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第二章

(04)

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「……そんな出会いが、あったらいいのだけれど」

 ぽつりと呟いた言葉は、果たしてシェリーか、アシュリーか、どちらのものだったのだろうか。
 彼女自身にも、わからなかった。
 少しすると馬車が止まり、ドアが開かれる。侍女が降りて、それからローウェルが降り、彼はアシュリーに、手を差し伸べてくる。
 一呼吸して、彼女はその手を取った。

「行ってらっしゃいませ、ローウェル様、シェリーお嬢様」

 馬車の前で侍女として着いてきてくれた彼女が頭を下げる。
 仕事とは言え、しがない男爵家の娘である自分にこんなに丁寧な態度を取らせてしまって申し訳ないことこの上ない。居たたまれなかったが、辛うじてお礼だけは伝えられたのは幸いだった。

「ねえ、あの方もしかして──!」
「お久しぶりにあの美しいお顔を拝見したわ。いつもは研究室に籠もりきりで、なかなかお会いできないのだもの……でも隣にいるあの子は……」
「見ない顔ね。どんなご関係なのかしら。もしかして、あのローウェル様にとうとう恋人……?」
「そんなはずないわよ。だって、どう見ても釣り合いが──」

 正装したローウェルにエスコートされて歩みを進めるたびに、彼には令嬢からの熱烈な視線が向けられ、アシュリーには突き刺さるような視線が降り注いだ。
 釣り合いが取れていないことはアシュリー自身がよくわかっているので、そこには触れないで欲しい。
 この時点で正直帰りたい気持ちで一杯だったが、これも仕事なのだと言い聞かせる。慣れないドレスとヒールのあるパンプスの所為で足元が辿々しくなってしまうが、意外にもローウェルは気を使っていつもより遅い速度で歩いてくれた。

「うわあ……」

 大広間に入ると、煌びやかな光が天井から降り注いできた。豪奢なシャンデリアが煌々とした光を床に落としている。
 そして先ほどよりも熱い視線がローウェルに集まり、同じぐらいに鋭い視線がアシュリーに突き刺さった。加えて、ローウェルが連れてきた娘と言うことで興味本位の視線も感じられて、アシュリーはひどく居心地が悪い。
 引き吊りそうになる頬の筋肉を必死に笑みの形に誤魔化してローウェルの方を見れば、彼はアシュリーの僅かな表情の歪みに気付いたのだろう。にっこりと微笑んだ。

「挨拶済ませて、適当に過ごしたら帰ろうと思ってるからそれまで頑張って」
「……頑張りますわ、ローウェルお兄様」

 明らかに狙って浮かべられた微笑みに、アシュリーに刺さる視線がより鋭くなる。
 この野郎、と心中で暴言を吐きながら、彼女はぎこちなく笑みを浮かべながらそう答えるだけに留めた。
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