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幼少期

100 仮婚姻式

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 前世では恋人がいる期間はあったものの、仕事が忙しかったり、価値観が違ったりして、ついぞ結婚することはなかった。
 そう、そうなんだけど。いくらなんでも9歳で結婚するってのはどうなんだよ。

 この世界の結婚は前世とほぼ同じというか、新郎はタキシードを着て、新婦はウェディングドレスを着る。
 新郎新婦は神殿で永遠を誓い合い、貴族で初婚ならば処女検査……新郎は童貞であり、新婦は処女であることを専用のアーティファクトで調査される。
 前世ならセクハラだの個人情報だの言われそうだが、この世界では当たり前のことで血統を大事にする貴族にとっては重要なことになってる。
 ま、俺もレナも9歳でそもそもそういうことができる年齢に達していないので、検査自体は問題ないんだがな。

「レナ……最後の確認だ。俺と結婚してくれるか?」

「もちろんですよ、マックス様」

「……結婚してしまえば離れられないんだぞ?」

「もとより離れるつもりなんてありません。マックス様の隣が私の居場所ですから」

 俺はこれまで……いや、この瞬間でもレナと結婚するということに対して引け目を持っている。
 レナは俺の影として教育されていて、ゲームでもマックスの命令は何でも聞き、それがゆえにサブヒロインとして主人公に搾取されてきた。

 だというのに、この世界、ゲームとは違う現実でもマックスに関わらせ続けていいのかと……マックスと結婚したことで不幸になるのではないのかと危惧している。
 だから、婚約状態を引き延ばして、レナが好きになれる人、レナを幸せにしてくれる人が見つかったら、そちらに譲るつもりでいた。
 勘違いしないでほしいが、レナのことが嫌いということではない。レナの容姿は俺の好みど真ん中だし、性格だって傍にいて負担にならない……むしろいなくなることが考えられないほどかみ合っている。

「お二人とも、準備はよろしいですかな?」

「「はい」」

 はあ、覚悟を決めるしかないな。俺が辺境伯となるなら、レナとの婚姻は必須。
 だったら、俺の全身全霊をかけてレナを幸せにするしかない。

「新郎新婦の入場です」

 前世とは違い、神殿での結婚式は両家の関係者しか入れず、今回で言うなら父上と母上、それにレナの父母以外は入室できない。
 一応、前世のように披露宴があるから友人や親戚に対してはそちらでお披露目となるが、仮婚姻式では披露宴は行わないので親戚なんかへの披露は成人後だな。

「ご列席の皆様。本日は年若い2人が神と国王陛下に対して、お互いの将来を誓う場となります」

 神父が結婚式の意義などを宣言しているが、貴族同士の結婚ということで神だけでなく陛下に対しても誓うことになる。
 ま、要するにヴァイセンベルク王国を裏切らない、国益にかなう行動をする、真摯にお互いを支えあう……こんな感じだな。

「新郎、汝は健やかなるときも病めるときも新婦を愛し続ける事を誓いますか?」

「はい」

「新婦、汝は健やかなるときも病めるときも新婦を愛し続ける事を誓いますか?」

「はい」

「新郎、そして新婦、これから処女検査を行います。目の前にある水晶に手を当ててください」

「「はい」」

 神父にしても9歳の子供が経験済みとは考えていないだろうが、貴族の結婚は陛下に通達する必要がある以上、検査をしないということは出来ない。
 俺たちの目の前にあるのはダンジョンから産出されるアーティファクトで、特定の情報を入力することで触れた人間の情報を照合することが出来る。
 神殿が保有しているのは童貞、あるいは処女を捨てているかに特化していて、経験済みなら水晶は光らず、未経験なら水晶が光り輝く。

「はい、よろしいですよ」

 当然ながら、俺もレナも目の前の水晶に触れた瞬間、水晶がまばゆいばかりに光り輝く。

「では、誓いのキスを」

「「はい」」

 検査も無事に済み、俺はレナの傍に寄る。

「レナ、俺の全身全霊をかけて幸せにすると誓うよ」

「はいマックス様。私もマックス様を幸せにすると誓います」

 周りからみたらお遊戯に見えるような年齢だが、この場にいる全員はこの仮婚姻式が正式なものであるとわかっている。
 仮とはいえ婚姻式は婚姻式。誓いのキスが済めば、俺とレナは夫婦となるのだ。
 だから、お互いにお互いを幸せにすると宣言し、そして誓いのキスをする。

 これまでも色々なことがあった。前世の記憶を取り戻し、ヒロインから婚約しないと言われ、ダンジョンを攻略し、バルディ領を救った。
 だが、まだまだ途上。むしろゲームとしての本番はこれからだ。
 だからこそ、俺は全身全霊をかけて破滅を回避し、レナとの将来を幸せなものにしなければならない。

 そう、心に誓いつつ、レナと誓いのキスをする。
 マックスとなって初めてのキスは、レナの柔らかい唇を感じ、いつまでもしていたいと思わせるものだった。
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