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幼少期

82 バルディ領の現状を知る

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 バルディ領から伝令に出ていたルッツと別れて、俺たちは全速力でバルディ領へと向かった。
 もちろん、本当に全速力を出せば馬がバテてしまうのは明白なので馬を使い潰さない範囲でだが。

「マックス様……バルディ領は大丈夫ですよね?」

「レナ……大丈夫だ、と気休めを言うのは簡単だ。だが、現実はそうはいかないだろう。……でも、あえて言う、大丈夫だ」

「そう……ですよね。伯父さまのことを信じましょう」

 バルディ領の領主であるアントン……レナの伯父はそこそこの能力を持っているし、不審船にこちらから攻勢に出ることはないだろう。
 心配なのは領民だな。……バルディ領は交易港があることもあり、血気盛んな漁師が多い。
 交易船と漁船とでは戦いにならないし、先走らないとは思うが……下手をしたら領民に犠牲者が出ているかもしれないな。

「とにかく、今できる全速力でバルディ領へと向かうぞ!」

――――――――――――

「アントン! ゲルハルディが一子、マックスがやってきたぞ!」

「マックス様!? なぜここへ!? 道中でルッツとは会わなかったのですか!?」

「会った。会ったからこそ、ここへやってきたのだ」

「マックス様……」

 バルディ領へと着いたときには周囲は寝静まるような時間になっていた。
 道は整備されているし、俺が光魔法を使えはしたが、街灯も存在しない道を暗くなってから馬で走るのは正直寿命が縮んだ。

「アントン、概要はルッツに聞いた。不審船が出たそうだな」

「マックス様、事態はさらに悪くなっています」

「最初から話せ」

「はっ! 昨日の午後に見慣れぬ旗を掲げた大型船が我が領の海域にやってきました。交易国の人間に聞いたところ、敵対国の旗であることを確認しました」

「うむ、そこまではルッツの報告通りだな」

「確認後、ルッツを報告に出したのですが……本日の正午過ぎに一部の領民が漁へと出ると言い出し……」

「……止められなかったか」

「申し訳ありません」

「いや、バルディ領はアントンが治める地だ。俺からどうこう言うことは越権だろう。……それで?」

「……大型船に近づきすぎた一隻が……沈められました」

 アントンの報告に俺は絶句した。
 周辺4領への視察など言い訳をせず、バルディ領だけに注力していれば……いや、いくらレナの故郷とはいってもバルディ領だけに1年も滞在するなど許されるわけがない。
 それはわかっている……だが、グルグルと思考の海に溺れてしまう。

「……マックス様?」

 レナの呼び声にハッとする。
 そうだ、俺の行動について考えるのは後だ。
 まずは、バルディ領と領民のことを考えなければ。

「……アントン、犠牲者は何人だ?」

「……3名です」

 3人……俺の失策のせいで、3人もの領民が命を落とした。
 悔やむことは簡単だ。
 だが、それ以上にこれからの行動でこれ以上犠牲者が出ないようにしないといけない。

「アントン、その後の大型船の動きは?」

「徐々に港に近づいてはいますが、今は平穏を保っています。……おそらくは増援待ちかと」

「今は1隻ということか?」

「大型船は1隻、その周囲に中型船が2隻で現れましたが、現在は中型船が10隻に増えています」

 そうだよな、いくら大型船で攻め込んでも船に載せられる人数には限りがある。
 大型船を先に到着させて威圧し、戦力がそろった段階で攻め込むというのは定石だろう。

「素早く行動しなければ危ないということか」

「ですが、流石に暗闇の海で航行できるだけの腕は無いようです。増援が現れるのは昼過ぎからのようです」

 とはいえ、モタモタしていれば危ないのは確かだろう。

「アントン、明朝に敵船への攻撃を開始する。バルディ領に常駐する兵士、騎士、それに有志の戦力をかき集めよ」

「マックス様……これはバルディ領への攻勢です。マックス様が矢面に立つ必要はありません」

「否! ルッツにも言ったが、友好領……まして、婚約者の出身領を見捨てて、何が領主か! 海戦となるゆえ、船もありったけかき集めておけ!」

 アントンの言いたいこともわかる。主家……しかも、たかが8歳の子供を最前線に立たせるなど申し訳が立たないのだろう。
 だが、俺にだってゲルハルディ家の……辺境に生きる貴族の血が流れているんだ。
 領民を見捨てて自分一人だけが安全な場所にいるなど、どうしてできようか!

「アントン……勇敢な領民に最後の挨拶をしたい。襲撃された領民が安置されている場所まで案内を頼む」

「……はっ! 私は明日の準備に取り掛かりますので、執事に案内させましょう」

 アントンは俺の命令を果たすために動き始め、俺たちは大型船に落とされた漁船に乗っていた領民が安置されている場所まで行く。
 本当はこの非常時に少数の被害者へ見舞うのは良くないのだが……それでも、俺は自分の判断の結果を受け入れなければならない。
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