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Ⅴ ソロモン革命
2節 先駆 ①
しおりを挟む会議終わって翌日。
「いや、やっぱ速いわ」
もう人員の異動が終わったという。
「そしてまた会議ですか」
昨日散々喋ったにも関わらず、翌日また会議があった。エイジは喉が痛いのに。開始時刻は遅めではあったが。
「……まだ不機嫌?」
ジトっと視線が絡みつく。
「ワカッタノカ?」
不機嫌になった理由。
「えっと……もしかして……オレが辞めたら悲しいから、とか?」
自惚れ発言、恥ずかし過ぎる。笑われる……! と恐れていたが、皆満足げに息を吐く。
「え、マジ?」
「マジだマジ。お前はもっと自分に自信を持てってな」
レイヴンがわざわざ近寄って、背中を叩く。
「レイエルピナさんは、それでいいの?」
「……はぁ。アンタまだそんなこと気にしてんの? わたしはアンタのこと認めてるし、宰相としての能力もあると思ってる。ていうか、自分のこと嫌いな奴が抱きついてくるとでも思ってるの?」
答えに窮する。流石にないもの。
「でも、こんなに異動が早く終わるとはね」
「あ、逃げた~、かわいいわァ」
「うんうん、かわいいかわいい」
「……う、うるさい。……意外というか、やればできるんだな」
モルガンとノクトのかわいい責め。苦手である。言われ慣れず、恥ずかしいから。
「ん~? だって皆、人はある程度残してそれ以外は皆異動~ってやってたし。部署異動の記録は後でするしィ」
「いいのかそれ⁉︎」
「ダメ?」
「まあ……思い立ったが吉日、善は急げ。やること多いし時間かかるから、やるに越したことはない」
まだ何が起こるかわからないし、結局今管理しても無駄かもと思い始めている。
「では。なぜ会議を?」
「忘れたので、もう一度教えてくれ」
「だよね……」
口をムニムニさせる。仕方ないとは分かるけど、もう一度話すのはなかなか面倒。
「じゃあ、まずすべきことを整理する。開発部門は蒸気機関車を設計する。魔導院はそれを補佐しつつ、魔晶石の純度を上げる精錬法と運動エネルギーへの変換効率を上げる技術の研究を。生産担当は、設計図を作り可及的速やかに工場を建てましょう。手が余った者及び調査と兵站が木材や鉱石、魔晶石等の材料調達を。他は魔王様を中心に、周辺集落の魔族たちのスカウトを。ああそうだダッキ、獣人と妖精たちの長を呼んでくれ。話をつけたい。さて、最後にモルガンだが……仕事多いぞ」
「ぶぅ……や~」
唇尖らせ不満そう。幹部の中で一番使えなさそうに見えるが、これでも仕事はしっかりこなせる方である。そうでなければ幹部ではない。
「統括部の面々ら、情報担当など補佐を多く充てるから頑張ってくれ……仕事は、労働条件の策定、名簿の作成だ。例えば……労働は一日十時間、週休三日。四時間、三時間、三時間、休憩はその間に一時間で拘束時間ちょうど十二時間。この城にいると忘れがちだが、本来魔族は日光が苦手だったな。であれば、基本の始業時間を18時頃に設定してみるとか。それと、全員が同じ時間に始めるのは非効率。だから六時間おきに始業時間を設けるとか。一日中ノンストップで回した方が都合はいいからね。こんなふうに、条件・ルールみたいなのを作ってくれ。あとは、定められた日数、時間以上働いた者にはボーナスを出すとか。そのボーナスが出る条件、そしてボーナスとはどのようなものであるか。そういうことを考えてくれ。これ次第で労働者達の意欲も変わる」
「え~……今エイジクンが言ったのでいいんじゃない? …………むぅ、わかった。やるけどォ……ワタシにもボーナスちょうだいね」
「はいよ。検討しとく。さあて、やるべきことはわかったかな? 私、宰相エイジは、主に魔導院と開発部門、生産部門とモルガンら人事の手伝いをする予定だ。まずは生産、次に機関車、そして属国首脳との対談が直近の予定。うん……うぁ、やること多っ、ダルっ、めんどくせぇ!」
突如愚痴を吐き始めたエイジに、皆は生暖かな目を向ける。お前が言い出したことだろ、とでも言いたげであるが。
「ふう、愚痴終わり。すいませんね、ボク、定期的に弱音というか文句というか、言って発散しないといけない性格なんです。まだまだ未熟にて、お赦し下され。さて、と……たった今ひとつ思いついたことがあるんですが、いいですかね」
「簡単なことならね。難しいこと言われたって、今じゃわかりっこないし。それにすぐやることはもう決まったんだから、アンタが覚えとけばいいわ」
「……うん、簡単なこと。これなんだけど」
エイジは手の甲を見せるように右手を上げる。
「これ、ベリアル様から貰った指輪なんだけど……通信機能がついてるんだよね」
「へえ、お父様から………………で、それがどうかしたわけ?」
複雑そうな顔のレイエルピナ。それほど、その指輪は特別扱いの証らしい。
「思い付いたんだけれども。これを各部署の統括に配るというのはどうだろう。これから各部署は城の外にまで出ることになるが、離れ離れになってしまう。そのせいで、情報の伝達が遅れるとかありそうじゃないか? 通信機があれば便利だと思ってねえ」
「それなら、戦争で使ったアレでいいじゃないか」
アレ。とてもお世話になった、石のような通信魔道具だ。
「いや、ダメだ。一つの物から一対一や多人数での会話を任意で、距離が離れていても使えるようでなくては。……と言っても、これは難しい?」
「ええ。そんな多機能にするには、技術が足りません」
「仕方ないか。じゃあ、部署数は十だから……90個必要だねえ。一対一にするなら」
「多いですね。まあ、できない量でもありません。当時は増幅機の製造や、複数の連動が必要でしたが、それよりは簡単に作れるでしょう」
フォラスは苦い顔をしたが、必要性はわかるために、了承した。
「では、それでお願いします。まだ質問がある者は残ってくれ。それ以外は即刻活動開始である」
多くの者が席を立ち、各々職場に向かわんとする。しかし、そこで一つ手が挙がる。
「質問よ…」
「……なんでしょう、メディアさん」
「労働者の…ご飯……どうするの?」
「…………あっ」
完全に盲点だったらしい。自らも魔力により、生命維持のエネルギーを得るようになって、他の城内勤務の者も食事をしていない。いつの間にか、食事が必要だという感覚が抜け落ちていた。
「あー……」
「そういえばそうだな」
他の者達も、今回ばかりは責められない。彼らとて、全くそのことを考えていなかった。
「どうするよ、宰相」
「くっ……城の地下の食料を解放しても足りないよなぁ……自然から採取つっても、たかが知れてるし、賄えないし……炭水化物が欲しいけれど、城周辺の穀物はまだ収穫できる状態じゃないんだろう? うーん………………テミス‼︎」
「はいっ⁉︎」
突然呼ばれて、びくりと跳ね上がる皇女様。
「帝国で金属は売れるか? 木材は? それと魔晶石は高値で売れるか?」
「ええと……どうだったかなぁ」
顎に手を当て目を瞑り、うんうんと唸り。ハッと思いついたように顔を上げて。
「地下牢の鍵、管理者はどなたですか?」
「俺だ。何か用でもありますか、テミス皇女?」
「はい。ある者達に、用があります。皆さま、少しお待ち下さい」
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