上 下
99 / 101
幼少期

99 父上と母上との話し合い

しおりを挟む
「で、何がどうなって陛下から手紙が来ることになったんだ?」

 応接室へと入り、父上と母上の正面に座るとおもむろに父上が切り出した。

「父上にもお伝えしましたが、バルディ領に南大陸からの侵略者がやってきたので、それを撃退したまでです」

「はぁ……バルディ領を守ったことは素晴らしい、見事だ。……だが、なぜ私に辺境伯になれと言われる?」

「それは父上が現伯爵だからでしょう。伯爵家の人間が功を成せば、それは伯爵の功績となりますゆえ」

「息子の功績で陞爵しろと? くだらん」

「それを決めるのは私ではなく、陛下ですので」

 父上が俺に文句を言ってくるが、お門違いだし俺に言われても困る。
 俺としても辺境伯になるなんて思ってなかったし、そもそもこんなに早く陞爵の手紙が届くなんてわかるはずがない。
 というか、陛下は父上に辺境伯になるように言っているのか……これは、継承までは辺境伯子息で通じるか?
 継承時期ならバルディ家も伯爵位になっているし、そしたら伯爵令嬢になったレナと結婚すればいいわけだ。

「……マックス。我が家の継承の仕方は知っているな?」

「爵位の継承ですか? 候補者が十分に爵位を継げると当代が判断したら……ですよね?」

「そうだ。今回の件で領地の防衛力、対応力、判断力、全てにおいて爵位を継ぐに値すると判断する」

「は!?」

「もちろん成人するまでは私やペトラが補佐を行う。故に、この時よりお前が伯爵だ」

「父上!! 自分が辺境伯になりたくないからって!」

「当り前だっ! ただでさえ陛下に呼び出されるというのに、辺境伯同士の話し合いなどに参加したら領地にほとんどいられないではないかっ!」

「父上がいなくとも、爺様が周辺領を見回ってくださっているので問題はありませんよ」

「体が鈍る!」

「鈍っているくらいがちょうどいいのでは?」

 父上が情けないことを言っているが、ゲルハルディ領が辺境伯領になれば周辺の友好領……少なくともバルディ、カレンベルク、ヒッペ、エンケは傘下に置かれる。
 現在では領境の街道には関が置かれて審査が入るわけだが、傘下に置かれればまとめてゲルハルディ辺境伯領となるので騎士団はフリーパスで通れるようになる。
 それだけでも手間は減るし、俺や爺様が居れば正直父上は王都に出ずっぱりでも問題はない。……どうせ領主としての仕事も母上がしているし。

「マックス。領主としての仕事をしているものとしても、マックスが初代辺境伯になるのが良いと思いますよ」

「ペトラ! そうだよな!」

「貴方は黙っててください」

 母上のフォローに父上が喜ぶが、その母上自身に一蹴されるという珍事が起きている。

「母上、なぜ私が初代のほうがよいのですか?」

「信頼度の違いです。ゲルハルディ領内、あるいは友好領はなんとかなりますが、王都や中央に対しては功績を上げた本人が辺境伯となる方が印象が良いでしょう」

「まだ8歳……いや、9歳なんですが?」

 そうだそうだ。旅に出てからちょうど1年が経っているから、俺も9歳になってるんだった。

「陛下も貴族学園在学中に王位に就いています。それ以外にも様々な事情で成人より前に爵位を継ぐこともあります」

「それはそうですが……」

 それにしたって9歳での爵位継承は異常では? しかも、父上も母上も健在なんですが?

「と・に・か・く! マックスが初代辺境伯。これは譲れません」

 ふむ、領主としての仕事を一任されている母上が言うならその方が良いんだろうけど。
 なんか、母上の顔が女になってるのが気になるんだよな。まさかとは思うが、未だにラブラブだからって父上が辺境伯になったら会えなくなるのが寂しい……とかじゃないよな?

「……父上、母上。そこまで言うのなら、初代辺境伯となるのもやぶさかではありません」

「うむ!」

「ホッとしましたよ」

 まあ、俺の身から出た錆というか……破滅回避のために行動した結果だからな、仕方がないか。

「ですが! 条件があります!」

「む?」

「まずは私とレナの婚姻についてです。辺境伯となれば男爵令嬢のレナとの婚約は継続できないでしょう」

「それならば、心配は無用ですよ、マックス。お義父様からの手紙で、仮婚姻式の準備は済んでいますからね」

 おおっ! 流石は母上。俺の心配を察知して、婚姻の準備を進めてくれていたのか……いや、待てよ。ってことは、母上の中では俺が辺境伯になるのは確定だったってこと?
 まあ、いいか。

「次に正式に辺境伯となるのは成人以後ということです。辺境伯同士の会合には出ますが、父上や母上も隠居できるとは思わないでください」

「まあ、それはわかっておるよ」

「最後に……私が成人するまでに死んだ場合はアンナを次期辺境伯に……それとレナの身柄の安全もお願いします」

「マックス、それは!」

「父上もわかっているでしょう? 辺境伯になれば悪意にさらされる。私としても自身の命を軽んじるつもりはありませんが、何が起こるかわかりません」

 なにより、貴族学園に入学すればゲームの主人公やヒロインたちと嫌でもかかわることになる。
 悪役令息となり破滅する未来は回避できているつもりでいるが、本当にそうならないという保証は今のところ全くないからな。

「……わかった。ゲルハルディ伯爵として、マックスの父として確かに請け負った」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者の幼馴染は領主の息子に嫁ぎました

お好み焼き
恋愛
結局自分好みの男に嫁いだ女の話。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

ねえ、今どんな気持ち?

かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた 彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。 でも、あなたは真実を知らないみたいね ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・

【完結】死がふたりを分かつとも

杜野秋人
恋愛
「捕らえよ!この女は地下牢へでも入れておけ!」  私の命を受けて会場警護の任に就いていた騎士たちが動き出し、またたく間に驚く女を取り押さえる。そうして引っ立てられ連れ出される姿を見ながら、私は心の中だけでそっと安堵の息を吐く。  ああ、やった。  とうとうやり遂げた。  これでもう、彼女を脅かす悪役はいない。  私は晴れて、彼女を輝かしい未来へ進ませることができるんだ。 自分が前世で大ヒットしてTVアニメ化もされた、乙女ゲームの世界に転生していると気づいたのは6歳の時。以来、前世での最推しだった悪役令嬢を救うことが人生の指針になった。 彼女は、悪役令嬢は私の婚約者となる。そして学園の卒業パーティーで断罪され、どのルートを辿っても悲惨な最期を迎えてしまう。 それを回避する方法はただひとつ。本来なら初回クリア後でなければ解放されない“悪役令嬢ルート”に進んで、“逆ざまあ”でクリアするしかない。 やれるかどうか何とも言えない。 だがやらなければ彼女に待っているのは“死”だ。 だから彼女は、メイン攻略対象者の私が、必ず救う⸺! ◆男性(王子)主人公の乙女ゲーもの。主人公は転生者です。 詳しく設定を作ってないので、固有名詞はありません。 ◆全10話で完結予定。毎日1話ずつ投稿します。 1話あたり2000字〜3000字程度でサラッと読めます。 ◆公開初日から恋愛ランキング入りしました!ありがとうございます! ◆この物語は小説家になろうでも同時投稿します。

魅了アイテムを使ったヒロインの末路

クラッベ
恋愛
乙女ゲームの世界に主人公として転生したのはいいものの、何故か問題を起こさない悪役令嬢にヤキモキする日々を送っているヒロイン。 何をやっても振り向いてくれない攻略対象達に、ついにヒロインは課金アイテムである「魅惑のコロン」に手を出して…

原産地が同じでも結果が違ったお話

よもぎ
ファンタジー
とある国の貴族が通うための学園で、女生徒一人と男子生徒十数人がとある罪により捕縛されることとなった。女生徒は何の罪かも分からず牢で悶々と過ごしていたが、そこにさる貴族家の夫人が訪ねてきて……。 視点が途中で切り替わります。基本的に一人称視点で話が進みます。

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

処理中です...