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小さな花壇の大きな問題 (4)
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城に帰ると、ランドルフは疲れ切った様子の一家を、客人用の棟へと案内させた。何度も頭を下げながら立ち去る彼らを見送って、彼はルーチェに笑顔を向けた。
「さて、夕食にしようか。今日は、食堂にいかないですむように頼んであるから」
本来なら、晩餐は国王夫妻とともに大食堂でとることになっているのだが、時々はこうして二人きりでとることもある。
おそらく、いろいろと話したいことがあるために、二人での夕食を事前に準備していたのだろう。あいかわらず、彼の手回しのよさには驚かされてしまう。
「それで――子爵家の人達を誘拐していた犯人は誰だったの?」
二人きりの夕食の席、差し向かいになるなりルーチェはたずねた。
給仕役を務めてくれるのは、心得顔の侍女頭だ。他の使用人達はすべて部屋に下がるようにと指示されている。
「難しい話ではなかったよね。ルーチェが、庭園に植える植物を今までとは違うところから買おうとしてたってところさえわかれば」
「そうなの?」
ルーチェの言葉に、ランドルフはにこりとする。そうやって、自分だけわかっているような顔をされるのは悔しいけれど、彼にかなうはずもないので諦めた。
「まさか、ルーチェの花壇へのハーブの納品をめぐってのことだなんて思わなかったから。最初は、子爵家の人間関係ばかりに頭が行ってたんだよね」
そう言って、彼は苦笑いした。
「行儀見習いでルーチェの侍女にあがるのだって、けっこう競争率が高いし。花の女王になったルーチェのところなら御利益にあやかれるかもって、いつも以上に競争率が高くなってたって知ってた?」
知らなかったから、ルーチェは首を横にふる。
「それが、庭に納めるハーブ絡みだっていうんだから、盲点だよね――本当、今回は失敗してしまったよね。そこは反省しておかないと」
きっと、ランドルフにとっては王宮に自分の生産物を納入するのがどれだけ名誉なことなのか――忘れがちなのだ。それは、彼が生まれながらの王族である以上、どうしても埋められないところなのかもしれない。
仕入先を変えようと思っていた時には、それを気にかけていたはずなのに、ルーチェもそれを忘れてしまっていた。
だが、ルーチェは目を伏せた。ルーチェが、仕入先を変えようなんて思わなかったら、生じなかったであろう争いを起こしてしまったことを申し訳なく思う。
「ごめんなさい、私がネメディス子爵領から取り寄せようなんて言わなかったらよかったのに」
「ルーチェは悪くない。誰だって、いつまでも御用達でいられるなんて思ってちゃいけないんだ。よりよい品があったら、僕らはそれを使いたいと思うし、気に入ったら広めたいと思うのも当然のことだよね?」
王族が気に入った品は、王族が勧めることによって周囲の貴族達にも広まっていく。そうなると必然的に商売は繁盛し、貧しい商人が一財産を築くことになるというのもよくある話だ。
「ラベンダーの王宮への納品とネメディス子爵家からの出仕、両方が重なったのが人の妬みを買ってしまったんだよね。最初は、令嬢の出仕を取りやめさせるつもりだったらしいよ」
犯人は、今までラベンダーを取り寄せていたところではなく、別のハーブの取引先だった。ラベンダーだけではなく、ルーチェが今までの取引先をどんどん切り捨てるつもりだと思われたらしい。
ルーチェのもとに娘を出仕させたいと思っていた貴族達の中には、自分達の領地から王宮にハーブを納めている者もいた。
最初は出仕を諦めさせるだけのつもりだったのだが、この際だからと庭園の管理を王妃に戻させることを思いついた。
その結果、ルーチェのところにまで脅すような手紙が届いたというわけである。あまりにもずさんな計画と言えば、ずさんな計画だった。
「ずさんな計画だったけど――間に合ってよかったよ。ルーチェが早く母上に話をしてくれたからね」
「それなら、よかった」
話が終わる頃には、食事は下げられて温かなお茶が運ばれてきた。
「それで、ルーチェはどうしたい?」
「どうって?」
「庭のことも、令嬢の出仕の件も」
「……私は」
ルーチェの答えなんて決まっている。やるべきことはきちんとやりたいのだ。
「もう一度……できるかしら」
「大丈夫、ちゃんと母上には話をしてあるから。あれがルーチェの本意ではなかたこともね」
(……この人は全部わかっているのね)
ランドルフにすべて任せておけば安心だ。
「令嬢の方も、ルーチェに仕えたいって意思は変わらないみたいだから、きっと出仕してきてくれると思うよ」
いつの間に、彼女の意思まで確認していたのだろう。彼の手回しのよさに、ルーチェは感心することしかできなかった。
「花壇が完成したら、僕にも見せてくれるよね?」
「もちろん。ランドルフ様に最初に見せてあげる」
きっと、これから先まだ似たようなことはいくらでも起きるだろう。だが、彼と一緒なら、何でも乗り越えていける、きっと。
約束ね――と小指を差し出しながら、ルーチェは微笑んだ。
「さて、夕食にしようか。今日は、食堂にいかないですむように頼んであるから」
本来なら、晩餐は国王夫妻とともに大食堂でとることになっているのだが、時々はこうして二人きりでとることもある。
おそらく、いろいろと話したいことがあるために、二人での夕食を事前に準備していたのだろう。あいかわらず、彼の手回しのよさには驚かされてしまう。
「それで――子爵家の人達を誘拐していた犯人は誰だったの?」
二人きりの夕食の席、差し向かいになるなりルーチェはたずねた。
給仕役を務めてくれるのは、心得顔の侍女頭だ。他の使用人達はすべて部屋に下がるようにと指示されている。
「難しい話ではなかったよね。ルーチェが、庭園に植える植物を今までとは違うところから買おうとしてたってところさえわかれば」
「そうなの?」
ルーチェの言葉に、ランドルフはにこりとする。そうやって、自分だけわかっているような顔をされるのは悔しいけれど、彼にかなうはずもないので諦めた。
「まさか、ルーチェの花壇へのハーブの納品をめぐってのことだなんて思わなかったから。最初は、子爵家の人間関係ばかりに頭が行ってたんだよね」
そう言って、彼は苦笑いした。
「行儀見習いでルーチェの侍女にあがるのだって、けっこう競争率が高いし。花の女王になったルーチェのところなら御利益にあやかれるかもって、いつも以上に競争率が高くなってたって知ってた?」
知らなかったから、ルーチェは首を横にふる。
「それが、庭に納めるハーブ絡みだっていうんだから、盲点だよね――本当、今回は失敗してしまったよね。そこは反省しておかないと」
きっと、ランドルフにとっては王宮に自分の生産物を納入するのがどれだけ名誉なことなのか――忘れがちなのだ。それは、彼が生まれながらの王族である以上、どうしても埋められないところなのかもしれない。
仕入先を変えようと思っていた時には、それを気にかけていたはずなのに、ルーチェもそれを忘れてしまっていた。
だが、ルーチェは目を伏せた。ルーチェが、仕入先を変えようなんて思わなかったら、生じなかったであろう争いを起こしてしまったことを申し訳なく思う。
「ごめんなさい、私がネメディス子爵領から取り寄せようなんて言わなかったらよかったのに」
「ルーチェは悪くない。誰だって、いつまでも御用達でいられるなんて思ってちゃいけないんだ。よりよい品があったら、僕らはそれを使いたいと思うし、気に入ったら広めたいと思うのも当然のことだよね?」
王族が気に入った品は、王族が勧めることによって周囲の貴族達にも広まっていく。そうなると必然的に商売は繁盛し、貧しい商人が一財産を築くことになるというのもよくある話だ。
「ラベンダーの王宮への納品とネメディス子爵家からの出仕、両方が重なったのが人の妬みを買ってしまったんだよね。最初は、令嬢の出仕を取りやめさせるつもりだったらしいよ」
犯人は、今までラベンダーを取り寄せていたところではなく、別のハーブの取引先だった。ラベンダーだけではなく、ルーチェが今までの取引先をどんどん切り捨てるつもりだと思われたらしい。
ルーチェのもとに娘を出仕させたいと思っていた貴族達の中には、自分達の領地から王宮にハーブを納めている者もいた。
最初は出仕を諦めさせるだけのつもりだったのだが、この際だからと庭園の管理を王妃に戻させることを思いついた。
その結果、ルーチェのところにまで脅すような手紙が届いたというわけである。あまりにもずさんな計画と言えば、ずさんな計画だった。
「ずさんな計画だったけど――間に合ってよかったよ。ルーチェが早く母上に話をしてくれたからね」
「それなら、よかった」
話が終わる頃には、食事は下げられて温かなお茶が運ばれてきた。
「それで、ルーチェはどうしたい?」
「どうって?」
「庭のことも、令嬢の出仕の件も」
「……私は」
ルーチェの答えなんて決まっている。やるべきことはきちんとやりたいのだ。
「もう一度……できるかしら」
「大丈夫、ちゃんと母上には話をしてあるから。あれがルーチェの本意ではなかたこともね」
(……この人は全部わかっているのね)
ランドルフにすべて任せておけば安心だ。
「令嬢の方も、ルーチェに仕えたいって意思は変わらないみたいだから、きっと出仕してきてくれると思うよ」
いつの間に、彼女の意思まで確認していたのだろう。彼の手回しのよさに、ルーチェは感心することしかできなかった。
「花壇が完成したら、僕にも見せてくれるよね?」
「もちろん。ランドルフ様に最初に見せてあげる」
きっと、これから先まだ似たようなことはいくらでも起きるだろう。だが、彼と一緒なら、何でも乗り越えていける、きっと。
約束ね――と小指を差し出しながら、ルーチェは微笑んだ。
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