魔王国の宰相

佐伯アルト

文字の大きさ
上 下
169 / 236
Ⅳ 魔王の娘

幕間 休養 〜お仕事こわい〜 ⑤

しおりを挟む

___六日後___


「そういえば……ねえお父様、最近エイジを見た?」
「いや……全然見てないな」

 仕事を探す。そう言って彼女が行き着いた先は統括部門。そう、エイジの部門だ。

 ここで働き始めて四日目、彼女は同室のベリアルに問う。この部屋の主人の姿を全く見ないのが気がかりだった。

「アンタらは?」
「はぁ……そういえば見てないですわね。抱き枕にも呼ばれませんでしたし」
「私も見かけておりません。それに、仕事にも当然来ておりません。休暇ですから自由にして良いのでは?」

 過労で倒れた(ということになっている)宰相より、彼女らの休み明けは早かった。仕事もあるからと、最近はエイジの下を訪ねることもなかった。

「でも……なんか不安なのよ。アイツを見ないと。なんでか知らないけど。なんというか違和感というか、胸騒ぎというか……」

 今魔王国の中心は彼。そのことをレイエルピナも分かってきている。それ故に、見かけないというのは厄介ごとの種な気がする。

「確かに……エイジ様は明日が休暇明けのはずです。見かけないというのは、不安ですね」
「でしたら、メイド達ならいかがですの? 彼女らなら、毎日彼の部屋に入るではありませんか」
「そう。じゃあ、メイド詰所に行きましょ」

「休み時間になったら、だぞ?」
「……はい」

 レイエルピナは思い立つと今すぐにでも行こうとするも、ベリアルに釘を刺され動きを止めた。


 そして、待ちに待った休み時間。秘書二人と魔王親子は、メイド詰め所を訪れる。

「エイジ様ですか? それが……ちょっと困ったことになっておりまして……」

 彼の専属、副メイド長のハインリヒ。エイジの近況を尋ねられた彼女は少し、いや大分辟易した様子をしている。

「どんなだ?」
「それは……見た方が早いかと……」

 彼女を様子を見るに、事態は深刻なようだ。胸騒ぎは当たっていたらしく、皆は身構える。


 四人はメイドに連れられて、宰相の部屋の前に着いた。ノックしようとしたメイドをレイエルピナは手で制し、唇に人差し指を当てる。怪訝そうな顔をするハインリヒに小声で言う。

「突然入って驚かしてやりましょ? その方が面白そうじゃない。アイツのプライバシーなんて知ったこっちゃないわ。むしろ、見られてまずいことしてたらやじゃない」
「……魔王様、モルガン様は?」

 修羅場を恐れるシルヴァがベリアルに問う。あの時はただの添い寝だったからよかったが、致していたとなると気まずいことこの上ない。

「仕事中のはずだ。テミス姫と共にな」

 不安要素の二人が排除された。となると、問題は別にあるか。

「よし、じゃあ突撃するわよ。3、2、1、ドッぶわっ‼︎」

 ドアをぶち破って突撃しようと思ったレイエルピナは体当たり。したが、鍵がかかっていたようで激突し、跳ね返ってすっ転んでしまう。

「おや、言って、いませんでしたっけ? あの、人は、普段……ふふっ……上級魔術鍵を、かけていて…その鍵は私…とフェルト、フィリシアの三人と……マスターキーを管理する…マモンしか……ぷっ…しか…持ち合わせて、おりません……ふふっ…」
「……先に……言ってよ………うぁぁぁぁ……」

 その場にいた四人は笑いを堪えるのに必死なようだ。ものすっごい恥ずかしい。ノクトだったら絶対堪えず吹き出してたし、二年はそのネタでイジられただろう。穴があったら入りたい。しかも普通のドアなら壊れるはずなのに、凹みすらしていない。いたい。

 流石にこの音で気づかれてしまっただろう。観念して普通に鍵を開けて入る。

「おーい、エイジ宰相⁉︎ いたら返事しなさい! って寒!」

 開けた途端に冷気が流れ込んできた。

「おお、この部屋だけ涼しいな」

 城の奥にこもっていると忘れがちだが、今は真夏。30℃以上にまで気温が上がることがある。特に大きな窓のある部屋は暑い。

「あれのせいか」

 手作り感のある台の上に、ある特殊な石と、魔術陣がある。彼は贅沢にも冷房をつけているようだ。

 さて、部屋を見渡すと、窓辺のベッドが盛り上がっている。間違いなくそこだ。ズカズカ近づき毛布を引っ剥がす。すると__

「ああー! オレの恋人!」

 飛び起きて、恨めしそうな顔で犯人を睨め付ける。

「布団、返して」
「いやよ。いい加減出てきなさい」
「やだ!」

 そう言うと召喚能力で毛布を奪還される。毛布に包まると、また寝ようとした。

「起きろ!」
「ヤダ! 働きたくない! お仕事こわい‼︎」

 諦め悪く、頑なに起きようとしない。

「こんな調子なんです……」
「コイツ……」
「ああ……そういえば彼、仕事中に愚痴で、本当は無気力でめんどくさがりとか言ってましたわね」
「こういうことでしたか」

 一度完全にオフになってしまったことで、気が抜けてしまったようだ。そうなるとなかなか動かないタチか。

「オイ、起きろ」
「ひっ! 魔王様⁉︎」

 今やっと存在に気付いたようだ。主君の手前、あまり情けない姿を見せるわけにもいかず、宰相用礼服に慌てて早着替えした。完全に手遅れだし、髪は面白いくらいはねてたけど。

「はあ、どんだけ気が緩んでたんだか」

 その醜態に、レイエルピナでさえ呆れる。

「エイジよ、そろそろ起きて部屋から出たらどうだ?」
「嫌ですよ⁉︎ だってあと二日は休みでしょう⁉︎ それまで絶対に何もしませんからね!」

 今は休暇七日目。この国の曜日は、魔力属性になぞらえて八つ。一週間は八日であることに留意されたし。エイジはまだ慣れてないが、休暇に関しては正確。

「むう……」

 確かにそうだ。休暇が与えられたのは事実。休む資格はある。けれど、いくらなんでも情けない。レイエルピナは、こんなヤツに、少しだけとはいえ、ときめいた自分が恥ずかしい。 __あれ、最近わたし恥ずかしがってばっかり?__

「はあ、仕方ない。休みを与えたのは確かだ。だが、それ以降はしっかり働いてもらうぞ」

 青ざめた顔になっている。

「え? そんなに働きたくない?」
「……はあ。その調子だと、前までといきなり同じ仕事をさせるのも酷だろうな。過労がトラウマになってしまったのだろう。リハビリがてら、簡単な仕事を頼むとしよう。な、レイエルピナ?」
「えっ、わたし巻き込まれるの⁉︎」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

勇者(代理)のお仕事……ですよねコレ?

高菜あやめ
恋愛
実家の提灯屋を継ぐつもりだったのに、家出した兄の帰還によって居場所を失ってしまったヨリ。仕方なく職を求めて王都へやってきたら、偶然出会ったお城の王子様にスカウトされて『勇者(代理)』の仕事をすることに! 仕事仲間であるルイーズ王子の傍若無人ぶりに最初は戸惑っていたが、ある夜倒れていたルイーズを介抱したことをきっかけに次第に打ち解けていく……異世界オフィスラブ?ストーリーです。

【完結・7話】召喚命令があったので、ちょっと出て失踪しました。妹に命令される人生は終わり。

BBやっこ
恋愛
タブロッセ伯爵家でユイスティーナは、奥様とお嬢様の言いなり。その通り。姉でありながら母は使用人の仕事をしていたために、「言うことを聞くように」と幼い私に約束させました。 しかしそれは、伯爵家が傾く前のこと。格式も高く矜持もあった家が、機能しなくなっていく様をみていた古参組の使用人は嘆いています。そんな使用人達に教育された私は、別の屋敷で過ごし働いていましたが15歳になりました。そろそろ伯爵家を出ますね。 その矢先に、残念な妹が伯爵様の指示で訪れました。どうしたのでしょうねえ。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

最初から最後まで

相沢蒼依
恋愛
※メリバ作品になりますので、そういうの無理な方はリターンお願いします! ☆世界観は、どこかの異世界みたいな感じで捉えてほしいです。時間軸は現代風ですが、いろんなことが曖昧ミーな状態です。生温かい目で閲覧していただけると幸いです。 登場人物 ☆砂漠と緑地の狭間でジュース売りをしている青年、ハサン。美少年の手で搾りたてのジュースが飲めることを売りにするために、幼いころから強制的に仕事を手伝わされた経緯があり、両親を激しく憎んでいる。ぱっと見、女性にも見える自分の容姿に嫌悪感を抱いている。浅黒い肌に黒髪、紫色の瞳の17歳。 ♡生まれつきアルビノで、すべての色素が薄く、白金髪で瞳がオッドアイのマリカ、21歳。それなりに裕福な家に生まれたが、見た目のせいで婚期を逃していた。ところがそれを気にいった王族の目に留まり、8番目の妾としてマリカを迎え入れることが決まる。輿入れの日までの僅かな時間を使って、自由を謳歌している最中に、ハサンと出逢う。自分にはないハサンの持つ色に、マリカは次第に惹かれていく。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

処理中です...