人形となった王妃に、王の後悔と懺悔は届かない

望月 或

文字の大きさ
39 / 44

38.小話:役得の実験台 1

しおりを挟む



※※※※※



このお話は、ゼベクとエウロペアの仲睦まじさ(イチャイチャ)が許せる方のみ、お読み下さいませ。
ゼベク卿、積極的です。

こちらもお付き合いして頂ける方は、どうぞ、ごゆるりと……。



※※※※※





「二人共、聞いてくれる?」


 王の部屋にて。
 執務椅子に座って事務作業をしていたリオーシュと、その補佐をしていたゼベクは、ノックをして入ってきたエウロペアの話を聴く為に手を止めた。


「どうした、ロア?」
「えっとね、貴方達のお蔭で、この国も安定して豊かになってきたと思うの」
「それはエウロペア様のお蔭でもありますよ」
「ありがとう、ゼベク。でね、もっとこの国を発展させもっと豊かにする為には、この国には無い知識や技術を持っている他国の協力と友好関係が必要だと思うの」
「あぁ、確かにそうだな」
「そうですね」


 リオーシュとゼベクが同時に頷く。


「他国との友好関係を築くには、まずはお会いしてからの“挨拶”が大事なんだけど、色んな国を調べてみたら……危ういの!」
「“危うい”?」
「何がですか?」


 リオーシュとゼベクが同時に首を傾げる。


「他国の“挨拶”の仕方が、この国の神様の『呪い』に引っ掛かるかもしれないの!」
「えっ?」
「はっ?」


 リオーシュとゼベクが同時に声を上げる。


「他国の王様や王妃様と“挨拶”をして、その数時間後に“人形”になっちゃったら、向こうが驚いて大騒ぎになって友好を築く所じゃ無くなるでしょ? それを阻止する為には、何処までが大丈夫なのかを確かめる必要があると思うの」
「……あぁ、確かにそうだな……。それは重要な事だな」
「仰る通りです」


 リオーシュとゼベクが真剣な顔つきで神妙に頷く。


「そうでしょう? 問題は私とリオーシュのどちらがやるか、試す相手は誰にするのかだけど――」
「あ、俺やりますよ。お相手はエウロペア様で」


 あっさりとゼベクが名乗りを上げた。


「は?」
「え、ゼベクが?」
「エウロペア様は一度“人形”になる過程を経験しています。五感を次々と失い、感情と思考を失っていく恐怖はこの上無いものだったと思います。それが何も知らない状況だったのなら尚更です。陛下はエウロペア様に、そんな恐怖をもう二度と味わって欲しくは無いでしょう?」
「あ、あぁ……そうだな。それは絶対にだな」
「今回は状況も分かっているし、試した後に“覚悟”を決める時間もありますから、陛下なら問題無いでしょう。それに、何処の馬の骨か知れない者より、俺の方がエウロペア様もやりやすいでしょ? 陛下も安心だと思いますし」
「……え、えぇ……。まぁ……確かにそうね」
「………」
「決まりですね。では早速試しましょうか。まずはどんな“挨拶”です?」


 ゼベクがいつになく上機嫌で乗り気の中、リオーシュは何とも言えない複雑な顔をしている。


「えっと……じゃあ、まずは握手からやってみましょうか。これは流石に大丈夫だとは思うけど、念の為ね。私からしなきゃ実験にならないから、私の方から握手するわね」
「畏まりました」


 エウロペアは微笑んで手を差し出すゼベクに近付くと、手を伸ばして彼の大きな手を握った。
 見守っているリオーシュの顔が微かに顰められる。


「……どの位の時間握っていればいいのかしら?」
「暫く待ちましょうか」
「えぇ、そうね。……ゼベク、何で指絡めてくるの?」
「他国ではどんな握手の仕方があるか分からないので、これも試してみようかと」
「あぁ……成る程、そうよね。じゃあ私から……」


 エウロペアが、改めてゼベクの指に自分の指を絡める。
 ゼベクの漆黒の瞳が細まり、見守っているリオーシュの顔が大きく顰められた。


(リーエちゃんの時から感じていたけど、ゼベクの手っていつも温かいのよね。私は冷え性だし、寒い時は手が冷たくなっちゃうから気持ちがいいわ。寒い時期にずっと握っていて欲しい位――)


 そこまで考えて、エウロペアはハッとなってゼベクを見上げた。


(も、もしかして、また読まれた……?)


 彼は真面目な表情でエウロペアをジッと見つめていた。そしてフッと妖美に微笑むと、頭を下げてエウロペアの耳元に唇を寄せる。


「俺も貴女の手、冷たくて気持ち良いです。御希望でしたら、いつでも握って温めて差し上げますよ? お仕事中でも、――ベッドの上でも」
「………っ」


 無駄に良い響きの低音でそう囁かれ、エウロペアの顔が思わず赤くなった。


(ま、またからかうんだから……っ! それに、何よベッドの上って! 血行改善マッサージでもしてくれるって言うの? そんなの大歓迎よ! ついでにリオも一緒にやって欲しいわっ。あの人、若いのに肩凝ってるのよ! それはもうバッキバキよ! 身体はすっかりおじいちゃんなのよ!?)


「くはっ!」
「ゼベク、顔が近いぞ! もう実験は終わりだっ!」

 
 不機嫌な表情のリオーシュが、エウロペアの細腰に手を回し、自分の方へ抱き寄せた。


「“只の挨拶”なのに、それで嫉妬していたらキリが無いですよ、陛下。もっと広い心を持たないと。ね?」
「ぐっ……! そ、そうだな……。見苦しいよな……。気を付けよう……」


 笑いを堪えながら肩を竦めたゼベクに、リオーシュは言葉を詰まらせ、何とも複雑な顔つきで頷いた。


「さて、実験の結果はいつ頃表れ始めるんでしょうかね?」
「あの時は……リオーシュとカトレーダが部屋に入ってから、六時間以内には変化が表れたわ」
「…………」


 エウロペアの言葉に、シュンとリオーシュが項垂れる。


「もう、リオーシュ。また落ち込まないの。とっくの昔に終わった事なんだから」
「……う……。す、済まない……」
「では六時間程待ちましょうか。何も変わらなければ次の実験に移りましょう」
「えぇ、そうね」
「あぁ……。それまで“人形”になるかもしれない不安や恐怖と戦わなくてはいけないのか……」
「頑張って下さい、陛下。エウロペア様はもっと辛かったんですから」
「うっ……。そうだな、その通りだ……」
「それに、仕事をしていれば時間なんてあっという間ですし、不安や恐怖もすっかり忘れてしまってますよ。何せ仕事は山のようにありますからね」
「ぐぅ……」


 嘆くリオーシュに、ゼベクは労りの言葉を掛けた――と思ったら、更に恐怖を増す台詞を言った。


「もし陛下が“人形”になってしまったら、俺が『七色の月光花』を摘みに行きますよ。あんな崖くらい、登るのは簡単です。降りるのも勿論」
「それはとても有難いけれど、花に“惑わす力”ってものがあるんでしょう? それは大丈夫?」
「あぁ、一度経験したので全く問題無しです。寧ろどんと来いですよ。次はこちらから襲います。『幻』なら気兼ね無く出来ますし、遠慮無くいかせて頂きます。相手が再起不能になるまで……ね」
「お、襲う? 再起不能? 何だか物騒だけど頼もしいわね……」


 エウロペアの戸惑いの言葉に、ゼベクはスッと目を細め、フッと意味深に笑ったのだった。 




しおりを挟む
感想 291

あなたにおすすめの小説

白い結婚を終えて自由に生きてまいります

なか
恋愛
––アロルド、私は貴方が結婚初日に告げた言葉を今でも覚えている。  忘れもしない、あの時貴方は確かにこう言った。  「初めに言っておく、俺達の婚姻関係は白い結婚として……この関係は三年間のみとする」 「白い結婚ですか?」 「実は俺には……他に愛する女性がいる」   それは「公爵家の令嬢との問題」を理由に、三年間だけの白い結婚を強いるもの。 私の意思を無視して三家が取り決めたものであったが、私は冷静に合意を決めた ――それは自由を得るため、そして『私自身の秘密を隠すため』の計算でもあった。 ところが、三年の終わりが近づいたとき、アロルドは突然告白する。「この三年間で君しか見えなくなった。白い結婚の約束をなかったことにしてくれ」と。 「セシーリア、頼む……どうか、どうか白い結婚の合意を無かった事にしてくれ」 アロルド、貴方は何を言い出すの? なにを言っているか、分かっているの? 「俺には君しかいないと、この三年間で分かったんだ」 私の答えは決まっていた。 受け入れられるはずがない。  自由のため、私の秘密を守るため、貴方の戯言に付き合う気はなかった。    ◇◇◇ 設定はゆるめです。 とても強い主人公が自由に暮らすお話となります。 もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!

もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません~死に戻った嫌われ令嬢は幸せになりたい~

桜百合
恋愛
旧題:もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません〜死に戻りの人生は別の誰かと〜 ★第18回恋愛小説大賞で大賞を受賞しました。応援・投票してくださり、本当にありがとうございました! 10/24にレジーナブックス様より書籍が発売されました。 現在コミカライズも進行中です。 「もしも人生をやり直せるのなら……もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません」 コルドー公爵夫妻であるフローラとエドガーは、大恋愛の末に結ばれた相思相愛の二人であった。 しかしナターシャという子爵令嬢が現れた途端にエドガーは彼女を愛人として迎え、フローラの方には見向きもしなくなってしまう。 愛を失った人生を悲観したフローラは、ナターシャに毒を飲ませようとするが、逆に自分が毒を盛られて命を落とすことに。 だが死んだはずのフローラが目を覚ますとそこは実家の侯爵家。 どうやらエドガーと知り合う前に死に戻ったらしい。 もう二度とあのような辛い思いはしたくないフローラは、一度目の人生の失敗を生かしてエドガーとの結婚を避けようとする。 ※完結したので感想欄を開けてます(お返事はゆっくりになるかもです…!) 独自の世界観ですので、設定など大目に見ていただけると助かります。 ※誤字脱字報告もありがとうございます! こちらでまとめてのお礼とさせていただきます。

白い結婚の行方

宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」 そう告げられたのは、まだ十二歳だった。 名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。 愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。 この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。 冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。 誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。 結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。 これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。 偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。 交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。 真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。 ──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?  

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

【完結】側妃は愛されるのをやめました

なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」  私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。  なのに……彼は。 「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」  私のため。  そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。    このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?  否。  そのような恥を晒す気は無い。 「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」  側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。  今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。 「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」  これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。  華々しく、私の人生を謳歌しよう。  全ては、廃妃となるために。    ◇◇◇  設定はゆるめです。  読んでくださると嬉しいです!

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

【完結】私が貴方の元を去ったわけ

なか
恋愛
「貴方を……愛しておりました」  国の英雄であるレイクス。  彼の妻––リディアは、そんな言葉を残して去っていく。  離婚届けと、別れを告げる書置きを残された中。  妻であった彼女が突然去っていった理由を……   レイクスは、大きな後悔と、恥ずべき自らの行為を知っていく事となる。      ◇◇◇  プロローグ、エピローグを入れて全13話  完結まで執筆済みです。    久しぶりのショートショート。  懺悔をテーマに書いた作品です。  もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!

処理中です...