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38 得難きあの方(正妃ソレイユ視点)
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非常に珍しい申し出があったので、わたくしは腰を上げました。
「お呼びとあり参上つかまつりました、陛下」
「ソレイユ」
ラムシェーブル陛下がわたくしと話をしたいと使いを寄越したのです。そんなことはわたくしたちがこの皇帝と妃の座についてから初めての事でした。身重のわたくしを気遣って陛下は柔らかいソファを勧めてくれます、こういうところは本当に優しい人なのだと思います。
「ディエスがお前ばかり褒めるのだ」
「まあ、嬉しいですわ」
やはり話題はディエス様の事なのですね。わたくしと陛下の間では話題がありませんもの……それも全てわたくしが「帝国正妃」としての地位を選んだからにほかならず、わたくしは代々の「正妃」と同じ慣習の元、生きていく事を選びました。
ラムシェーブルがわたくしに「帝国正妃」を求めていない事は重々承知の上でわたくしは「帝国正妃」になる事を選んだのです。孤独なラムシェーブルの手を非情に振り払ったわたくし。そんなわたくしにすらラムシェーブルはわたくしの願いを叶えるために「帝国正妃」として扱う事を決めてくれた……。
あの時の絶望した貴方の顔は生涯わたくしの罪として背負っていくと決めたのに。
「何故だ?」
「それはディエス様は陛下の事を夫として見ていらっしゃるからでしょう?わたくしはあの方の「上司」ですので。照れていらっしゃるのですよ」
「……ソレイユ、何か欲しいものがあるのか?」
「ふふ、考えておきます」
陛下は生まれた時から皇帝になる事が決められていた方。「ありがとう」を表現することが出来ない方。……そして自分をほめるものは大抵何か見返りを求める者達ばかり。だから「欲しいものがあるのか?」と聞いてくる方。
「……ディエスが私と下町へ行くと言い出して」
「可愛いお願いではありませんか。聞いてやっては?」
「私が動くと色々迷惑がかかる」
そんな事気にしなければいいのに。そう躾けれている陛下は下町へ遊びに行く事すら考え付かないのだろうし、そうやって誘い出す友人もいない。特定の人間とは仲良くならぬよう、陛下の周りに仕える人々はすぐに変えられていました。変わらなかったのは婚約者のわたくしだけ。それもあってラムシェーブルはわたくしに執着もした。
「誰が皇帝を叱れましょうか?」
「リゼロ辺りは普通に。ディエスなど2時間くらい文句を言われ続けておったぞ」
「まあ!」
ディエス様はラムシェーブルに友人がない事に気が付かれたのですね。そして欠けたラムシェーブルの人としての穴を埋めてくださるつもりなのですね。わたくしがラムシェーブルに開けた大きな穴をも埋めてくださる……。
「わたくしたちは本当に得難い人を得ました」
「ディエスは……飽きないな。次々と新しい事をしてゆく」
「ええ……そうですわね」
双眼鏡とやらが出来た時に最初に得意そうに持ってこられましたね。
「コレで、こうやって覗くとかなり細かい所まで見えるので、ラムと今、読唇術の練習をしてるんです。お話する時は扇で口元を隠してくださいね!バレますよ!」
「まあ!」
わたくしの話は盗み聞きする気はないのでしょうね。堂々とおっしゃられていましたし、ドレスをくれと言われた時は驚きましたが、加工してご自身の小物にして……まさかご令嬢方を試すのに使うなど、思いつきもしませんでした。
「俺が反ソレイユ様派をぶっ潰しますんで!きれいにしてささ~っとスローライフに戻るんだ!」
「あらまあ……」
そんなことを仰っていました。
「陛下。これは幼馴染のソレイユとしてラムシェーブルにお伝えしたいのですが宜しいでしょうか?」
「なんだ?ソレイユ」
本当に大丈夫かしら……ラムシェーブルは。
「ディエス様がささ~っときれいにする前に、貴方はすろーらいふとやらに必要なスキルを身につけておいた方が宜しいのでは?」
「……」
「使えないヤツはいらん、と置いて行かれてしまいますわよ?」
ラムシェーブルはもうディエス様無しでは生きていけないに違いありません。きっと、わたくしがいなくなってもラムシェーブルは生きて行けるでしょうが、ディエス様がいなくなったら、小さく枯れて死んでしまうに違いありません。
「……善処する」
「ええ、是非そうなさいませ」
わたくしがラムシェーブルに呼び出された理由は、間違いなくディエス様との「のろけ話」を聞かされる為だと分かっていました。それでもわたくしは嬉しかったのです、ラムシェーブルが人として持つ感情を持っていたことが分かって。
この皇帝となるべく育てられ、人として沢山のもの失ったわたくしの幼馴染を人に戻してくれるディエス様。
わたくしが出来る事はあの方の良き上司であり続ける事なのでしょう。
「スローライフとやらには何が必要なんだ?」
「……わたくしも分かりませんわ……ディエス様に聞いてみなくてはなりませんね」
「お呼びとあり参上つかまつりました、陛下」
「ソレイユ」
ラムシェーブル陛下がわたくしと話をしたいと使いを寄越したのです。そんなことはわたくしたちがこの皇帝と妃の座についてから初めての事でした。身重のわたくしを気遣って陛下は柔らかいソファを勧めてくれます、こういうところは本当に優しい人なのだと思います。
「ディエスがお前ばかり褒めるのだ」
「まあ、嬉しいですわ」
やはり話題はディエス様の事なのですね。わたくしと陛下の間では話題がありませんもの……それも全てわたくしが「帝国正妃」としての地位を選んだからにほかならず、わたくしは代々の「正妃」と同じ慣習の元、生きていく事を選びました。
ラムシェーブルがわたくしに「帝国正妃」を求めていない事は重々承知の上でわたくしは「帝国正妃」になる事を選んだのです。孤独なラムシェーブルの手を非情に振り払ったわたくし。そんなわたくしにすらラムシェーブルはわたくしの願いを叶えるために「帝国正妃」として扱う事を決めてくれた……。
あの時の絶望した貴方の顔は生涯わたくしの罪として背負っていくと決めたのに。
「何故だ?」
「それはディエス様は陛下の事を夫として見ていらっしゃるからでしょう?わたくしはあの方の「上司」ですので。照れていらっしゃるのですよ」
「……ソレイユ、何か欲しいものがあるのか?」
「ふふ、考えておきます」
陛下は生まれた時から皇帝になる事が決められていた方。「ありがとう」を表現することが出来ない方。……そして自分をほめるものは大抵何か見返りを求める者達ばかり。だから「欲しいものがあるのか?」と聞いてくる方。
「……ディエスが私と下町へ行くと言い出して」
「可愛いお願いではありませんか。聞いてやっては?」
「私が動くと色々迷惑がかかる」
そんな事気にしなければいいのに。そう躾けれている陛下は下町へ遊びに行く事すら考え付かないのだろうし、そうやって誘い出す友人もいない。特定の人間とは仲良くならぬよう、陛下の周りに仕える人々はすぐに変えられていました。変わらなかったのは婚約者のわたくしだけ。それもあってラムシェーブルはわたくしに執着もした。
「誰が皇帝を叱れましょうか?」
「リゼロ辺りは普通に。ディエスなど2時間くらい文句を言われ続けておったぞ」
「まあ!」
ディエス様はラムシェーブルに友人がない事に気が付かれたのですね。そして欠けたラムシェーブルの人としての穴を埋めてくださるつもりなのですね。わたくしがラムシェーブルに開けた大きな穴をも埋めてくださる……。
「わたくしたちは本当に得難い人を得ました」
「ディエスは……飽きないな。次々と新しい事をしてゆく」
「ええ……そうですわね」
双眼鏡とやらが出来た時に最初に得意そうに持ってこられましたね。
「コレで、こうやって覗くとかなり細かい所まで見えるので、ラムと今、読唇術の練習をしてるんです。お話する時は扇で口元を隠してくださいね!バレますよ!」
「まあ!」
わたくしの話は盗み聞きする気はないのでしょうね。堂々とおっしゃられていましたし、ドレスをくれと言われた時は驚きましたが、加工してご自身の小物にして……まさかご令嬢方を試すのに使うなど、思いつきもしませんでした。
「俺が反ソレイユ様派をぶっ潰しますんで!きれいにしてささ~っとスローライフに戻るんだ!」
「あらまあ……」
そんなことを仰っていました。
「陛下。これは幼馴染のソレイユとしてラムシェーブルにお伝えしたいのですが宜しいでしょうか?」
「なんだ?ソレイユ」
本当に大丈夫かしら……ラムシェーブルは。
「ディエス様がささ~っときれいにする前に、貴方はすろーらいふとやらに必要なスキルを身につけておいた方が宜しいのでは?」
「……」
「使えないヤツはいらん、と置いて行かれてしまいますわよ?」
ラムシェーブルはもうディエス様無しでは生きていけないに違いありません。きっと、わたくしがいなくなってもラムシェーブルは生きて行けるでしょうが、ディエス様がいなくなったら、小さく枯れて死んでしまうに違いありません。
「……善処する」
「ええ、是非そうなさいませ」
わたくしがラムシェーブルに呼び出された理由は、間違いなくディエス様との「のろけ話」を聞かされる為だと分かっていました。それでもわたくしは嬉しかったのです、ラムシェーブルが人として持つ感情を持っていたことが分かって。
この皇帝となるべく育てられ、人として沢山のもの失ったわたくしの幼馴染を人に戻してくれるディエス様。
わたくしが出来る事はあの方の良き上司であり続ける事なのでしょう。
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