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34 だがムカつくのである(皇帝ラムシェーブル視点)
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「今日は私の招待に応じてくれてありがとうございます」
「側妃ディエス様、ご機嫌麗しゅう」
ディエスの茶会が始まった。
茶会の開催日のかなり前、唐突に聞かれた。ディエスは良く何かを思い出したかの様に不思議な事を言う。
「ラムって読唇術出来る?」
「読心術?魔法の類でそんな物があったな」
「ちがーう唇の動きで何を喋ってるか知るの」
「そんな面倒な事しなくとも……」
またあの心底見下した顔だ。ディエスはどれだけ学習能力がないのだ?もしかして激しい夜が好きだからわざとか?
「あのなぁ、魔法って使うと痕跡が残るの。バレるんだよ、それを避けるのに必要なんだ」
やはりディエスは賢いのか?
「しかしそれでは唇が見えないと分からぬではないか」
「だーかーらー作りましたー双眼鏡でーす」
得意そうに見せびらかして来たので取り上げたが、これが中々役に立つ。この双眼鏡とやらで中庭で行われているディエスの茶会の様子を見ている。
会話の内容も大体掴める、なるほど便利だな。私に見られている事を知っているようで、ディエスはわざと唇を大きく動かして分かりやすくしゃべっているようだ。
「イエリア公爵家、ハインツです。以後お見知りおきを」
「シルビオ侯爵家サファイアでございます」
「リスター侯爵家、プリネラですわ」
イエリア公爵家は長男を、シルビオ侯爵家とリスター侯爵家は長女を送り込んできたようだ。どれもディエスとは歳が近い、成程まずは友達ラインから手堅く行こうと言うところか。手堅すぎて面白みが足りん。つまらん茶会になりそうだ。
「歳が近いようですね、少し気楽にして良いかな?私はこちらに知己がいないから」
にこやかにディエスは少し口調を崩している。なるほど、作戦に乗るつもりだな?ディエスは別に友達を欲していない事を私は知っている。
「友達いても……どうせ残業で会える事なんてねーし、休日は寝て体力を回復させないと月曜日に働けねぇだろ」
良く分からんが友達は要らないらしい。あの中でソレイユ派はイエリア公爵家。二人の令嬢の侯爵家は反ソレイユ派だ。さて、どうするのか。
「ふふ、それでは私達がディエス様のお友達に立候補したいですわ」
「ありがとう、サファイア嬢」
和やかに会話は続いているが、令嬢達の顔が引き攣った。なんだ?視線の先はディエスの胸元に釘付けられている。
今日のディエスは白いコートに胸元はフリルタイ……透け感のある黒い布地に黒と青で薔薇の刺繍が施してある。
「……どこかで見た……あの夜会のソレイユのドレスか」
つまりディエスはソレイユのドレスの一部を身につけている。それにサファイア嬢は気付いたのだろう。
さて、反ソレイユ派の二人はどうするのか。ディエスはソレイユからドレスを下賜されるほど仲が良いと分かるだろうし、一部とはいえソレイユが身につけた物に頭を下げるか……?
興味深く見ているとディエスがこっちを見て唇だけを動かした。
あ ば れ に こ い
あいつは私を何だと思っているのだ?全く今日の夜は眠れると思うなよ。しかしディエスが何をするか興味はある。
私は微妙な空気の流れる中庭に足を向けた。
「ディエス」
「あ、皇帝陛下……あっ、しまった」
「わっ」「きゃっ!」
声をかけると待ってましたとばかりにディエスはテーブルに長い足を引っ掛けてがたん、と傾かせた。
多分ディエスの狙った通り全員のお茶が波打ち溢れ、それぞれの服にかかった事だろう。
「こ、皇帝陛下におかれましては……」
ハインツが定型の挨拶を跪いて述べるのを片手で制止する。
「良い、ディエス」
「すみません、陛下。皆様にお茶をかけてしまいました……拭いてください」
差し出すディエスのハンカチは……一部にソレイユのドレスを使った繊細なハンカチ。
「……っ」「……!」
令嬢二人は逡巡した。ソレイユからの下賜品を手に取る事は彼女達反ソレイユ派にしたら屈辱だろう。
しかしディエスに気に入られたいのであればこれは是が非でも受け取るべき物。二人の令嬢は迷い……決断出来なかった。
「私が頂いても?」
「ああ、ハインツ殿。良ければお使いください」
ディエスのハンカチは収まる所に収まる。ソレイユ派のイエリア公爵家ならば受け取っても何の支障もない。
「ディエス」
「分かりました。すみませんが席を外します。ゆっくりして行ってくださいね」
私はディエスを伴って茶会の場を後にする。主催を連れて行くのだから茶会はこれでしまいになるだろうし、多少とはいえドレスが汚れた令嬢ならば帰らざるを得ない。
「あの程度らしいぞ、ラム」
あの3人から離れるとディエスの「良い子の側妃」の皮がベロリと剥がれた。
「ああ」
「面子も大事、利益も大事。どっちも守りつつ美味い思いをしようとしつつも策を打つ頭もない。使えないなぁ」
ディエスの評価は中々辛い。
「特にあのハインツは駄目だな」
「及第点の行動ではなかったか?」
他の令嬢には恥をかかせず、ディエスの面子も潰さず。あそこで波風立たせない為にはああするのが一番だ。
「ハァ?!何言ってんの??ソレイユ様の部下なら普通の仕事じゃ駄目だっつーの!あの面子で茶会が決まったんならソレイユ様にお伺いを立ててから他のニ家をどう陥れるか策を練るべきだろう??無策で来やがって!
ちょっとは期待した俺が馬鹿だった!」
過激派か。
「そんなんだから盤石にならないんだよ。俺は後から苦労なんてしたくないからな!やるならさっさとだ!ったくあいつが家を継ぐんだろ?大丈夫か?あの野郎の婚約者はまともか??ポンコツなら困るぞ!!ソレイユ様に相談だ!!」
煙を巻き上げる勢いで私を置いて行ってしまった。
しかしこの茶会以降、ディエス主催の茶会は油断が出来ないと囁かれる事になる。ディエスは無能であると言う認識を自ら払拭してしまった。
ちなみにソレイユには素晴らしい象眼の双眼鏡をプレゼント済みだったので、やっぱりお仕置きしておいた。
「側妃ディエス様、ご機嫌麗しゅう」
ディエスの茶会が始まった。
茶会の開催日のかなり前、唐突に聞かれた。ディエスは良く何かを思い出したかの様に不思議な事を言う。
「ラムって読唇術出来る?」
「読心術?魔法の類でそんな物があったな」
「ちがーう唇の動きで何を喋ってるか知るの」
「そんな面倒な事しなくとも……」
またあの心底見下した顔だ。ディエスはどれだけ学習能力がないのだ?もしかして激しい夜が好きだからわざとか?
「あのなぁ、魔法って使うと痕跡が残るの。バレるんだよ、それを避けるのに必要なんだ」
やはりディエスは賢いのか?
「しかしそれでは唇が見えないと分からぬではないか」
「だーかーらー作りましたー双眼鏡でーす」
得意そうに見せびらかして来たので取り上げたが、これが中々役に立つ。この双眼鏡とやらで中庭で行われているディエスの茶会の様子を見ている。
会話の内容も大体掴める、なるほど便利だな。私に見られている事を知っているようで、ディエスはわざと唇を大きく動かして分かりやすくしゃべっているようだ。
「イエリア公爵家、ハインツです。以後お見知りおきを」
「シルビオ侯爵家サファイアでございます」
「リスター侯爵家、プリネラですわ」
イエリア公爵家は長男を、シルビオ侯爵家とリスター侯爵家は長女を送り込んできたようだ。どれもディエスとは歳が近い、成程まずは友達ラインから手堅く行こうと言うところか。手堅すぎて面白みが足りん。つまらん茶会になりそうだ。
「歳が近いようですね、少し気楽にして良いかな?私はこちらに知己がいないから」
にこやかにディエスは少し口調を崩している。なるほど、作戦に乗るつもりだな?ディエスは別に友達を欲していない事を私は知っている。
「友達いても……どうせ残業で会える事なんてねーし、休日は寝て体力を回復させないと月曜日に働けねぇだろ」
良く分からんが友達は要らないらしい。あの中でソレイユ派はイエリア公爵家。二人の令嬢の侯爵家は反ソレイユ派だ。さて、どうするのか。
「ふふ、それでは私達がディエス様のお友達に立候補したいですわ」
「ありがとう、サファイア嬢」
和やかに会話は続いているが、令嬢達の顔が引き攣った。なんだ?視線の先はディエスの胸元に釘付けられている。
今日のディエスは白いコートに胸元はフリルタイ……透け感のある黒い布地に黒と青で薔薇の刺繍が施してある。
「……どこかで見た……あの夜会のソレイユのドレスか」
つまりディエスはソレイユのドレスの一部を身につけている。それにサファイア嬢は気付いたのだろう。
さて、反ソレイユ派の二人はどうするのか。ディエスはソレイユからドレスを下賜されるほど仲が良いと分かるだろうし、一部とはいえソレイユが身につけた物に頭を下げるか……?
興味深く見ているとディエスがこっちを見て唇だけを動かした。
あ ば れ に こ い
あいつは私を何だと思っているのだ?全く今日の夜は眠れると思うなよ。しかしディエスが何をするか興味はある。
私は微妙な空気の流れる中庭に足を向けた。
「ディエス」
「あ、皇帝陛下……あっ、しまった」
「わっ」「きゃっ!」
声をかけると待ってましたとばかりにディエスはテーブルに長い足を引っ掛けてがたん、と傾かせた。
多分ディエスの狙った通り全員のお茶が波打ち溢れ、それぞれの服にかかった事だろう。
「こ、皇帝陛下におかれましては……」
ハインツが定型の挨拶を跪いて述べるのを片手で制止する。
「良い、ディエス」
「すみません、陛下。皆様にお茶をかけてしまいました……拭いてください」
差し出すディエスのハンカチは……一部にソレイユのドレスを使った繊細なハンカチ。
「……っ」「……!」
令嬢二人は逡巡した。ソレイユからの下賜品を手に取る事は彼女達反ソレイユ派にしたら屈辱だろう。
しかしディエスに気に入られたいのであればこれは是が非でも受け取るべき物。二人の令嬢は迷い……決断出来なかった。
「私が頂いても?」
「ああ、ハインツ殿。良ければお使いください」
ディエスのハンカチは収まる所に収まる。ソレイユ派のイエリア公爵家ならば受け取っても何の支障もない。
「ディエス」
「分かりました。すみませんが席を外します。ゆっくりして行ってくださいね」
私はディエスを伴って茶会の場を後にする。主催を連れて行くのだから茶会はこれでしまいになるだろうし、多少とはいえドレスが汚れた令嬢ならば帰らざるを得ない。
「あの程度らしいぞ、ラム」
あの3人から離れるとディエスの「良い子の側妃」の皮がベロリと剥がれた。
「ああ」
「面子も大事、利益も大事。どっちも守りつつ美味い思いをしようとしつつも策を打つ頭もない。使えないなぁ」
ディエスの評価は中々辛い。
「特にあのハインツは駄目だな」
「及第点の行動ではなかったか?」
他の令嬢には恥をかかせず、ディエスの面子も潰さず。あそこで波風立たせない為にはああするのが一番だ。
「ハァ?!何言ってんの??ソレイユ様の部下なら普通の仕事じゃ駄目だっつーの!あの面子で茶会が決まったんならソレイユ様にお伺いを立ててから他のニ家をどう陥れるか策を練るべきだろう??無策で来やがって!
ちょっとは期待した俺が馬鹿だった!」
過激派か。
「そんなんだから盤石にならないんだよ。俺は後から苦労なんてしたくないからな!やるならさっさとだ!ったくあいつが家を継ぐんだろ?大丈夫か?あの野郎の婚約者はまともか??ポンコツなら困るぞ!!ソレイユ様に相談だ!!」
煙を巻き上げる勢いで私を置いて行ってしまった。
しかしこの茶会以降、ディエス主催の茶会は油断が出来ないと囁かれる事になる。ディエスは無能であると言う認識を自ら払拭してしまった。
ちなみにソレイユには素晴らしい象眼の双眼鏡をプレゼント済みだったので、やっぱりお仕置きしておいた。
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