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小さな花壇の大きな問題 (3)
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与えられた役を王妃に返上すると告げた翌日。ルーチェはランドルフに連れられて、城の外へと出かけることになった。
「一つ聞いてもいい? ずいぶん護衛の人が多いような気がするんだけど、私の気のせいかしら」
黙って彼に導かれるままに馬車に乗り込んだルーチェだったけれど、首を傾げてしまった。
ルーチェとランドルフが出かける時には護衛がつくのは当然のことなのだが、今日のそれはいつもの倍くらいの人数がいるように思えた。
乗り込んだ馬車も、二人で使うにはずいぶん大きくて他に何人も乗ることができそうだ。
「いや、これはいいんだ。今日、これから起こることをルーチェにも見てもらいたいから」
「……何を見せるつもりなの?」
「それは、内緒。ただ、これからは僕が呼ぶまでは絶対に馬車から出ないでもらえるかな」
「え、ええ……わかったわ。ランドルフ様の言うとおりにする」
これから何が控えているのかわからないけれど、彼の言うことには間違いないのはわかっている。下手に自分の判断で動くよりは、彼に任せておいた方が安心だということを知っていたから逆らう気もなかった。
二人が乗り込むのを待っていたように、馬車は動き始めた。
馬車の窓に顔を押しつけるようにして、ルーチェは外の様子をうかがう。いつの間にか都を出ていたらしく、馬車の外に広がっているのはのどかな田園風景だった。
やがて、馬車は森の中へと入っていき、少しいったところで停められた。
「ルーチェはここで待ってて」
ルーチェを馬車に残し、ランドルフは外に出て行ってしまう。
彼の後ろ姿を追うと、だいぶ傾いた西の日がルーチェの目を眩しく突き刺す。目を細めながら、ルーチェはランドルフが歩いていった方向へと視線を向ける。
彼が護衛として連れてきた兵士達のうち一人に話しかけるのが見えた。あたりの空気が緊張に満ちたのをルーチェは敏感に感じ取った。これから、何が起こるというのだろう――。
ランドルフの向かう先には、一軒の家があった。荒れている様子はないから誰か住んでいるのかもしれない。
嫌な予感がして、スカートをぎゅっと掴む。ルーチェが息をつめて見守る中、兵士達がその家の中に乗り込んでいくのが見えた。
家の中には入らず、ルーチェから見える位置に身を置いているランドルフは、次から次へと兵士達に命令を下しているようだ。ルーチェに対するのとはまるで違う、鋭い彼の声がここまで聞こえてきた。
やがて、家の内側から鈍い物音が響いてくる。そこで何があったのかを想像し、ルーチェはますます胸のあたりが痛くなってくるのを感じた。
もっと側まで行って様子を見たい――だが、ランドルフからは、馬車から出ないようにと厳命されている。じりじりとしたルーチェは中腰になって、ますます窓に顔を貼り付けるようにした。
「よくやった!」
兵士達をほめるランドルフの声に、事態が動いたらしいということを知る。そして、兵士達に抱えられるようにして誰がルーチェのいる馬車まで連れられてきた。
「ルーチェ、彼らを頼むよ!」
自ら扉を開き、彼らを馬車の中に押し込んだランドルフはそう言うと、再び命令を下すために戻っていってしまった。
兵士達に連れて来られたのは三人の男女だった。一人はルーチェと同じか、少々年下と思われる少女。彼女とよく似た面差しの女性。そして、女性と同じくらいの年齢の男性だ。
馬車の床の上に座り込んだままの男性は、両脇に女性と少女を抱きしめるようにしていた。
「……ひょっとして……ネメディス子爵?」
ルーチェの言葉に、彼はまじまじとルーチェの顔を見た。しばらくの間、黙っていた彼だったが、やがて何事かに思い当たったかのようにルーチェの顔を見た。
「……王太子妃殿下……!」
「え、ええ……そうね、私は、ルーチェよ」
正直に言ってしまえば、王太子妃と呼ばれるのにはまだ慣れない。ランドルフと結婚してから、そう呼ばれる機会は何度もあったはずだけれど。
「こ――これは、大変な失礼を! ほら、お前達、頭を下げなさい」
「それはいいから……座席に座ったらどうかしら。ランドルフ様も、そのおつもりでここにあなた達を連れてきたんだと思うの」
ルーチェは、馬車の床にへたりこんでいる彼らを、座席へと座らせる。二人きりで出かけるにしては、やけに大きな馬車を選んだと思っていたのだが、子爵一家を乗せるためのものだと思えば納得もいく。
まだ怯えている様子の一家を座らせると、ルーチェは窓の外に目をやった。剣を打ち合う音と怒声が響いてくるが、この馬車の中にいる限り安全なのだとそう思えるから不思議なものだ。
やがて、周囲を囲む敵を一掃してしまうと、ランドルフは颯爽と馬車に戻ってきた。彼は怪我一つしていないのだが、敵を切った時の返り血が彼の頬を汚している。
「見つけるのが遅くなってすまなかった。犯人の身元については、もうわかっている。彼らについては、厳罰に処するから安心してほしい」
ランドルフの言葉に、子爵一家は馬車の座席から床の上に転げ落ちるようにして頭を下げた。鷹揚な仕草で、彼は一家をもう一度座席へと座らせる。
そんな彼の様子を見ていたら、こんな時だというのにルーチェは胸のあたりがきゅうっとなるのを感じずにはいられなかった。
結局、ルーチェは何度だってランドルフに恋をするのだろう。今だって、こんなにも胸がどきどきしているのだ。
「一つ聞いてもいい? ずいぶん護衛の人が多いような気がするんだけど、私の気のせいかしら」
黙って彼に導かれるままに馬車に乗り込んだルーチェだったけれど、首を傾げてしまった。
ルーチェとランドルフが出かける時には護衛がつくのは当然のことなのだが、今日のそれはいつもの倍くらいの人数がいるように思えた。
乗り込んだ馬車も、二人で使うにはずいぶん大きくて他に何人も乗ることができそうだ。
「いや、これはいいんだ。今日、これから起こることをルーチェにも見てもらいたいから」
「……何を見せるつもりなの?」
「それは、内緒。ただ、これからは僕が呼ぶまでは絶対に馬車から出ないでもらえるかな」
「え、ええ……わかったわ。ランドルフ様の言うとおりにする」
これから何が控えているのかわからないけれど、彼の言うことには間違いないのはわかっている。下手に自分の判断で動くよりは、彼に任せておいた方が安心だということを知っていたから逆らう気もなかった。
二人が乗り込むのを待っていたように、馬車は動き始めた。
馬車の窓に顔を押しつけるようにして、ルーチェは外の様子をうかがう。いつの間にか都を出ていたらしく、馬車の外に広がっているのはのどかな田園風景だった。
やがて、馬車は森の中へと入っていき、少しいったところで停められた。
「ルーチェはここで待ってて」
ルーチェを馬車に残し、ランドルフは外に出て行ってしまう。
彼の後ろ姿を追うと、だいぶ傾いた西の日がルーチェの目を眩しく突き刺す。目を細めながら、ルーチェはランドルフが歩いていった方向へと視線を向ける。
彼が護衛として連れてきた兵士達のうち一人に話しかけるのが見えた。あたりの空気が緊張に満ちたのをルーチェは敏感に感じ取った。これから、何が起こるというのだろう――。
ランドルフの向かう先には、一軒の家があった。荒れている様子はないから誰か住んでいるのかもしれない。
嫌な予感がして、スカートをぎゅっと掴む。ルーチェが息をつめて見守る中、兵士達がその家の中に乗り込んでいくのが見えた。
家の中には入らず、ルーチェから見える位置に身を置いているランドルフは、次から次へと兵士達に命令を下しているようだ。ルーチェに対するのとはまるで違う、鋭い彼の声がここまで聞こえてきた。
やがて、家の内側から鈍い物音が響いてくる。そこで何があったのかを想像し、ルーチェはますます胸のあたりが痛くなってくるのを感じた。
もっと側まで行って様子を見たい――だが、ランドルフからは、馬車から出ないようにと厳命されている。じりじりとしたルーチェは中腰になって、ますます窓に顔を貼り付けるようにした。
「よくやった!」
兵士達をほめるランドルフの声に、事態が動いたらしいということを知る。そして、兵士達に抱えられるようにして誰がルーチェのいる馬車まで連れられてきた。
「ルーチェ、彼らを頼むよ!」
自ら扉を開き、彼らを馬車の中に押し込んだランドルフはそう言うと、再び命令を下すために戻っていってしまった。
兵士達に連れて来られたのは三人の男女だった。一人はルーチェと同じか、少々年下と思われる少女。彼女とよく似た面差しの女性。そして、女性と同じくらいの年齢の男性だ。
馬車の床の上に座り込んだままの男性は、両脇に女性と少女を抱きしめるようにしていた。
「……ひょっとして……ネメディス子爵?」
ルーチェの言葉に、彼はまじまじとルーチェの顔を見た。しばらくの間、黙っていた彼だったが、やがて何事かに思い当たったかのようにルーチェの顔を見た。
「……王太子妃殿下……!」
「え、ええ……そうね、私は、ルーチェよ」
正直に言ってしまえば、王太子妃と呼ばれるのにはまだ慣れない。ランドルフと結婚してから、そう呼ばれる機会は何度もあったはずだけれど。
「こ――これは、大変な失礼を! ほら、お前達、頭を下げなさい」
「それはいいから……座席に座ったらどうかしら。ランドルフ様も、そのおつもりでここにあなた達を連れてきたんだと思うの」
ルーチェは、馬車の床にへたりこんでいる彼らを、座席へと座らせる。二人きりで出かけるにしては、やけに大きな馬車を選んだと思っていたのだが、子爵一家を乗せるためのものだと思えば納得もいく。
まだ怯えている様子の一家を座らせると、ルーチェは窓の外に目をやった。剣を打ち合う音と怒声が響いてくるが、この馬車の中にいる限り安全なのだとそう思えるから不思議なものだ。
やがて、周囲を囲む敵を一掃してしまうと、ランドルフは颯爽と馬車に戻ってきた。彼は怪我一つしていないのだが、敵を切った時の返り血が彼の頬を汚している。
「見つけるのが遅くなってすまなかった。犯人の身元については、もうわかっている。彼らについては、厳罰に処するから安心してほしい」
ランドルフの言葉に、子爵一家は馬車の座席から床の上に転げ落ちるようにして頭を下げた。鷹揚な仕草で、彼は一家をもう一度座席へと座らせる。
そんな彼の様子を見ていたら、こんな時だというのにルーチェは胸のあたりがきゅうっとなるのを感じずにはいられなかった。
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