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38.小話:役得の実験台 1
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このお話は、ゼベクとエウロペアの仲睦まじさ(イチャイチャ)が許せる方のみ、お読み下さいませ。
ゼベク卿、積極的です。
こちらもお付き合いして頂ける方は、どうぞ、ごゆるりと……。
※※※※※
「二人共、聞いてくれる?」
王の部屋にて。
執務椅子に座って事務作業をしていたリオーシュと、その補佐をしていたゼベクは、ノックをして入ってきたエウロペアの話を聴く為に手を止めた。
「どうした、ロア?」
「えっとね、貴方達のお蔭で、この国も安定して豊かになってきたと思うの」
「それはエウロペア様のお蔭でもありますよ」
「ありがとう、ゼベク。でね、もっとこの国を発展させもっと豊かにする為には、この国には無い知識や技術を持っている他国の協力と友好関係が必要だと思うの」
「あぁ、確かにそうだな」
「そうですね」
リオーシュとゼベクが同時に頷く。
「他国との友好関係を築くには、まずはお会いしてからの“挨拶”が大事なんだけど、色んな国を調べてみたら……危ういの!」
「“危うい”?」
「何がですか?」
リオーシュとゼベクが同時に首を傾げる。
「他国の“挨拶”の仕方が、この国の神様の『呪い』に引っ掛かるかもしれないの!」
「えっ?」
「はっ?」
リオーシュとゼベクが同時に声を上げる。
「他国の王様や王妃様と“挨拶”をして、その数時間後に“人形”になっちゃったら、向こうが驚いて大騒ぎになって友好を築く所じゃ無くなるでしょ? それを阻止する為には、何処までが大丈夫なのかを確かめる必要があると思うの」
「……あぁ、確かにそうだな……。それは重要な事だな」
「仰る通りです」
リオーシュとゼベクが真剣な顔つきで神妙に頷く。
「そうでしょう? 問題は私とリオーシュのどちらがやるか、試す相手は誰にするのかだけど――」
「あ、俺やりますよ。お相手はエウロペア様で」
あっさりとゼベクが名乗りを上げた。
「は?」
「え、ゼベクが?」
「エウロペア様は一度“人形”になる過程を経験しています。五感を次々と失い、感情と思考を失っていく恐怖はこの上無いものだったと思います。それが何も知らない状況だったのなら尚更です。陛下はエウロペア様に、そんな恐怖をもう二度と味わって欲しくは無いでしょう?」
「あ、あぁ……そうだな。それは絶対にだな」
「今回は状況も分かっているし、試した後に“覚悟”を決める時間もありますから、陛下なら問題無いでしょう。それに、何処の馬の骨か知れない者より、俺の方がエウロペア様もやりやすいでしょ? 陛下も安心だと思いますし」
「……え、えぇ……。まぁ……確かにそうね」
「………」
「決まりですね。では早速試しましょうか。まずはどんな“挨拶”です?」
ゼベクがいつになく上機嫌で乗り気の中、リオーシュは何とも言えない複雑な顔をしている。
「えっと……じゃあ、まずは握手からやってみましょうか。これは流石に大丈夫だとは思うけど、念の為ね。私からしなきゃ実験にならないから、私の方から握手するわね」
「畏まりました」
エウロペアは微笑んで手を差し出すゼベクに近付くと、手を伸ばして彼の大きな手を握った。
見守っているリオーシュの顔が微かに顰められる。
「……どの位の時間握っていればいいのかしら?」
「暫く待ちましょうか」
「えぇ、そうね。……ゼベク、何で指絡めてくるの?」
「他国ではどんな握手の仕方があるか分からないので、これも試してみようかと」
「あぁ……成る程、そうよね。じゃあ私から……」
エウロペアが、改めてゼベクの指に自分の指を絡める。
ゼベクの漆黒の瞳が細まり、見守っているリオーシュの顔が大きく顰められた。
(リーエちゃんの時から感じていたけど、ゼベクの手っていつも温かいのよね。私は冷え性だし、寒い時は手が冷たくなっちゃうから気持ちがいいわ。寒い時期にずっと握っていて欲しい位――)
そこまで考えて、エウロペアはハッとなってゼベクを見上げた。
(も、もしかして、また読まれた……?)
彼は真面目な表情でエウロペアをジッと見つめていた。そしてフッと妖美に微笑むと、頭を下げてエウロペアの耳元に唇を寄せる。
「俺も貴女の手、冷たくて気持ち良いです。御希望でしたら、いつでも握って温めて差し上げますよ? お仕事中でも、――ベッドの上でも」
「………っ」
無駄に良い響きの低音でそう囁かれ、エウロペアの顔が思わず赤くなった。
(ま、またからかうんだから……っ! それに、何よベッドの上って! 血行改善マッサージでもしてくれるって言うの? そんなの大歓迎よ! ついでにリオも一緒にやって欲しいわっ。あの人、若いのに肩凝ってるのよ! それはもうバッキバキよ! 身体はすっかりおじいちゃんなのよ!?)
「くはっ!」
「ゼベク、顔が近いぞ! もう実験は終わりだっ!」
不機嫌な表情のリオーシュが、エウロペアの細腰に手を回し、自分の方へ抱き寄せた。
「“只の挨拶”なのに、それで嫉妬していたらキリが無いですよ、陛下。もっと広い心を持たないと。ね?」
「ぐっ……! そ、そうだな……。見苦しいよな……。気を付けよう……」
笑いを堪えながら肩を竦めたゼベクに、リオーシュは言葉を詰まらせ、何とも複雑な顔つきで頷いた。
「さて、実験の結果はいつ頃表れ始めるんでしょうかね?」
「あの時は……リオーシュとカトレーダが部屋に入ってから、六時間以内には変化が表れたわ」
「…………」
エウロペアの言葉に、シュンとリオーシュが項垂れる。
「もう、リオーシュ。また落ち込まないの。とっくの昔に終わった事なんだから」
「……う……。す、済まない……」
「では六時間程待ちましょうか。何も変わらなければ次の実験に移りましょう」
「えぇ、そうね」
「あぁ……。それまで“人形”になるかもしれない不安や恐怖と戦わなくてはいけないのか……」
「頑張って下さい、陛下。エウロペア様はもっと辛かったんですから」
「うっ……。そうだな、その通りだ……」
「それに、仕事をしていれば時間なんてあっという間ですし、不安や恐怖もすっかり忘れてしまってますよ。何せ仕事は山のようにありますからね」
「ぐぅ……」
嘆くリオーシュに、ゼベクは労りの言葉を掛けた――と思ったら、更に恐怖を増す台詞を言った。
「もし陛下が“人形”になってしまったら、俺が『七色の月光花』を摘みに行きますよ。あんな崖くらい、登るのは簡単です。降りるのも勿論」
「それはとても有難いけれど、花に“惑わす力”ってものがあるんでしょう? それは大丈夫?」
「あぁ、一度経験したので全く問題無しです。寧ろどんと来いですよ。次はこちらから襲います。『幻』なら気兼ね無く出来ますし、遠慮無くいかせて頂きます。相手が再起不能になるまで……ね」
「お、襲う? 再起不能? 何だか物騒だけど頼もしいわね……」
エウロペアの戸惑いの言葉に、ゼベクはスッと目を細め、フッと意味深に笑ったのだった。
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