魔王国の宰相

佐伯アルト

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Ⅳ 魔王の娘

幕間 休養 〜一方その頃〜 ①

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 それは、エイジが自室に引き籠っていた間の出来事だ。

「邪魔するわ」

 やや高めで棘のある声が、オフィスに響く。そこにいた者達は、一斉に声の発せられた方を向いた。

「何の御用でしょうか。ここは国の中枢を担う場所。子供の遊び場ではないのですよ」

 その返答もまた、冷たく嫌味のあるものだった。

「ええ、弁えているつもりよ」

 それに少しだけムッとしたようではあったけれど、飲み込んで、ずけずけと部屋の奥まで入り込んで、こう言い放った。

「何の用かと訊かれたら……そうね、働きにきたのよ」

 以前の彼女からは考えられない殊勝な、意表を突くような発言に唖然とする。

「ど、どういった心境の変化ですの?」

 レイエルピナはというと、宰相の机すぐ近くの壁に凭れ掛かる。

「わたしは、今までお父様に甘やかされて育ってきたわ。要は、世間知らずだったわけよ。それを旅をしたり、アイツに色々されたせいで思い知ったわ」

 すると腕を組み、目を閉じた。

「ただ強いだけじゃダメ。権力だって頼りすぎちゃいけないし、正しく使わないといけないわ。なのにこれじゃ、お飾り王女のままよ。ワガママ言うだけ言ってみんなを振り回して、陰で無能と馬鹿にされたり、お父様にも迷惑をかける……それじゃダメでしょ? わたしだって、そんな自分は許せないもの」

 再び目を開く。その瞳には、強い意志が宿っていた。

「だから、わたしも何かしようと思ったのよ。ここなら、特にいろいろ学べそうだし」

 そして、シルヴァを先ほどの嫌味への意趣返しとばかりに睨め付ける。

「ってわけよ。何か文句でも」
「す……素晴らしいです!」

 と、そこへ、感激した様子のテミスが突撃し、両手で手を握られた。

「え、な、なに?」
「私、感激しました! 私の妹に爪の垢煎じてねじ込んでやりたいくらいです!」
「そ、そう……」

 グイグイ距離を詰めてくるテミスに、レイエルピナはタジタジしていた。そんな物珍しい光景に、つい統括部の者達も手を止め見入っていた。

「でも、いいの?」
「何がですか?」

 レイエルピナは、握られた手に目を向ける。その様子から、テミスも彼女が何を気にしているかをなんとなく察した。

「だってわたし達は敵同士、ましてや王族よ。仲良くするなんて__」
「けど私、あなたには何も酷いことされてませんよ?」

 きょとんとした顔のテミスに、遠慮して距離を置こうとしていたレイエルピナの毒気が抜かれる。

「仲良くさせていただけたら、嬉しいなって。私は今まで、対等な関係の友達なんていませんでしたから」

 そこでハッと気づいたように、テミスの手から力が抜ける。

「……あ、ごめんなさい。今の私たちは対等じゃありませんでしたね。失礼しまし__」

 だが、手が離れることはなかった。なぜなら……レイエルピナが手を握り返していたからだ。

「別に……嫌ってわけじゃ、ないから」

 すると、テミスは満面の笑みを浮かべる。

「レイエルピナさん、友達になりませんか? ライバルでもいいですけど」

 最初はにこやかに、途中から不敵な笑みを浮かべたテミスがレイエルピナを見つめる。

「……ええ、受けて立つわ!」

 対するレイエルピナも、改めて彼女の手を強く握り返す。

「なんか、友情が生まれていますわね……わたくし達も、いつまでもギスギスしてはいられないのではありませんこと?」
「貴女がもっと真面目にしてくだされば、揉めることはないのですが」
「うう……酷いですわ」

 いつものように冷たくあしらおうとしたシルヴァだったが、ダッキが目をウルウルさせながら見上げてくるので、少し戸惑ってしまう。

「……あ~、攻略法を見つけてしまったかもしれませんわね」

 案外シルヴァは甘いのでは、ということに気づいたダッキが、途中からニマニマする。まんまと彼女の演技に乗せられたことに気づき、顔を少しだけ朱に染めたシルヴァは__

「な、何を見ているのです! 手が止まっていますよ!」

 統括部の面々に転嫁行動する。それでハッとした彼らは仕事を再開する。しかし、その表情はいいものを見れたからか朗らかなものだった。

「というわけで」
「お仕事教えてください!」
「ええ。ですが、お姫様だからといって甘かやすつもりはありませんので、悪しからず」

 ダッキのやや挑発的な態度に対し、二人は望むところとばかりに笑って見せた。

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