80 / 96
13.記憶の欠片と僕の決意
2
しおりを挟む
お昼どきではあったけれど、客の回転が速いのか、それほど待たずに入店することができた。二名掛けのテーブルに向かい合って座り、ランチメニューを広げる。店一押しのメニューは、さっき梨花さんも言っていた海鮮丼だろう。いろんなネタが乗っていて、彩りも豊かだ。旬の魚も数種類乗せてくれるらしい。
「梨花さんは海鮮丼?」
「そのつもりだったんだけど……いくら食べたくなっちゃって迷い中。工藤君は決まった?」
「うん。海鮮丼にしようかな。ゆっくり悩んでいいよ」
「ごめんね。わたし、お店に来ると優柔不断になっちゃって。買い物はすぐ決められるんだけどなあ」
ふたりで横から見ていたメニューを梨花さんのほうへ向けると、梨花さんは何度も写真を見比べながらうんうんと悩んでいた。
「今いくら食べたいならそっちにすれば? この店近いんだし、また来ればいいよ。もし、食べたい魚があるなら、僕のあげてもいいし」
ゆっくり悩んでと言ったのに、つい口を出してしまって、しまったなと思う。ばっと顔を上げた梨花さんは、大きな目をさらに大きく見開いた。
「ほんと? いいの? じゃあそうする」
梨花さんはいくらと鮭の親子丼を注文した。いくら丼の次にいくらの量が多いやつだ。よほど食べたかったのだろうと思うと、可愛らしくて少し笑えた。いつもしっかりしていて、お姉さんみたいに感じていたけれど、ちゃんと僕と同じ年頃の女の子なんだと思った。
「工藤君、今日この後まだ時間ある?」
「平気だよ。何も予定ないから」
「じゃあさ、映画見ていかない? 気になってたやつが今日から上映が始まるの。今日ならカップル割で安くなるらしいから」
カップル割という言葉が気になりつつも、安くなるのであれば問題ないかと頷く。ちょうどそこに海鮮丼と親子丼が運ばれてきて、会話は中断された。きらきらと輝くいくらに、梨花さんも負けないくらい瞳を輝かせていた。取り皿をもらって、いくらと鮭を少し分けてもらう。僕のほうからも二切ずつ乗っていた鮪と鰤をよそって梨花さんに手渡した。
食べながら梨花さんの大学の話を聞く。いわゆるサークルというものには所属していないらしい。新入生のときに受けた熱烈すぎる勧誘に引いてしまって、どこにも入りたくなくなってしまったそうだ。田辺さんのために、恋人がいるのか聞いてみようかと思ったけれど、こういう話はどう切り出していいのかわからず、聞くことができなかった。
「梨花さんは海鮮丼?」
「そのつもりだったんだけど……いくら食べたくなっちゃって迷い中。工藤君は決まった?」
「うん。海鮮丼にしようかな。ゆっくり悩んでいいよ」
「ごめんね。わたし、お店に来ると優柔不断になっちゃって。買い物はすぐ決められるんだけどなあ」
ふたりで横から見ていたメニューを梨花さんのほうへ向けると、梨花さんは何度も写真を見比べながらうんうんと悩んでいた。
「今いくら食べたいならそっちにすれば? この店近いんだし、また来ればいいよ。もし、食べたい魚があるなら、僕のあげてもいいし」
ゆっくり悩んでと言ったのに、つい口を出してしまって、しまったなと思う。ばっと顔を上げた梨花さんは、大きな目をさらに大きく見開いた。
「ほんと? いいの? じゃあそうする」
梨花さんはいくらと鮭の親子丼を注文した。いくら丼の次にいくらの量が多いやつだ。よほど食べたかったのだろうと思うと、可愛らしくて少し笑えた。いつもしっかりしていて、お姉さんみたいに感じていたけれど、ちゃんと僕と同じ年頃の女の子なんだと思った。
「工藤君、今日この後まだ時間ある?」
「平気だよ。何も予定ないから」
「じゃあさ、映画見ていかない? 気になってたやつが今日から上映が始まるの。今日ならカップル割で安くなるらしいから」
カップル割という言葉が気になりつつも、安くなるのであれば問題ないかと頷く。ちょうどそこに海鮮丼と親子丼が運ばれてきて、会話は中断された。きらきらと輝くいくらに、梨花さんも負けないくらい瞳を輝かせていた。取り皿をもらって、いくらと鮭を少し分けてもらう。僕のほうからも二切ずつ乗っていた鮪と鰤をよそって梨花さんに手渡した。
食べながら梨花さんの大学の話を聞く。いわゆるサークルというものには所属していないらしい。新入生のときに受けた熱烈すぎる勧誘に引いてしまって、どこにも入りたくなくなってしまったそうだ。田辺さんのために、恋人がいるのか聞いてみようかと思ったけれど、こういう話はどう切り出していいのかわからず、聞くことができなかった。
1
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
【完結】いつの間にか貰っていたモノ 〜口煩い母からの贈り物は、体温のある『常識』だった〜
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ライト文芸
「いつだって口煩く言う母が、私はずっと嫌いだった。だけどまぁもしかすると、感謝……してもいいのかもしれない」
***
例えば人生の節目節目で、例えばひょんな日常の中で、私は少しずつ気が付いていく。
あんなに嫌だったら母からの教えが自らの中にしっかりと根付いている事に。
これは30歳独身の私が、ずっと口煩いくて嫌いだった母の言葉に「実はどれもが大切な事だったのかもしれない」と気が付くまでの物語。
◇ ◇ ◇
『読後には心がちょっとほんわか温かい』を目指した作品です。
後半部分には一部コメディー要素もあります。
母との確執、地元と都会、田舎、祖父母、農業、母の日。
これらに関連するお話です。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから
真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」
期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。
※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。
※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。
※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。
※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。
溺愛展開を信じるには拾い主が怪しすぎる
蟹江カルマ
BL
ちょっと胡散臭い美形猫飼いお兄さんが、優しさ耐性ゼロのやさぐれ元工員を拾いました。
あるもの
・怪しいけどほんとは優しい金持ち美形攻め
・疑り深いけど次第に懐く不憫受け
・すれ違いからのハピエン
・えろ
・猫ハーレム
性描写は※つき。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる