魔王国の宰相

佐伯アルト

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Ⅱ 魔王国の改革

9節 宰相のお仕事 其の二 ⑥

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 魔王城の勤務時間は、昼の部の始業時間は九時、そして定時は午後の十八時半である。そして夜勤が、十八時から九時までを二分割した、計三つのブロックに分かれている。といっても、エイジがスケジュール管理しやすいからと設定しただけであり、実際守られているところはデスクワーク系など少数派。

 魔族は食事が必須な者は少なく、また通勤に時間も掛からない。入浴する者は少ないし、丈夫ゆえ大して休みは必要ない。そのため、定められた時間以上に働けるのだ。ただ、過労ゼッタイダメなエイジが、基準を設けることに余念がなかっただけのこと。

 因みに__

「そういえば、この勤務時間ですと終業後は結構暇な時間が長いように感じるのですけれど、どうしてですの?」
「それは……オレがそうしたいと思ったから。確かに、十時間寝ても時間余るくらいだが、言うほど暇でもないんだぜ? 娯楽も無いし、その間オレは鍛錬や勉強をしているのさ。他には、緊急の仕事があれば、オレ以外解決できないから出張るしかなくなるし。こんなことやってると、時間がいくらあっても足りやしない」
「わお、ストイックですわね~」

 エイジが定時間だけしか働かないなりにも、こんな訳があった。

 さて、魔王城勤務の魔族たちの仕事は、言ってしまえば公務員のようなもの。魔王城は県庁と考えていいかもしれない。つまり、仕事をすればするだけいい一般企業とは少し異なるのである。

 しかし、そのままでは折角の魔族の能力を持て余し、労働力が無駄になる。故に、多くの魔族は進んで残業に励んでいる。それでは、その時間に一体何をしているかというと、エイジが掲げる次なる目標に向けて少しでも準備が楽になるようにと、木材鉱石などの資源の採集とその加工である。

 そんな彼らにトラブルがあった時のために、夜中も総務は運営している必要があった。とはいえ、夜中に舞い込んでくる仕事など、大半は結局エイジが叩き起こされては処理に奔走する羽目になるので、深夜の総務はほぼ必要ないとされて、最近は午前二時以降は閉まっているが。


 さて、件の宰相であるが__

「よし、再開といこうか」

 執務室に居た。退室してから速攻布団と合体、長いこと一つになっていたのだが、日付が変わる頃に目が覚めてしまい、することがないからと仕事部屋に戻ってきていた。完全に生活リズムが崩壊したようだ、昼夜逆転生活の始まりだ。

 執務室は魔王国の頭脳、CPUとも言える。そのため、防犯に物理的な鍵と魔術的な鍵の二種で厳重にかけられている。因みに、普通に解くと警報が鳴ったり、別の魔術が発動するなどするため回りくどい解き方をする必要があるなど、対策は万全である。例えば、解除するには五段階の術式を解かなければならないのだが、難易中易難の構成のうち、中で一回、特定のタイミングでミスをしなければならなかったりするのだ。このセキュリティ、玉座以上に固いまである。

 そんな扉を、設計者たるエイジは慣れた調子でさらりと開け、真っ暗な部屋の壁にある魔導松明照明をつけて奥へ進む。

「よしよし、しっかりされてるな」

 机の上は片付き、床上に目に見えるゴミはなく、書架の中も整えられ鍵もかけられていたことに満足しつつ、ある机の資料をいくつか手に取り読んでいく。

「よし、これだ」

 それらは夕方、自分がいなくなったことで片付けきれなかった書類だ。それをどうするかというと、勿論__

「久しぶりの、残業タイムといこうか」

 別に優先度は低いので無理してやる必要もないのだが、やっておいて損はない。どうせ昼間だと多くの邪魔が入るから。

 そんなこんなで、机について二時間強。

「あれ、もうこんな経っていたか」

 壁掛け時計を見て驚く。普段は人の出入りや話し声で騒がしく、緊急の案件を直接持ち込まれたり秘書と雑談したりと、作業を中断したり集中を妨げたりする要素が結構あるのだが、深夜で普段閉まっているからかとても静かであった。では、何故そんなに集中していた彼が手を止めたか。それは、俄に城内が騒がしくなったからである。

「昼夜問わずかよクソッタレが‼︎」

 昼間の件もあり、とっても嫌な予感を察したエイジ。しかし、今回は考え無しにここを飛び出すわけにはいかない。まずは落ち着いて作業の終わったものとそうでないものを分別し、片付け、照明を落とし、部屋から出て鍵をかける。事件に対応しているうちに、反乱分子に部屋をぐちゃぐちゃにされたら、絶望どころの騒ぎではなくなるからだ。

「さて、騒がしいのは……二階と……地下?」

 地下といえば倉庫階である。重要な物資が多く眠っているそっちは本気で何も起こらないでいてくれ、と強く願いながら下へ向かうのだった。
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