REMAKE~わたしはマンガの神様~

櫃間 武士

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トキワ荘物語 その2

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 雅人が東京の出版社に原稿を持ち込んでからすぐに、何人もの編集者が治美に会いに神戸にやって来た。

 編集者たちは皆、異人館に住んでいる金髪の美少女を見て、その漫画のイメージとはまったくかけ離れた容貌に驚いた。

 浮世離れした治美の立ち振る舞いにまるで別の世界から来た人間のようだと言う者もいた。

 所詮金持ちの外国人のお嬢様のお遊びに過ぎないと揶揄する者もいた。

 治美は編集者と色々と打ち合わせをしたが、結局持ち込みした原稿は予定通りすべて採用され、手塚治虫は月刊誌に同時に9作品連載を持つことになった。

 
 そして昭和30年4月24日、日曜日。

 明日はいよいよ治美は東京に出発する日となった。

 虫プロ内にエリザ、アシスタントの安村、藤木、赤城、横山、望月、小森、パートの主婦たち、家政婦の田中、そして雅人の両親も呼んで盛大な壮行会が開かれた。

 安村、藤木、赤城の3名はまだ高校生なので卒業するまでそれぞれ神戸で漫画を描くことにした。

 望月玲奈と小森章子は翌朝、治美と一緒に東京行きの汽車に乗る。

 横山だけはもともとエリザの父親に雇われた使用人なので勝手に辞めるわけにはいかない。

 エリザの父親が帰国したら退職を願い出て、ちゃんと許しを得てから上京することになった。 

 客たちのおしゃべりと笑い声とレコードのBGMが混じり合ったざわめきの中、治美はエリザと二人っきりで話をしていた。

「治美、あんたらは明日は朝早いんやろ。パーティーは早めに切り上げるんやで」

「締め切りがあるので今夜も漫画描かないと間に合わないの」

「まだ仕事するんか。大変やな」

「この部屋で仕事するのも今夜が最後だしね」

「あんたが出て言ったらこのバラックはつぶして元の庭にもどすから。もうすぐパパとママが帰ってくるからな。あんたら未来人がいた痕跡はきれいさっぱり消しとかんとな」

「エリザさんのパパとママに会いたかったな。何といってもわたしのご先祖様だからね」

「そう言えばなんであんたは雅人と一緒に上京せんかったんや?なんでわざわざ今日、パーティーにしたんや?」

「えっ!?気づいていないの、エリザさん?ちょうど一年前の昭和29年4月24日にわたしはこの世界にきたのよ。だから今日はタイムスリップ記念日なのよ」

「そうか、あんたが転がり込んでもう一年もたったんか?大変やったわ…」

「そ、それほどでもないでしょ」

「東京行っても雅人がおるから助けてもらうんやで。しっかりとがんばりや!」

「うん!」

 治美はコクッと首を縦に振った。

「エリザさんには本当にお世話になりました。ウルウル…」 

 治美は指で涙を拭うふりをした。

「なんや?ウルウルってのは?」

「涙が出てくる時の擬音よ。ウルウル…」

「あほらし!」

 エリザはこの一年でしっかりと学習したスルー能力を発揮して話を続けた。

「夏になったらうちも東京に遊びにいくから案内してや。銀座や。銀座で買い物するからな。もちろん、あんたが支払いするんやからしっかり稼ぐんやで」

「孫娘にどれだけたかる気よ!」

 エリザは急に治美の顔を両手で挟んで真顔で言った。

「ほんま、将来あんたがうちらの孫娘として生まれてこれたらええんやけどな」

「――うん!」

「頑張って日本中に漫画とアニメを流行らせるんやで!」

「はい!」 

 治美も真剣な表情で頷いた。
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