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マァチャンの日記帳 その2
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「あっ!そうそう!毎日小学生新聞といえば……」
治美がまたコミックグラスを操作して何かを調べだした。
「――わたしのいた世界では、1951年12月16日に、『あびこもとお』と『ふじもとひろし』って二人の高校生が『毎日小学生新聞』で漫画家デビューするんですよ。聞いたことありません?」
「いやあ……、知らないなあ」
「そうですか………。この二人は手塚先生の大ファンで、手塚先生がデビューした『毎日小学生新聞』に勝手に原稿を送りつけたら載せてもらったんです。やっぱり手塚先生がいないからこの二人も漫画家にならなかったのね」
「その二人は有名な漫画家になるのかい?」
「もちろん!世界中に大ヒットした作品を何作も描いてます」
「日本人の描いた漫画が世界中でヒットするのか!?想像もつかない!日本が漫画大国になるというのは本当なんだな。その二人はこの世界では今頃は何をしているんだろう?」
「漫画家になっていないのなら、多分故郷の富山の新聞社で似顔絵描いたり、工場でキャラメル作ってるんじゃないでしょうかね」
「その二人はもう大人になっているから、これから治美の漫画が毎日小学生新聞に掲載されても読むわけないしなあ」
「となるとこの世界では手塚先生だけではなく藤子不二雄も誕生しないのかあ。日本がマンガ大国になるっては相当難しいですよ。急に不安になってきました……」
治美が目を伏せ落ち込んだ表情をした。
「―――俺は英語の勉強も兼ねてよく海外の空想科学小説を読むんだ」
「はあ……。自慢ですか?頭いいんですねぇ、雅人さん」
治美は意気消沈してすっかり不貞腐れていた。
「時間旅行をする話をいくつか読んだが、歴史は自己修復するって書いてあったぞ」
「自己修復……?」
「そうだ!たとえ、その二人の高校生が漫画家にならなくても、治美の漫画を読んだ別の誰かが漫画家になるんだ。そして、世界的にヒットする作品が誕生するんだ」
「だったらわたしだって何もしなくてもいいんじゃないの?このまま放っておいても将来、日本は漫画大国になるでしょ」
「しかし、それだと時間が掛かりすぎてしまう。治美の両親が出会う1991年8月までに日本がマンガ大国になっていないと治美が生まれてこないことになるぞ」
「そっか!やっぱりわたしが自分でマンガ家になって、どんどんマンガをヒットさせないとダメなんですね……」
治美は落胆のため息をついた。
「そもそも毎日小学生新聞はわたしが模写した4コママンガなんか採用してくれるのかしら?いくら手塚先生の作品でも9年も前のマンガですよ!」
「いけると思うよ。『マァチャンの日記帳』は面白いし、今は漫画描く人間なんてほとんどいないからな」
「でもですねぇ…」
治美がまたコミックグラスを操作して年表を調べだした。
「面白い4コママンガ描ける人なら他にもいっぱいいますよ。今が1954年ってことは、朝日新聞で長谷川町子の『サザエさん』、読売新聞で西川辰美の『おトラさん』、毎日新聞で横山隆一の『フクちゃん』とか連載してるでしょ。でもサザエさんてもうこの頃から連載していたのね。さすが国民的マンガだわ」
治美の言葉を聞いて雅人は顔が青ざめ血の気が引いていった。
「どうかしました?」
「いや!何でもない……………」
「ちょっとごまかさないで下さい!正直に話して!」
「しかし…………」
「お願いします!」
「――サザエさんなんて漫画、聞いたこともない!」
「えっ?」
「長谷川町子も西川辰美も横山隆一も聞いたことがない!そんな漫画家、この世界には存在しないんだ!そもそも大人向けの普通の新聞に4コマ漫画なんか載ってはいないんだ!」
「で、でも、この人たちは手塚先生が現れる前からマンガを描いてるはずですよ!雅人さんがマンガ読まないから知らないだけですよ!」
「俺だって『のらくろ』、『タンクタンクロー』、『冒険ダン吉』なんて子供向けの漫画なら読んでたぞ。でも、最近は絵物語が主流で漫画はほとんど見ないなあ」
「そうだ!前に『ふしぎな国のプッチャー』ってSFを読んだって言ってましたね?鉄腕アトムに影響を与えたという。この作者は今、何を描いています?」
「作者の横井福次郎はだいぶ前に肺結核で亡くなってるよ。第一あれは漫画というより絵物語だ」
「ええっ!?」
「―――もしかしたら名のある漫画家は、手塚治虫と同じように戦争中に亡くなってるんじゃないのか」
「そんなバカな……!?」
「こと漫画に関しては、この世界と治美の世界とでは想像以上に歴史が違っているようだな。まるで何者かが意図的に歴史に手を加えたような………」
雅人と治美は二人して暗い顔でいろいろと考えを巡らせていた。
(漫画を描く人間が意図的に消されている…………。ということは、これから漫画を描こうとしている治美にも危険が迫る可能性が…………)
雅人は自分の考えに恐怖した。
「――ということは…………」
ようやく治美が口を開いた。
「この世界では日曜の夕方に『サザエさん』とジャンケンできないということですね。わたし、あれ楽しみにしていたのに!」
「――やっぱり未来人の考えにはついてゆけん!」
こうして第一回「手塚治美を手塚治虫にして、日本を漫画と漫画映画の世界一の大国にする計画」のための会議は 混沌のうちに終了した。
ともかく治美は三日後の祝日、天皇誕生日までにできるだけ『マァチャンの日記帳』を描くことになった。
治美がまたコミックグラスを操作して何かを調べだした。
「――わたしのいた世界では、1951年12月16日に、『あびこもとお』と『ふじもとひろし』って二人の高校生が『毎日小学生新聞』で漫画家デビューするんですよ。聞いたことありません?」
「いやあ……、知らないなあ」
「そうですか………。この二人は手塚先生の大ファンで、手塚先生がデビューした『毎日小学生新聞』に勝手に原稿を送りつけたら載せてもらったんです。やっぱり手塚先生がいないからこの二人も漫画家にならなかったのね」
「その二人は有名な漫画家になるのかい?」
「もちろん!世界中に大ヒットした作品を何作も描いてます」
「日本人の描いた漫画が世界中でヒットするのか!?想像もつかない!日本が漫画大国になるというのは本当なんだな。その二人はこの世界では今頃は何をしているんだろう?」
「漫画家になっていないのなら、多分故郷の富山の新聞社で似顔絵描いたり、工場でキャラメル作ってるんじゃないでしょうかね」
「その二人はもう大人になっているから、これから治美の漫画が毎日小学生新聞に掲載されても読むわけないしなあ」
「となるとこの世界では手塚先生だけではなく藤子不二雄も誕生しないのかあ。日本がマンガ大国になるっては相当難しいですよ。急に不安になってきました……」
治美が目を伏せ落ち込んだ表情をした。
「―――俺は英語の勉強も兼ねてよく海外の空想科学小説を読むんだ」
「はあ……。自慢ですか?頭いいんですねぇ、雅人さん」
治美は意気消沈してすっかり不貞腐れていた。
「時間旅行をする話をいくつか読んだが、歴史は自己修復するって書いてあったぞ」
「自己修復……?」
「そうだ!たとえ、その二人の高校生が漫画家にならなくても、治美の漫画を読んだ別の誰かが漫画家になるんだ。そして、世界的にヒットする作品が誕生するんだ」
「だったらわたしだって何もしなくてもいいんじゃないの?このまま放っておいても将来、日本は漫画大国になるでしょ」
「しかし、それだと時間が掛かりすぎてしまう。治美の両親が出会う1991年8月までに日本がマンガ大国になっていないと治美が生まれてこないことになるぞ」
「そっか!やっぱりわたしが自分でマンガ家になって、どんどんマンガをヒットさせないとダメなんですね……」
治美は落胆のため息をついた。
「そもそも毎日小学生新聞はわたしが模写した4コママンガなんか採用してくれるのかしら?いくら手塚先生の作品でも9年も前のマンガですよ!」
「いけると思うよ。『マァチャンの日記帳』は面白いし、今は漫画描く人間なんてほとんどいないからな」
「でもですねぇ…」
治美がまたコミックグラスを操作して年表を調べだした。
「面白い4コママンガ描ける人なら他にもいっぱいいますよ。今が1954年ってことは、朝日新聞で長谷川町子の『サザエさん』、読売新聞で西川辰美の『おトラさん』、毎日新聞で横山隆一の『フクちゃん』とか連載してるでしょ。でもサザエさんてもうこの頃から連載していたのね。さすが国民的マンガだわ」
治美の言葉を聞いて雅人は顔が青ざめ血の気が引いていった。
「どうかしました?」
「いや!何でもない……………」
「ちょっとごまかさないで下さい!正直に話して!」
「しかし…………」
「お願いします!」
「――サザエさんなんて漫画、聞いたこともない!」
「えっ?」
「長谷川町子も西川辰美も横山隆一も聞いたことがない!そんな漫画家、この世界には存在しないんだ!そもそも大人向けの普通の新聞に4コマ漫画なんか載ってはいないんだ!」
「で、でも、この人たちは手塚先生が現れる前からマンガを描いてるはずですよ!雅人さんがマンガ読まないから知らないだけですよ!」
「俺だって『のらくろ』、『タンクタンクロー』、『冒険ダン吉』なんて子供向けの漫画なら読んでたぞ。でも、最近は絵物語が主流で漫画はほとんど見ないなあ」
「そうだ!前に『ふしぎな国のプッチャー』ってSFを読んだって言ってましたね?鉄腕アトムに影響を与えたという。この作者は今、何を描いています?」
「作者の横井福次郎はだいぶ前に肺結核で亡くなってるよ。第一あれは漫画というより絵物語だ」
「ええっ!?」
「―――もしかしたら名のある漫画家は、手塚治虫と同じように戦争中に亡くなってるんじゃないのか」
「そんなバカな……!?」
「こと漫画に関しては、この世界と治美の世界とでは想像以上に歴史が違っているようだな。まるで何者かが意図的に歴史に手を加えたような………」
雅人と治美は二人して暗い顔でいろいろと考えを巡らせていた。
(漫画を描く人間が意図的に消されている…………。ということは、これから漫画を描こうとしている治美にも危険が迫る可能性が…………)
雅人は自分の考えに恐怖した。
「――ということは…………」
ようやく治美が口を開いた。
「この世界では日曜の夕方に『サザエさん』とジャンケンできないということですね。わたし、あれ楽しみにしていたのに!」
「――やっぱり未来人の考えにはついてゆけん!」
こうして第一回「手塚治美を手塚治虫にして、日本を漫画と漫画映画の世界一の大国にする計画」のための会議は 混沌のうちに終了した。
ともかく治美は三日後の祝日、天皇誕生日までにできるだけ『マァチャンの日記帳』を描くことになった。
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