているんだから花なんだろう。だからあのリリシア嬢も令嬢だと自分で言っているから令嬢なんだろう。
しかし先日はちらっとしか見なかったけれど、今日はかなり近くからよく見たけど、まあ……凄い女性だったな。きっと蝶よ花よとちやほやされ、育てられてきたんだろうなぁ。何の苦労も挫折もなく、自分が思った事は全て現実にそうなる、そうと信じて一欠片も疑わず生きてきた、そんな気がする。
この国で一番偉いはずのラムですら、誰にも見せられない傷とトラウマを抱え、それを隠しながら生きているのに、あのお嬢様はそんな事もなく周りに守られ、甘やかされ……。比べるのもラムに悪いがラムがああじゃなくて本当に良かった。
「だろう?皇帝ラムシェーブルの側妃は心優しいからな」
「そうだな……側妃が優しくて私は本当に嬉しいよ」
その日の仕事は流石に全部やめにした。ラムが俺を離さなかったからだけれど、俺もされるがままになっていた。二人でくっ付いていれば、皆気を遣って近くに寄ってこない。
だから少し青褪めた顔とか、震える足先とか誰も気がつかないだろう。
上着だけ脱がせて部屋で布団に包んでやった。二人で閉じこもればやはり誰も声をかけてこない。
ラムの小さな震えが止まったのは夜もふけ、月が頂点に昇る頃だった。小さな寝息が聞こえて来て、やっと落ち着いたのを確認し、俺もそのまま隣で眠ってしまっていた。
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