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11.君がいない部屋で僕はひとり

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 鈴音を拒絶したあの日から、僕たちは事務的な会話しかしていなかった。正確には、何か言いたそうにしている鈴音を僕が徹底的に避けているのだけれど。重苦しい空気の中、鈴音が精いっぱいの笑顔を作っているのが痛々しくて、目を背けてしまった。

「タクミ、今日は買い物に行きたいんだ。もう食材がなくなる」
「じゃあ今日はお弁当買って帰るよ」
「いやだ。今日は絶対に作りたい。タクミの好きなものを作りたいんだ」
「でも、仕事終わってから食材買いに行って、それから作るとなるとだいぶ遅くなっちゃうからいいよ」
「それなら昼間のうちに買い物に行く」
「ひとりで行けるの?」

 買い物にはいつもふたりで行っていた。でも、だいぶ人間らしくなった今の鈴音なら、任せても大丈夫なのかもしれない。引き出しにしまったままだった合い鍵を探し出して、鈴音に手渡した。

「大丈夫だ。買い物の仕方は一緒に行って覚えた」
「一応梨花さんにも声かけてみようか?」
「ああ……。そうだな、梨花にも会っておいたほうがいいかもしれない」

 鈴音は少し俯いて、呟くようにそう言った。『会っておいたほうがいい』ってなんだろう。やっぱり別れのときが近いのだろうか。聞きたいのに、聞けなかった。きっと、聞いたところで濁されてしまうんだろうけど。

「じゃあ、家出るときは必ず鍵かけてね。絶対なくさないように。お金はこれで足りるかな。また週末に買い出しに行こう。だから、そんなに買わなくて大丈夫だから」
「わかった。タクミ、行ってらっしゃい」
「うん、行ってきます」

 ドアが閉まる直前、何気なく手を振った。すると、鈴音は嬉しそうにぶんぶんと手を振り返してくる。あんな顔、久しぶりに見た気がする。愛おしくて、愛おしくて、苦しかった。
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