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W3 その2
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夕方になると二十畳もある広いリビングにテーブルが置かれ、その上にずらりと酒と豪華なおせち料理が並べられた。
治美たちだけではなくスタジオに残っていた数名のスタッフも参加して立食式のパーティが催された。
晴れ着に着替えた治美がみんなの前に立つと乾杯の音頭を取った。
「みなさん!明けましておめでとうございます!今日は正月祝いと手塚雅人マネージャーの送別会となにより鉄腕アトム第一話の放映記念パーティーです!今日だけは仕事を忘れて無礼講で騒ぎましょう!」
治美の乾杯の発声とともに全員がコップを持った手を高く掲げた。
そして、午後6時15分になった。
全員が固唾をのんで小さなテレビのブラウン管の前に集まった。
鉄腕アトムの顔がアップになり主題歌が流れてきた。
その場にいた全員からどよめきが起こり、「原作 手塚治虫」の文字が映ると拍手が起きた。
やがてアニメ第一話の本編が始まった。
ハイウェイを疾走する未来の車が映る。
気持ちよさそうに運転するトビオ少年。
と、車はトラックにぶつかり、道に倒れるトビオ。
死んだトビオの周りに人だかりができる。
野次馬をかき分けて父親の天馬博士が現れる。
トビオの遺体を泣きながら抱きしめる天馬博士。
やがて、半狂乱の天馬博士は決意する。
「そうだ、トビオを生き返らせる!ロボットを作るのだ。わしの命をかけた最高の科学芸術品!トビオ!永久に死なないお前を作ってやるぞ!」
そして科学技術庁長官だった天満博士はトビオに似せた少年ロボットを作り、何年も自分の息子として育てた。
しかし、天満博士はいつまでたっても成長しない少年ロボットを憎むようになり、とうとうサーカスの団長に売り飛ばしてしまう。
少年ロボットは「鉄腕アトム」と名付けられ、サーカスで見世物として他のロボットと戦わされる日々を送る。
お茶の水博士がサーカスの団長にアトムがかわいそうだから自由にしてくれと頼むが団長は拒絶する。
治美の隣でテレビを観ていたエリザが小声で尋ねた。
「なあ、アトムってこんなかわいそうな生い立ちやったの。もっと単純で明るいお話やと思っていたわ」
「エリザさん、わたしの漫画読んだことないでしょ?」
エリザは笑いながらうなずいた。
「『鉄腕アトム』のテーマは最初の『アトム大使』の頃から一貫して差別との闘いなのよ。アトムは事あるごとにロボットだからと人間に差別されるけど、それでも人間を守るため悪に立ち向かっていくのよ」
「アトムの声がいいわね。可愛くて、でも凛々しくて、アトムのイメージにピッタリやわ」
「でしょう。アトムの声優は清水マリさんと言って、黒澤映画の常連の俳優、清水元さんの娘さんなの。虫プロにたまたま清水元さんの劇団出身者がいて紹介してもらったのよ。これから40年間、アトムとお茶の水博士役の勝田久さんだけはずっと変わらず声優をしてもらうつもりなのよ」
「へぇー!40年後もアトムのアニメがあるんやな!大したもんや!」
「ちなみに昭和41年に清水元さんは同じ手塚先生の『マグマ大使』のドラマにアース様役で出演するのよ。その時、『マグマ大使』の主題歌で『SOS! SOS! カシン! カシン! カシーン!』と歌っていたのは娘のマリさんなのよ。父娘で手塚作品に共演するって素敵よね!ちなみにマリさんが産休の時、アトムの代役をやるのが将来オバQの正ちゃんやおそ松くんのチビ太やピュンピュン丸やクムクムの役をする田上和枝さんなの。でね、田上和枝さんの長女が声優のかないみかさんで…」
エリザが早口で喋る治美の口を押えた。
「シーッ!コマーシャルが終わったで」
ある日、サーカスの倉庫に捨てられていた壊れかけのロボットたちを見つけたアトムは自分のエネルギーをみんなに分けて動けるようにしてあげる。
そんな折、サーカスの公演中に事故が起こりテントが大火事になる。
アトムと壊れかけのロボットたちは火事の中人間たちを救出して回る。
エネルギーの切れかけていたアトムは必死に炎の中、倒れた団長を見つけて救出する。
病院で治療を受けている団長に再度お茶の水博士はアトムを自由にするように頼む。
しかし、団長はロボットが人間を助けるのは当たり前の話だし、アトムは自分の所有物だから決して手放さないという。
お茶の水博士が病室のテレビをつけると、ロボットにも人権が認められたというニュースが流れてきた。
新しく科学省長官となったお茶の水博士の尽力でロボット人権宣言が制定されたのだった。
こうしてアトムは自由の身となり、お茶の水博士に引き取られてゆく。
再び鉄腕アトムの歌が流れ、エンディングとなった。
テレビを見ていた全員が、声をそろえてバンザイを唱えながら両手を上げた。
「おめでとう、治美!とうとうやったな!」
雅人が治美の両手を握りしめて歓喜の声を上げた。
「結構面白かったで!ようやったな、治美!」
涙ぐみながらエリザが治美を抱きしめた。
治美はじっとブラウン管に映るアトムの姿を見ながら呟いた。
「あっと言う間に一本、終わってしまったわ。来週までにまた一本作らなきゃ……」
治美たちだけではなくスタジオに残っていた数名のスタッフも参加して立食式のパーティが催された。
晴れ着に着替えた治美がみんなの前に立つと乾杯の音頭を取った。
「みなさん!明けましておめでとうございます!今日は正月祝いと手塚雅人マネージャーの送別会となにより鉄腕アトム第一話の放映記念パーティーです!今日だけは仕事を忘れて無礼講で騒ぎましょう!」
治美の乾杯の発声とともに全員がコップを持った手を高く掲げた。
そして、午後6時15分になった。
全員が固唾をのんで小さなテレビのブラウン管の前に集まった。
鉄腕アトムの顔がアップになり主題歌が流れてきた。
その場にいた全員からどよめきが起こり、「原作 手塚治虫」の文字が映ると拍手が起きた。
やがてアニメ第一話の本編が始まった。
ハイウェイを疾走する未来の車が映る。
気持ちよさそうに運転するトビオ少年。
と、車はトラックにぶつかり、道に倒れるトビオ。
死んだトビオの周りに人だかりができる。
野次馬をかき分けて父親の天馬博士が現れる。
トビオの遺体を泣きながら抱きしめる天馬博士。
やがて、半狂乱の天馬博士は決意する。
「そうだ、トビオを生き返らせる!ロボットを作るのだ。わしの命をかけた最高の科学芸術品!トビオ!永久に死なないお前を作ってやるぞ!」
そして科学技術庁長官だった天満博士はトビオに似せた少年ロボットを作り、何年も自分の息子として育てた。
しかし、天満博士はいつまでたっても成長しない少年ロボットを憎むようになり、とうとうサーカスの団長に売り飛ばしてしまう。
少年ロボットは「鉄腕アトム」と名付けられ、サーカスで見世物として他のロボットと戦わされる日々を送る。
お茶の水博士がサーカスの団長にアトムがかわいそうだから自由にしてくれと頼むが団長は拒絶する。
治美の隣でテレビを観ていたエリザが小声で尋ねた。
「なあ、アトムってこんなかわいそうな生い立ちやったの。もっと単純で明るいお話やと思っていたわ」
「エリザさん、わたしの漫画読んだことないでしょ?」
エリザは笑いながらうなずいた。
「『鉄腕アトム』のテーマは最初の『アトム大使』の頃から一貫して差別との闘いなのよ。アトムは事あるごとにロボットだからと人間に差別されるけど、それでも人間を守るため悪に立ち向かっていくのよ」
「アトムの声がいいわね。可愛くて、でも凛々しくて、アトムのイメージにピッタリやわ」
「でしょう。アトムの声優は清水マリさんと言って、黒澤映画の常連の俳優、清水元さんの娘さんなの。虫プロにたまたま清水元さんの劇団出身者がいて紹介してもらったのよ。これから40年間、アトムとお茶の水博士役の勝田久さんだけはずっと変わらず声優をしてもらうつもりなのよ」
「へぇー!40年後もアトムのアニメがあるんやな!大したもんや!」
「ちなみに昭和41年に清水元さんは同じ手塚先生の『マグマ大使』のドラマにアース様役で出演するのよ。その時、『マグマ大使』の主題歌で『SOS! SOS! カシン! カシン! カシーン!』と歌っていたのは娘のマリさんなのよ。父娘で手塚作品に共演するって素敵よね!ちなみにマリさんが産休の時、アトムの代役をやるのが将来オバQの正ちゃんやおそ松くんのチビ太やピュンピュン丸やクムクムの役をする田上和枝さんなの。でね、田上和枝さんの長女が声優のかないみかさんで…」
エリザが早口で喋る治美の口を押えた。
「シーッ!コマーシャルが終わったで」
ある日、サーカスの倉庫に捨てられていた壊れかけのロボットたちを見つけたアトムは自分のエネルギーをみんなに分けて動けるようにしてあげる。
そんな折、サーカスの公演中に事故が起こりテントが大火事になる。
アトムと壊れかけのロボットたちは火事の中人間たちを救出して回る。
エネルギーの切れかけていたアトムは必死に炎の中、倒れた団長を見つけて救出する。
病院で治療を受けている団長に再度お茶の水博士はアトムを自由にするように頼む。
しかし、団長はロボットが人間を助けるのは当たり前の話だし、アトムは自分の所有物だから決して手放さないという。
お茶の水博士が病室のテレビをつけると、ロボットにも人権が認められたというニュースが流れてきた。
新しく科学省長官となったお茶の水博士の尽力でロボット人権宣言が制定されたのだった。
こうしてアトムは自由の身となり、お茶の水博士に引き取られてゆく。
再び鉄腕アトムの歌が流れ、エンディングとなった。
テレビを見ていた全員が、声をそろえてバンザイを唱えながら両手を上げた。
「おめでとう、治美!とうとうやったな!」
雅人が治美の両手を握りしめて歓喜の声を上げた。
「結構面白かったで!ようやったな、治美!」
涙ぐみながらエリザが治美を抱きしめた。
治美はじっとブラウン管に映るアトムの姿を見ながら呟いた。
「あっと言う間に一本、終わってしまったわ。来週までにまた一本作らなきゃ……」
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