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幼少期

66 ゲルハルディ領へ向かう・前編(ローズマリー視点)

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 私の名前はローズマリー・フォン・エルメライヒ。エルメライヒ公爵家の唯一の子供であり、成長すればエルメライヒ公爵家を背負って立つ女よ。
 まあ、エルメライヒ公爵家は曾お爺様の代に創られた家だから、4代目になる私が継ぐときには伯爵家になってしまうのだけどね。
 とはいえ、現在は公爵令嬢であることは変わりないし、私のやることはすべてにおいて肯定されるのよ。

 と、思っていたのだけど、現実はそこまで甘くはないって最近になって思い知ったわ。
 そうね、ケチがついたのはお父様が急に王都に向かった時からかしら。
 いつもは王都から参集の報せが届いてもお母様と離れるのが嫌なお父様は渋々準備をするのだけれど、あの時は子飼いの情報屋からの報せを聞いた途端に王都に向かっていったのよね。

 あとから聞いた話なのだけれど、どうも辺境の地で新しくダンジョンが攻略されたらしくて、その攻略者が王都に向かった報せだったのですって。
 帰ってきたお父様に詳しく話を聞くと、ダンジョン攻略者は私と同い年の男の子で、利発そうな子だったから貴族学園に入学したときには私のお友達になってもらうように頼んできたのだって。
 確かに私には同年代のお友達がいないし、貴族学園に入学してもお話しできるか心配だったけれど、それにしたって過保護過ぎない?

 それに、私と同い年でダンジョンを攻略したって、どう考えても嘘でしょう?
 私は公爵家にくる家庭教師から教えてもらって知っているけれど、ダンジョンの攻略者はここ100年現れてなくて、新しくダンジョンを攻略したら『勇者』って称号を貰えるほどらしいの。
 でも王都まで直ぐの公爵領でも勇者がお披露目されたなんて話は聞かないし、そもそも100年も誰も攻略できなかったダンジョンを同い年の男の子が攻略できるなんて信じられない。

 お父様にはそう言ったのだけれど、お父様が言うには国王様が直々に調べられたことで、間違いない、勇者の称号は攻略者の男の子が辞退したんですって。
 なんで? 勇者と言えばこの国どころか周辺諸国でも崇められる称号で、国王様と同格として接する権限が与えられるのに、それを辞退した?
 ふ~ん、面白いじゃない。確かにそれほど面白い男の子なら辺境の人間でも、公爵令嬢である私のお友達としてふさわしいかもね。

 でも、本当にふさわしいかどうかはきちんと会って確認しないと。お父様も、いつも重要な人とは直接会って目を合わせて、それから信じるかどうか決めろと言っているし。
 というわけで、私は早々に侍女たちに準備をさせて馬車でその男の子のいる、ゲルハルディ伯爵領に向かうことにしたのよ。
 ま、ちょうどいい機会よね。お父様も私の婚約者候補は辺境伯から選ぶって言っていたし、その男の子……マックス・フォン・ゲルハルディが婚約者になるかも。

 馬車の旅は私が思っていたよりも辛いもので、いつもの公爵領への遊びと違って何日も何日も馬車の中でじっとしていることになったわ。
 公爵領では道が整備されているから馬車もそれほど揺れなかったのだけど、辺境に向かうにつれて道が悪くなっていってどんどん揺れが激しくなっていくのには辟易したわ。
 まあ、護衛に聞いたらこれでもよくなった方で、昔はそれこそ道すらなかったというのだから驚きだわ。

 そんな感じで侍女や護衛に囲まれながら、馬車旅を続けているとお父様からの命令を受けた伝令が私を連れ戻そうとやってきたわ。

「ローズマリーお嬢様、エルメライヒ公爵様から直ぐにでも連れ戻すように命を受けています」

「いやよ。せっかくお友達に会えるのに。それに、ここまで来て戻れって、今までの苦労がバカみたいじゃない」

「ですが、先方には先触れも出しておりませんし、いきなり行ってもゲルハルディ伯爵も驚くでしょう」

「はあ? 公爵令嬢である私が行くのよ。喜ばれるに決まっているでしょう? ……ねえ?」

 私が公爵領にある伯爵家に向かえば、家を上げて盛大に歓待するのが日常……だからこそ、いつも私の言うことに頷く侍女にも聞いてみた。

「……お嬢様、僭越ながら。そちらの使者殿の仰ることはもっともです。ゲルハルディ伯爵家はエルメライヒ公爵家との繋がりはないので、急に向かっても驚かれるでしょう」

 え? なんで? いつもなら、そうです、お嬢様の言う通りです。って答えるじゃない? なんで今日は違うの?
 あれ? でも、確かにこの旅を始める前にも侍女にはお父様に相談するように、ゲルハルディ伯爵へ来訪のお手紙を出すようにと言われていたわね。
 え? もしかして、私なにか間違えているの?
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