魔王国の宰相

佐伯アルト

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Ⅲ 帝魔戦争

4節 宰相vs魔王⁉︎ ①

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 魔王城における戦争の物資の準備は殆ど終了し、宰相ら出撃組の幹部は、ベリアル控える一番大きな村に集合していた。

 作戦の実行まで、残り二日。明日に最後の輸送隊が到着し、運送完了次第、最後の整理を行い、進軍を始める予定である。


「それでは改めて、作戦の詳細を解説いたします」

 幹部らはベリアルのテントに集まり、明後日の作戦に向けて最後の詰めをしていた。作戦の詳細が決まったのは、エイジが視察より帰還してから二日後。その間城を離れていた魔王は知らなかったのだ。

「まず、夜のうちに闇に紛れて接近し、日がやや昇ったところで奇襲をかけます。ある程度接近したら、魔導院の連中を馬車馬のように働かせて作らせた迷彩装置を使用し、夜明けまで待機します。その間に進軍中に乱れた部隊の陣形を立て直します」
「隠蔽装置の必要性は如何に?」

「帝国には防壁と、そこに駐屯する兵による見張りがあります。また、この辺りの集落が襲撃、陥落したことは向こうも把握しているはず。距離があるとはいえ、あちらも最大限の警戒をしてることでしょう」

 魔王は唸る。それは防壁に対してか、それとも警戒に関してか……。

「そして事前準備として、夜のうちに私が帝都に侵入します。夜中にアンテナを設置したのち、作戦開始まで街中央で待機。実行時には、戦場全体を千里眼を併用しつつ俯瞰し、合図を出していきます。私自身が戦うことは、恐らくないでしょう。ちなみにゴグ氏は後方待機。退路を確保していてもらいます」

 エイジは自身の役割の説明と同時に、合図の解説もしていく。それが終われば、ようやく本題。

「では、作戦本番の詳細の説明を始めます。まず初手は、帝国の北東側、つまり正面から魔王様率いる雑兵およそ一万に正面から突撃していただき、陽動をかけます」

 どこからか取り出したキングの駒を、エイジは地図の対応したところに置く。

「次点、一番手の伏兵です。南西、陽動隊の裏側から、騙し討ちや撹乱を得意とするノクト率いる五千の部隊を突然現すことで、混乱を誘います」
「最初の伏兵で、いかに敵を撹乱できるかが重要なんだってね。僕、責任重大だなぁ」

「帝国の道幅は存外広くない。ノクトの部隊から、人々は必死に逃げるはず。それにより兵達の足が鈍り、対応が遅れると予想される。その間に、魔術や物理の火力を重視した部隊で以って、破壊活動に勤しんでもらいます」

 帝都を挟んでキングの反対にクイーンを置く。

「そして、吾輩とレイヴンであるな」
「ああ。ノクトを皮切りに俺達が立て続けに現れることで、完全なパニックに陥るはずだ」
「彼らの勢力は兵力はそれぞれ四千。魔王様とノクトを前後とするなら、彼らは左右に当たります」

 北西に右翼エリゴス、南東つまり左方面に将軍。ナイトとルークを置いた。

「儂らは堅実に攻めよ、とのことだ」
「ああ。特に俺の部隊は、ノクトが都内に侵入したら、幹部率いる隊では最も離れている。この中で一番兵を率い慣れているのは、魔王様を除けば俺だからな」

 二人はどっしりと構えている。頼り甲斐がある。

「ソシテ私ガトドメヲ刺ス」
「ええ。上空からエレンさんの空中部隊が奇襲。爆弾の投下や魔術、飛竜のブレス等で街の中央を焼き尽くし、秩序を完全崩壊させてもらいます。兵力にして千。上空を飛べる者は少ないですからね、最小の部隊です」

 ビショップを帝都中央に配置。これで全幹部の配置完了だ。

「加えて中隊を三つ。それぞれ兵力は二千五百。後は魔王様の後方に予備隊を三つ。それぞれ千五百。これらを率いるのは幹部ではありませんが、部隊を率いるには不足のない、優秀な者を見繕い任せております。合計で部隊数十一、兵士数は大体三万六千となります」

 最後はレイヴンが締めた。対応した場所にポーンが置かれ、これで陣形が完成する。

「これに対する帝都の人口は大体二十万ですが、七割は戦えない人間なので敵は実質六万人。正直これほどの戦力をかき集めれば、正面から戦うだけでも陥すのは簡単ですが、ここはあえて敵に恐怖を植え付け損害を大きくするために、この作戦をとります」
「なるほど。これが、お前たちの立てた作戦の全容か。ふむ、悪くないではないか」
「数字にすると思ったより簡単そうだけどねぇ」
「ああ、戦闘向きの俺ら幹部だけでも、数日で落とせそうなんだからな」
「油断はいかんよ、油断は。敵がこちらの伏兵を警戒していないことが前提なんだ、本気で迎撃されたら容易くは落とせない。一応予備プランも練っておこう」

 思いつく限りの事態を想定し、議論し、対策を立てていく。そして案も煮詰まり、会議もお開きに差し掛かったところで__

「なあ、エイジよ、このあと時間はあるか?」

 ベリアルが唐突に問う。

「ええと……部隊への情報伝達や資材の確認や調整の作業がありますが……まあ明日もありますし大丈夫でしょう。して、何用でございましょうか?」
「私と、一戦交えて欲しい」
「「「は⁉︎」」」

 あまりにも突拍子もない言葉に、皆が固まる。

「な、何故でしょうか?」
「実はな、エルフとの会合の時やこの村を制圧するときに実感したのだ。腕が衰えていると。最後に出撃したのは、ええと……まあ、すぐには思い出せないくらいだ。近頃全く全力で戦っていなかったからな、相当なブランクがある。これから大事な戦いだ。体を慣らしたいのだが、良いかな?」
「はい! 魔王様の申し出であれば喜んで! 私にとっても魔王様と闘うことは、良い特訓にもなりますから。何より、お相手できて光栄でございます!」


 という訳で拠点から離れ、誰もいない場所へ幹部だけで向かった。
「ところで魔王様、質問なのですが」
「何だ?」

「魔王様って、もしや変身できますか?」
「「「なッ⁉︎」」」

 その言葉に、幹部達が勢いよくエイジの方を振り返る。

「フッ、ハッハッハッハ‼︎」
「ですよね、そんな訳ないですよね」

「いやいや違うさ。お前の察しの良さに驚いただけだ。変身できると言った覚えはなかったからな。私の変身を見た事があるのは、ごく一部の古参や幹部格だけだ」

 要は、幹部らが驚いたのは魔王の言葉にではなく、エイジが言い当てたことだ。

「因みに私の変身は真の力を隠すためのカムフラージュであり、平常時の余計な魔力消費を抑えるためでもある」

 ベリアルはそんな解説をしているが、エイジはどんな変身をするのだろうかという方に意識が向き、あまり聞こえていない。

「では、私から問題だ。さて、私はどんな変身をするでしょう?」
「ええと、それは……すみません、見当つかないです」

「む、そうか。では一つ。私は四段階の変身を持っている。お前が強くなればいずれ、全ての変身を見せられるだろう」
「私が、強く?」
「ああ。お前には、まだまだ伸び代がある。その特殊能力と潜在能力が成長すれば、私が本気を出すに能う相手となりうるかもしれぬからな」

 エイジとベリアル、実は二人は未だ模擬戦すらしておらず、互いの本当の力量を知らない。ベリアルは伝聞と経験から判断できたが、エイジにとってベリアルは未知。大技をかつて一度目にしただけである。自身の主君として弱くあって欲しくもないが、かと言って第一形態で圧倒されても面白くないな、と思うのであった。

「以前ははぐらかされましたが、どーせ魔王様って中身あるんでしょう?」
「ああ、あるぞ。本体は悪魔に近い。だが、この装甲を脱ぐつもりはもうない」

「ベリアル様は、種族が『魔王』みたいなとこがあるからねぇ。生まれつきの超天才児、麒麟児だったってワケ」
「余計なこと言うな」
「はいはーい」

 諌められ口を噤むノクト。他にも彼は色々知っていそうだ、掘れば掘るほど出てきそうなものである。

「だが今回は、変身しないつもりだ。まだ体が慣れていないうえ、これから大事な戦いなのだ。あまり消耗したくはない。それに、大きすぎる魔力を出すと敵に感づかれる恐れがある。とはいえ、お前が変身するに相応しい相手であれば、する可能性もあるが」
「はい、承知しました。ですが、こっちは指揮中心で戦闘をしない身。割と本気で戦わせてもらいます。貴方は手加減して戦えるような相手ではありませんから」
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