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Ⅳ 魔王の娘
幕間 休養 〜お仕事こわい〜 ⑤
しおりを挟む___六日後___
「そういえば……ねえお父様、最近エイジを見た?」
「いや……全然見てないな」
仕事を探す。そう言って彼女が行き着いた先は統括部門。そう、エイジの部門だ。
ここで働き始めて四日目、彼女は同室のベリアルに問う。この部屋の主人の姿を全く見ないのが気がかりだった。
「アンタらは?」
「はぁ……そういえば見てないですわね。抱き枕にも呼ばれませんでしたし」
「私も見かけておりません。それに、仕事にも当然来ておりません。休暇ですから自由にして良いのでは?」
過労で倒れた(ということになっている)宰相より、彼女らの休み明けは早かった。仕事もあるからと、最近はエイジの下を訪ねることもなかった。
「でも……なんか不安なのよ。アイツを見ないと。なんでか知らないけど。なんというか違和感というか、胸騒ぎというか……」
今魔王国の中心は彼。そのことをレイエルピナも分かってきている。それ故に、見かけないというのは厄介ごとの種な気がする。
「確かに……エイジ様は明日が休暇明けのはずです。見かけないというのは、不安ですね」
「でしたら、メイド達ならいかがですの? 彼女らなら、毎日彼の部屋に入るではありませんか」
「そう。じゃあ、メイド詰所に行きましょ」
「休み時間になったら、だぞ?」
「……はい」
レイエルピナは思い立つと今すぐにでも行こうとするも、ベリアルに釘を刺され動きを止めた。
そして、待ちに待った休み時間。秘書二人と魔王親子は、メイド詰め所を訪れる。
「エイジ様ですか? それが……ちょっと困ったことになっておりまして……」
彼の専属、副メイド長のハインリヒ。エイジの近況を尋ねられた彼女は少し、いや大分辟易した様子をしている。
「どんなだ?」
「それは……見た方が早いかと……」
彼女を様子を見るに、事態は深刻なようだ。胸騒ぎは当たっていたらしく、皆は身構える。
四人はメイドに連れられて、宰相の部屋の前に着いた。ノックしようとしたメイドをレイエルピナは手で制し、唇に人差し指を当てる。怪訝そうな顔をするハインリヒに小声で言う。
「突然入って驚かしてやりましょ? その方が面白そうじゃない。アイツのプライバシーなんて知ったこっちゃないわ。むしろ、見られてまずいことしてたらやじゃない」
「……魔王様、モルガン様は?」
修羅場を恐れるシルヴァがベリアルに問う。あの時はただの添い寝だったからよかったが、致していたとなると気まずいことこの上ない。
「仕事中のはずだ。テミス姫と共にな」
不安要素の二人が排除された。となると、問題は別にあるか。
「よし、じゃあ突撃するわよ。3、2、1、ドッぶわっ‼︎」
ドアをぶち破って突撃しようと思ったレイエルピナは体当たり。したが、鍵がかかっていたようで激突し、跳ね返ってすっ転んでしまう。
「おや、言って、いませんでしたっけ? あの、人は、普段……ふふっ……上級魔術鍵を、かけていて…その鍵は私…とフェルト、フィリシアの三人と……マスターキーを管理する…マモンしか……ぷっ…しか…持ち合わせて、おりません……ふふっ…」
「……先に……言ってよ………うぁぁぁぁ……」
その場にいた四人は笑いを堪えるのに必死なようだ。ものすっごい恥ずかしい。ノクトだったら絶対堪えず吹き出してたし、二年はそのネタでイジられただろう。穴があったら入りたい。しかも普通のドアなら壊れるはずなのに、凹みすらしていない。いたい。
流石にこの音で気づかれてしまっただろう。観念して普通に鍵を開けて入る。
「おーい、エイジ宰相⁉︎ いたら返事しなさい! って寒!」
開けた途端に冷気が流れ込んできた。
「おお、この部屋だけ涼しいな」
城の奥にこもっていると忘れがちだが、今は真夏。30℃以上にまで気温が上がることがある。特に大きな窓のある部屋は暑い。
「あれのせいか」
手作り感のある台の上に、ある特殊な石と、魔術陣がある。彼は贅沢にも冷房をつけているようだ。
さて、部屋を見渡すと、窓辺のベッドが盛り上がっている。間違いなくそこだ。ズカズカ近づき毛布を引っ剥がす。すると__
「ああー! オレの恋人!」
飛び起きて、恨めしそうな顔で犯人を睨め付ける。
「布団、返して」
「いやよ。いい加減出てきなさい」
「やだ!」
そう言うと召喚能力で毛布を奪還される。毛布に包まると、また寝ようとした。
「起きろ!」
「ヤダ! 働きたくない! お仕事こわい‼︎」
諦め悪く、頑なに起きようとしない。
「こんな調子なんです……」
「コイツ……」
「ああ……そういえば彼、仕事中に愚痴で、本当は無気力でめんどくさがりとか言ってましたわね」
「こういうことでしたか」
一度完全にオフになってしまったことで、気が抜けてしまったようだ。そうなるとなかなか動かないタチか。
「オイ、起きろ」
「ひっ! 魔王様⁉︎」
今やっと存在に気付いたようだ。主君の手前、あまり情けない姿を見せるわけにもいかず、宰相用礼服に慌てて早着替えした。完全に手遅れだし、髪は面白いくらいはねてたけど。
「はあ、どんだけ気が緩んでたんだか」
その醜態に、レイエルピナでさえ呆れる。
「エイジよ、そろそろ起きて部屋から出たらどうだ?」
「嫌ですよ⁉︎ だってあと二日は休みでしょう⁉︎ それまで絶対に何もしませんからね!」
今は休暇七日目。この国の曜日は、魔力属性になぞらえて八つ。一週間は八日であることに留意されたし。エイジはまだ慣れてないが、休暇に関しては正確。
「むう……」
確かにそうだ。休暇が与えられたのは事実。休む資格はある。けれど、いくらなんでも情けない。レイエルピナは、こんなヤツに、少しだけとはいえ、ときめいた自分が恥ずかしい。 __あれ、最近わたし恥ずかしがってばっかり?__
「はあ、仕方ない。休みを与えたのは確かだ。だが、それ以降はしっかり働いてもらうぞ」
青ざめた顔になっている。
「え? そんなに働きたくない?」
「……はあ。その調子だと、前までといきなり同じ仕事をさせるのも酷だろうな。過労がトラウマになってしまったのだろう。リハビリがてら、簡単な仕事を頼むとしよう。な、レイエルピナ?」
「えっ、わたし巻き込まれるの⁉︎」
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