気づいたら美少女ゲーの悪役令息に転生していたのでサブヒロインを救うのに人生を賭けることにした

高坂ナツキ

文字の大きさ
65 / 140
幼少期

65 ローズマリー嬢の初恋の決着

しおりを挟む
 お茶会以降のローズマリー嬢は心を入れ替えたように、貴族の矜持を持った人間へと成長しつつある。
 領内の見回りで父上は同席しなかったが、夕食の席では母上へと先触れなしに訪問したことを謝罪し、レナと一緒に淑女教育も受けることにしたようだ。
 本来なら自領に帰って教育を受けろというところだが、こちらとしてもこれから交流が深くなるであろうエルメライヒ公爵家の次期様の教育は重大事なので了承する形となった。

 代わりといってはなんだが、ローズマリー嬢の侍女には手の空いた時間にこちらの使用人に教育をしてもらうことになり、お茶の淹れ方や所作などを見てもらっている。
 ゲルハルディ領に引きこもっていれば、そこまでの水準は求められないが、王都に向かうことも増えそうなので渡りに船ってところだな。
 ま、今回のように爵位が上の人間が来ることもあるから使用人のレベルアップは頭を悩ませていたところだし、ちょうどいいだろう。

「ローズマリー嬢、今日は騎士団の見学に行くか?」

「……大丈夫かしら?」

「クルトのことか? クルトにはこっちから説得したから問題ないとは伝えているが、心配なら訓練場に着いたら一言声をかければいいんじゃないか?」

「ローズマリー様、私も傍にいますので」

「……うん、レナが傍にいてくれるのなら行ってみようかしら」

 あの時から3日は経っているが、未だに騎士団の見学は出来ていないからな。
 一応、ローズマリー嬢の目的は騎士団を見て、本当に辺境に嫁ぐことが出来るか否かの判断を行うこととなっている。
 このままだと、淑女教育以外は本当に遊んでいたことになるし、エルメライヒ公爵に顔向けできないことになるからな。そろそろ見学もしてもらわないと困る。

「じゃ、今日こそは騎士団を見学してもらうかね」

「わかりましたわ」

 ローズマリー嬢、俺、レナ、それにローズマリー嬢の侍女と護衛を連れて、騎士団の訓練場へと向かう。
 ま、前にも言ったかもしれんが、屋敷と騎士団の訓練場はすぐそこなので、さほど時間はかからずに着くし、ローズマリー嬢が嫌になれば侍女と護衛を連れて直ぐに戻れる場所だ。

「マックス様、訓練の参加へいらっしゃったのですか?」

「お、クルト。ま、俺は参加するがレナとローズマリー嬢は見学だな」

「マックス、話しても構わない?」

「クルト、ローズマリー嬢がクルトに話したいことがあるそうだ」

「はっ!」

 ローズマリー嬢に対して、俺がいちいちクルトに取り次いでいるのも意味がある。
 クルトは俺の配下だ。たとえ爵位が上の令嬢でもそうやすやすと話しかけるな。そういう意味がある。
 ま、そもそも騎士とはいえ使用人が他家の人間に直答することはまず許されないんだが、今回の一件は明らかにローズマリー嬢がクルトに話しかけているからな。
 俺が返答したり、クルトが俺に対して返事を告げたりすると、逆に面倒なことになる。

「クルト、昨日は急に私の元に来いなどと不躾なことを申しました。エルメライヒ公爵家に来てほしいことに変わりはありませんが、クルトにその気がないのならもう告げることはありません」

「はっ! エルメライヒ公爵令嬢に求められたことは一生の誇りとして忘れずにおきます。私はゲルハルディ領にて、エルメライヒ公爵領、ひいては王国の一助となれるように努めてまいります」

「私もゲルハルディ領にて私たちの安寧を守るために戦っている人がいると心に刻みましょう」

「クルト、手間を取らせたな。先に行って、騎士団の連中にお客さんが来るから気合を入れるように伝えてくれ」

「はっ!」

 謝罪のしゃの字も出なかったが、騎士であるクルトに対して公爵令嬢であるローズマリー嬢が頭を下げるわけにはいかない。
 クルトもそれがわかっているからこそ、それに対しては突っ込みもせずにローズマリー嬢の要請を今一度断ることで手打ちとした。
 ま、現代に生きていた時にはわからなかったことだが、簡単に頭を下げることは叶わない立場の人間もいるってことだ。

「マックス、レナ、私は公爵令嬢としてきちんと矜持のある行動をしたでしょうか?」

「はい、ローズマリー様。素晴らしい立ち居振る舞いでした」

「立派でしたよ」

 直ぐにレナが、そして次いで俺がローズマリー嬢を褒める。
 ま、そもそものローズマリー嬢の振舞い方が問題だっただけというのはあるが、さっきのクルトとのやり取りは高位貴族の令嬢としては問題ないだろう。
 傲慢でもなく、きちんと矜持をもって相対できたと評価できる。

「ローズマリー嬢もまだまだ幼いのです。いろいろと間違えればいい。それを正すのも友人の役目ですよ」

「本当に……私は良い友達を持ちましたわ!」

 ま、ローズマリー嬢がラスボス悪役令嬢になられても寝覚めが悪いからな。俺は俺でローズマリー嬢がまともな貴族になれるように、これからも協力していきますかね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神々に見捨てられし者、自力で最強へ

九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。 「天職なし。最高じゃないか」 しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。 天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

わたし、不正なんて一切しておりませんけど!!

頭フェアリータイプ
ファンタジー
書類偽装の罪でヒーローに断罪されるはずの侍女に転生したことに就職初日に気がついた!断罪なんてされてたまるか!!!

処理中です...