気づいたら美少女ゲーの悪役令息に転生していたのでサブヒロインを救うのに人生を賭けることにした

高坂ナツキ

文字の大きさ
上 下
65 / 125
幼少期

65 ローズマリー嬢の初恋の決着

しおりを挟む
 お茶会以降のローズマリー嬢は心を入れ替えたように、貴族の矜持を持った人間へと成長しつつある。
 領内の見回りで父上は同席しなかったが、夕食の席では母上へと先触れなしに訪問したことを謝罪し、レナと一緒に淑女教育も受けることにしたようだ。
 本来なら自領に帰って教育を受けろというところだが、こちらとしてもこれから交流が深くなるであろうエルメライヒ公爵家の次期様の教育は重大事なので了承する形となった。

 代わりといってはなんだが、ローズマリー嬢の侍女には手の空いた時間にこちらの使用人に教育をしてもらうことになり、お茶の淹れ方や所作などを見てもらっている。
 ゲルハルディ領に引きこもっていれば、そこまでの水準は求められないが、王都に向かうことも増えそうなので渡りに船ってところだな。
 ま、今回のように爵位が上の人間が来ることもあるから使用人のレベルアップは頭を悩ませていたところだし、ちょうどいいだろう。

「ローズマリー嬢、今日は騎士団の見学に行くか?」

「……大丈夫かしら?」

「クルトのことか? クルトにはこっちから説得したから問題ないとは伝えているが、心配なら訓練場に着いたら一言声をかければいいんじゃないか?」

「ローズマリー様、私も傍にいますので」

「……うん、レナが傍にいてくれるのなら行ってみようかしら」

 あの時から3日は経っているが、未だに騎士団の見学は出来ていないからな。
 一応、ローズマリー嬢の目的は騎士団を見て、本当に辺境に嫁ぐことが出来るか否かの判断を行うこととなっている。
 このままだと、淑女教育以外は本当に遊んでいたことになるし、エルメライヒ公爵に顔向けできないことになるからな。そろそろ見学もしてもらわないと困る。

「じゃ、今日こそは騎士団を見学してもらうかね」

「わかりましたわ」

 ローズマリー嬢、俺、レナ、それにローズマリー嬢の侍女と護衛を連れて、騎士団の訓練場へと向かう。
 ま、前にも言ったかもしれんが、屋敷と騎士団の訓練場はすぐそこなので、さほど時間はかからずに着くし、ローズマリー嬢が嫌になれば侍女と護衛を連れて直ぐに戻れる場所だ。

「マックス様、訓練の参加へいらっしゃったのですか?」

「お、クルト。ま、俺は参加するがレナとローズマリー嬢は見学だな」

「マックス、話しても構わない?」

「クルト、ローズマリー嬢がクルトに話したいことがあるそうだ」

「はっ!」

 ローズマリー嬢に対して、俺がいちいちクルトに取り次いでいるのも意味がある。
 クルトは俺の配下だ。たとえ爵位が上の令嬢でもそうやすやすと話しかけるな。そういう意味がある。
 ま、そもそも騎士とはいえ使用人が他家の人間に直答することはまず許されないんだが、今回の一件は明らかにローズマリー嬢がクルトに話しかけているからな。
 俺が返答したり、クルトが俺に対して返事を告げたりすると、逆に面倒なことになる。

「クルト、昨日は急に私の元に来いなどと不躾なことを申しました。エルメライヒ公爵家に来てほしいことに変わりはありませんが、クルトにその気がないのならもう告げることはありません」

「はっ! エルメライヒ公爵令嬢に求められたことは一生の誇りとして忘れずにおきます。私はゲルハルディ領にて、エルメライヒ公爵領、ひいては王国の一助となれるように努めてまいります」

「私もゲルハルディ領にて私たちの安寧を守るために戦っている人がいると心に刻みましょう」

「クルト、手間を取らせたな。先に行って、騎士団の連中にお客さんが来るから気合を入れるように伝えてくれ」

「はっ!」

 謝罪のしゃの字も出なかったが、騎士であるクルトに対して公爵令嬢であるローズマリー嬢が頭を下げるわけにはいかない。
 クルトもそれがわかっているからこそ、それに対しては突っ込みもせずにローズマリー嬢の要請を今一度断ることで手打ちとした。
 ま、現代に生きていた時にはわからなかったことだが、簡単に頭を下げることは叶わない立場の人間もいるってことだ。

「マックス、レナ、私は公爵令嬢としてきちんと矜持のある行動をしたでしょうか?」

「はい、ローズマリー様。素晴らしい立ち居振る舞いでした」

「立派でしたよ」

 直ぐにレナが、そして次いで俺がローズマリー嬢を褒める。
 ま、そもそものローズマリー嬢の振舞い方が問題だっただけというのはあるが、さっきのクルトとのやり取りは高位貴族の令嬢としては問題ないだろう。
 傲慢でもなく、きちんと矜持をもって相対できたと評価できる。

「ローズマリー嬢もまだまだ幼いのです。いろいろと間違えればいい。それを正すのも友人の役目ですよ」

「本当に……私は良い友達を持ちましたわ!」

 ま、ローズマリー嬢がラスボス悪役令嬢になられても寝覚めが悪いからな。俺は俺でローズマリー嬢がまともな貴族になれるように、これからも協力していきますかね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢は薬師を目指す~悪役令嬢ってなんですの?~【短編版】

ゆうの
ファンタジー
 公爵令嬢、ミネルヴァ・メディシスは時折夢に見る。「治癒の神力を授かることができなかった落ちこぼれのミネルヴァ・メディシス」が、婚約者である第一王子殿下と恋に落ちた男爵令嬢に毒を盛り、断罪される夢を。  ――しかし、夢から覚めたミネルヴァは、そのたびに、思うのだ。「医者の家系《メディシス》に生まれた自分がよりによって誰かに毒を盛るなんて真似をするはずがないのに」と。  これは、「治癒の神力」を授かれなかったミネルヴァが、それでもメディシスの人間たろうと努力した、その先の話。 ※ 様子見で(一応)短編として投稿します。反響次第では長編化しようかと(「その後」を含めて書きたいエピソードは山ほどある)。

女神様の使い、5歳からやってます

めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。 「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」 女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに? 優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕! 基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。 戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。

この悪役令嬢には悪さは無理です!みんなで保護しましょう!

naturalsoft
恋愛
フレイムハート公爵家令嬢、シオン・クロス・フレイムハートは父に似て目付きが鋭くつり目で、金髪のサラサラヘアーのその見た目は、いかにもプライドの高そうな高飛車な令嬢だが、本当は気が弱く、すぐ涙目でアワアワする令嬢。 そのギャップ萌えでみんなを悶えさせるお話。 シオンの受難は続く。 ちょっと暇潰しに書いたのでサラッと読んで頂ければと思います。 あんまり悪役令嬢は関係ないです。見た目のみ想像して頂けたらと思います。

婚約破棄されたけど、逆に断罪してやった。

ゆーぞー
ファンタジー
気がついたら乙女ゲームやラノベによくある断罪シーンだった。これはきっと夢ね。それなら好きにやらせてもらおう。

転生ヒロインは乙女ゲームを始めなかった。

よもぎ
ファンタジー
転生ヒロインがマトモな感性してる世界と、シナリオの強制力がある世界を混ぜたらどうなるの?という疑問への自分なりのアンサーです。転生ヒロインに近い視点でお話が進みます。激しい山場はございません。

一家処刑?!まっぴら御免ですわ! ~悪役令嬢(予定)の娘と意地悪(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

王太子に転生したけど、国王になりたくないので全力で抗ってみた

こばやん2号
ファンタジー
 とある財閥の当主だった神宮寺貞光(じんぐうじさだみつ)は、急病によりこの世を去ってしまう。  気が付くと、ある国の王太子として前世の記憶を持ったまま生まれ変わってしまうのだが、前世で自由な人生に憧れを抱いていた彼は、王太子になりたくないということでいろいろと画策を開始する。  しかし、圧倒的な才能によって周囲の人からは「次期国王はこの人しかない」と思われてしまい、ますますスローライフから遠のいてしまう。  そんな彼の自由を手に入れるための戦いが今始まる……。  ※この作品はアルファポリス・小説家になろう・カクヨムで同時投稿されています。

異世界貴族は家柄と共に! 〜悪役貴族に転生したので、成り上がり共を潰します〜

スクールH
ファンタジー
 家柄こそ全て! 名家生まれの主人公は、絶望しながら死んだ。 そんな彼が生まれ変わったのがとある成り上がりラノベ小説の世界。しかも悪役貴族。 名家生まれの彼の心を占めていたのは『家柄こそ全て!』という考え。 新しい人生では絶望せず、ついでにウザい成り上がり共(元々身分が低い奴)を蹴落とそうと決心する。 別作品の執筆の箸休めに書いた作品ですので一話一話の文章量は少ないです。 軽い感じで呼んでください! ※不快な表現が多いです。 なろうとカクヨムに先行投稿しています。

処理中です...