【完結】廃棄王子、側妃として売られる。社畜はスローライフに戻りたいが離して貰えません!

鏑木 うりこ

文字の大きさ
上 下
50 / 139

50 過去一番の皇帝ラムシェーブル

しおりを挟む
「抱き損ねた」

「そりゃ残念でした」

「今からでも」

「やめとけ」

 次の日の朝、ラムはいつもの調子を取り戻していた。

「ま、俺は赤い服なんてぜってぇ着ないし。紫の髪に赤い服なんてぜってぇないわー」

 金髪なら似合うかもしれんがな。

「助かる」

 自重気味に小さく笑う。俺もラムが隠したい傷はこれ以上触れないでおく。人は赤い服を着なくても生きていけるものだからな。

「今日は昨日の遅れを取り戻さなきゃなぁ」

「そうだな、やっぱり抱こう」

「あー今日の朝ご飯何かなー。早く食べて働こう~」

 メイドちゃん!早く起こしに来て!!

「おはようございます、陛下、ディエス様……「起きてます、起きてまーす!」」
 
 トントンと扉をノックして控えめに声をかけてくれたメイドちゃんに、俺は食い気味に大きな声で答えた。流石、メイドちゃん!俺の事、わかってくれてる!!!!ボーナスあげちゃううう!

「ちっ」

 舌打ちしても駄目でーす。昨日は夕飯も食べず、着替えもせずそのままベッドに転がって寝ていたから上等な服がしわしわになってしまった。きっと色々心配かけただろうけれど、起こしに来てくれたコは何も言わずににこやかに笑っていた。その優しさが嬉しいぞ。



「良いねハインツ。上手にやるんだ、そうじゃなきゃ君は使えない男となる。わかる?結構今ギリギリのところに立っているんだからね!?」

「は、はい!肝に銘じますっ!」

「ホントにわかってる……?心配だなあ……」

 俺は俺とラムの前でカチコチに固まっているイエリス公爵令息ハインツに檄を飛ばしていた。イエリス公爵家はソレイユ派の重鎮だが、その息子が使えない男では困るのだ!だから仕事を与える事にしたんだけど、ホント大丈夫かなぁ……。

「レジム公爵が行う改革のサポートですよね」

 駄目だった。

「ちがーーーう!サポートに見せかけて、あの公爵がやっている事やっていない事を逐一報告する係!実際のサポートは何もしなくていい。ただ、どこが良くてどこが駄目なのかを間近で見て、勉強すること!です!そして絶対に失敗するから手は出さない事!見てるだけ!あと間違いなく嫌味やら嫌がらせをされるから耐えて上手く躱す術を身につける事!分かった??」

「わ、私が知っているサポートと全然違う気がするのですが……?失敗すると分かっていて敢えて手を出さないのですか?」

「手を出してあの公爵閣下と同じ「無能で使えない男」のレッテルを貼られたいの??良いかい?ラムが3か月で成果を出せって言ったのはかの閣下を油断させる為だぞ。俺なら一週間でそれなりの成果を見せてもらう所だ。多分3か月と聞いたかの閣下は最初の一ヵ月は何もしないで過ごすだろう。でもハインツは毎週レポートを上げるんだ。何もしていない奴のレポートだぞ、大変だぞ??」

 人の言葉をまだまだ表面上しか読み取っていないハインツはきょとんと任命書を持ったまま、俺の顔を不思議そうに見ている。

「えっと……何もないなら「何もなかった」になるのでは?」

「ばっかもーーーーん!!」

「ぴゃっ!」

「それやったら一発でアウトでしょう!良いか?政敵の懐に送り込まれる意味を間違えるんじゃない!お馬鹿、このお馬鹿ーーー!」

「はいい!!」

 もう!本当に大丈夫かなあハインツ。俺はあの日お茶会をした3人の3家をきちんと味方につけることをラムに宣言してある。強固な一枚板のような体制を作って……そして俺はスローライフに戻るのだ!諦めてなんかいないんだからな!

「最初のうちは好きな食べ物とか、嫌いな物とかそういうのを書いてきてもまあ許してやるけれど……頼むよ、ハインツ?イエリス家を路頭に迷わせる気なの??」

「そんな!とんでもないです、頑張ります!頑張ります~~!よろしくご鞭撻くださいいい!」

「期待してるんだからね?ハインツは見た目が良いんだからさあ……あと婚約者大事にしなよ」

「勿論ですうう!間違っても「らふれしあ」に誘惑なんてされませんから!私もあの臭いは無理です!」

 なら良いんだけれども……。こうしてレジム公爵には仲が良く無くて連携が取れない武官と文官を調整する旨が書かれた正式な任命書を発行し、ハインツにはその補佐をするようにと任命書を書く。

「金融課に勤めているレジム公爵に新たな仕事を割り振った。元の仕事に手が回らなくなるだろうから、そちらの補助にシルビオ侯爵とリスター侯爵が回るよう」

 それも任命書を発行する。さて、二人とも若者ではないんだしちゃんと仕事をしてくれると信じてるよ??
 勿論シルビオ侯爵とリスター侯爵に期待する仕事はレジム公爵の決定的な不正の証拠だ。

 そう、元上司を売れと俺は無言の依頼書を出したんだ。ハインツはまだ若いからこうやって一々説明してやるけれど、二人の侯爵様はそれくらい分かってくれるよな??
 因みにラムの影達から受け取った書類にはレジム公爵はやはり不正をいくつか行っていると書いてあった。

「弱いな」

「うん」

 どれもレジム公爵家の資産を当てれば補填できる程の物だったから、ラムは

「武官と文官のいざこざの金は国庫からは払うつもりはないからな。レジム公爵は私財を充てるだろうよ。まあ成功すれば報酬として支払う支度はある」

「成功はしないだろ」

 人望無さそうだし。金って言っても全員にいくらか渡して「ワシのために励め」くらいしか言わない気がするし。

「私財をすり減らした所で過去の着服分を回収し……彼らが働いてくれれば隠し財産も含めてかなり搾り取れるだろう」

 過去一悪どい笑顔で皇帝ラムシェーブルはにんまりと笑った。

 おわぁ……こえぇ……すごく怒ってたんだなぁ。

しおりを挟む
感想 261

あなたにおすすめの小説

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。

有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います

緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。 知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。 花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。 十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。 寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。 見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。 宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。 やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。 次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。 アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。 ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。

天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。 成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。 まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。 黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

悪役令息を引き継いだら、愛が重めの婚約者が付いてきました

ぽんちゃん
BL
 双子が忌み嫌われる国で生まれたアデル・グランデは、辺鄙な田舎でひっそりと暮らしていた。  そして、双子の兄――アダムは、格上の公爵子息と婚約中。  この婚約が白紙になれば、公爵家と共同事業を始めたグランデ侯爵家はおしまいである。  だが、アダムは自身のメイドと愛を育んでいた。  そこでアダムから、人生を入れ替えないかと持ちかけられることに。  両親にも会いたいアデルは、アダム・グランデとして生きていくことを決めた。  しかし、約束の日に会ったアダムは、体はバキバキに鍛えており、肌はこんがりと日に焼けていた。  幼少期は瓜二つだったが、ベッドで生活していた色白で病弱なアデルとは、あまり似ていなかったのだ。  そのため、化粧でなんとか誤魔化したアデルは、アダムになりきり、両親のために王都へ向かった。  アダムとして平和に暮らしたいアデルだが、婚約者のヴィンセントは塩対応。  初めてのデート(アデルにとって)では、いきなり店前に置き去りにされてしまい――!?  同性婚が可能な世界です。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。  ※ 感想欄はネタバレを含みますので、お気をつけください‼︎(><)

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

処理中です...